文部科学省は「学力の3要素」として認知能力と情動的な能力を合わせて「学力」と位置付ける。知識や技能を用いて思考・表現・判断する認知能力も大切だが、学習に向かう気持ちや主体性、やり切ることなどの情動的な能力も大切であるということだ。これらの認知能力、情動的な能力をバランスよく養うことが重要であり、今回の大学入試改革でこれらの「学力」(学力の3要素)をすべての入学者選抜で課すことを求めた。
ところが情動的な能力は得点化しにくい。これまでも総合型選抜などで「志望理由書」を提出させて評価していた大学はあるが、合否への寄与度は如何程のものなのだろうか。そもそも何を高く評価して有意差をつけて得点化するかは難しい。だから大学も後ろ向きになる。考えようによっては、高い学費を払い、多感な4年間を大学で過ごそうと進学を志願するだけで十分にやる気があると判断できると言えなくもない。
そうこうしているうちにも少子化の波はとめどなく打ち寄せる。「定員割れ」「無選抜化」に追い込まれる大学はますます増えてくる。大学進学率は50%台後半で高止まりしており、急に進学率が上がって受験人口を増やすことは期待できない。既に大学を「高等」教育と呼ぶことに抵抗を感じる状態でもある。今後、選抜機能を保持できる大学はどれほどあるだろうか。全米では選抜機能がある大学は10数%と言われており、そこに向かうと考えられる。2021年度の高校入試では人口減により志願者減少、定員割れが其処彼処にみられた。この状況が大学入試でも3年後に起こる。いまの高校3年生、2年生と生徒数は2万人ずつ減るが、さらに1年生では4万人の減少だ。
逆に中学3年生の生徒数は増加しているから、大学入試改革が完全実施され、大きな変化が起きる2025年度入試の受験生は増える。そのため送り手側の高校では、3年生、2年生と1年生の進路指導は大きく変えることになる。そこでこうした変化を見据えた対応ができた高校とそうでない高校とでは、進学実績に大きな違いが出ることは間違いない。反対に受け手側の大学でも、2025年入試が将来の改革の大きな試金石になることも間違いない。
どう変わる?大学の個別試験
新課程に応じた問題作りには、問いの連鎖に代表されるように受験生の探究的な思考の流れを日常や課題解決の中で捉える必要がある。記述式や論述式であれば作題しやすいが、マークシート方式のような多肢選択型では高度な作題能力が問われる。各大学の個別試験を作題する大学関係者にそうした余裕はあるだろうか、そして高校現場もこうした出題に対応できるか。大学の作題能力は、オーバードクターの頃に予備校の模擬試験で作題の修行を積んだ教員たちが既に定年退職しており、大きく後退していることも気になる。
こうした状況の中で受験生に確かな学力を求めるのであれば、積極的に共通テストを活用すべきというのが筆者の意見だ。個別試験では共通テストでは測定できない学力等を問う。共通テストと代わり映えしない出題をする私大は再考し、作題に要するマンパワーを教育に向けるべきである。大学における教育でも少人数での議論
やプロジェクト型学習が求められており、これまで以上に人的コストがかかるのだ。
注目すべきは2021年度で選抜方式を変えた早稲田大政治経済学部である。学校推薦型でも共通テストを必須とした。個別試験では総合問題を課す。志願者が大きく減っても良い入学者を確保できたのではないだろうか。
教育ジャーナリスト、本誌編集委員 後藤 健夫
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