【特集】コロナに負けず、未来へつなぐ体育祭のバトン…湘南学園 – 読売新聞

基本問題

 湘南学園中学校高等学校(神奈川県藤沢市)は5月20日、第17回新・体育祭を開催した。昨年はコロナ禍のため、高校1、2年だけでの開催を余儀なくされたが、今年は競技者以外が教室でライブ観戦するなど、感染予防を徹底することにより中高合同開催を実現した。昨年の経験を引き継いで運営に生かした体育祭実行委員会の生徒たちや、生徒会指導主任の教諭に話を聞いた。

「密」対策で競技者以外はライブ配信を見て応援

「1か月程度の準備期間で、よくまとめ上げた」と実行委員を評価する生徒会指導主任の田中先生

 同校は、体育祭、学園祭、合唱コンクールを三大行事と位置付けており、いずれも企画・運営は生徒主体で行っている。なかでも毎年5月に開催している体育祭は、中1から高2の生徒が縦割りでつくる青、赤、黄、緑、黒の5色のチームで勝敗を競っており、学年を超えて親交を深める重要な学校行事となっている。

 体育祭では例年、5学年の生徒で体育祭実行委員会をつくり、企画や運営を行う。委員会には、委員長、副委員長、書記、会計の4役と、保健、決勝審判、招集、得点、用具の五つの係があり、総務委員会(生徒会)も運営のサポートに入る。また、高2の男女各2人が各色のリーダーを務め、チームをまとめる。

 競技のプログラムや進行スケジュールも、実行委員会が作成する。中学の学年競技は1年が学年リレーと決まっていて、2、3年は生徒たちで競技を考える。高校では男子の「騎馬戦」、女子の「竹引き」、男女混合競技で先に女子が綱引きをして、男子がトラックを走った後に女子の加勢をする「助けて綱引き」が、恒例の種目だ。

体育祭パンフレットの表紙デザイン

 昨年も、当初は5学年での開催を予定して体育祭の準備を進めていたが、新型コロナウイルス感染症の影響で開催が延期され、さらに直前に感染者が出たため、一度は中止になった。しかし、実行委員会が学校と協議し、10月の平日午後、高校1、2年だけという条件で開催にこぎつけたという。「当時の高校2年生が異例の形でも開催にこだわったのは、翌年、1年生がリーダー学年になった時のことを考え、バトンをつながなければいけないという強い思いがあったからです」と、生徒会指導主任の田中清章先生は話す。

 今年度、実行委員長を務めた大井
祐来(ゆうな)
さん(高2)は、「体育祭の方向性などを決める時に、昨年の経験がとても役に立ちました」と話す。「でも、高校生だけの体育祭はやはり寂しく、楽しみにしていた中学生に対して、申し訳ない気持ちもありました。だから今年は、どうしても中高一緒に開催して成功させたかった。そのためにもコロナ対策を万全にすることが重要で、会議でも一番多く話し合いをしました」

 田中先生も生徒たちの「伴走者」として、「今年は安心安全が最優先だったので、『全員がグラウンドで観戦するのは可能だろうか』などと、問いかけをしたりしました」と言う。

 話し合いを重ねて委員会が打ち出した方針は、グラウンドにいる生徒の人数を抑えるために、競技の時以外は教室に戻り、プロジェクターで投影されたライブ配信を見て応援することだった。また、手指消毒をする委員の配置や、拍手による応援の指導なども実施要綱に盛りこんでいった。

グラウンドと教室を混乱なく速やかに入退場

応援合戦「アトラクション」を盛り上げる手作りの「オブジェ」

 今年の体育祭のスローガンは、「Brave Heart(勇敢な心)」だった。実行委員たちは、「コロナ禍でも、一人一人ができることを見つけ、勇気を持って体育祭に臨もう。体育祭に限らず、諦めない心を持ち続けよう」という意味を込めたという。

 当日はグラウンドで、リレー、騎馬戦、竹引きなどの恒例種目が中高5学年縦割りの色ごとに競われたほか、中2のボール運び、中3の4種類の障害物競走なども行われた。また、応援合戦「アトラクション(ダンス)」と、アトラクションを盛り上げる手作りの「オブジェ」も熱が入ったという。競技の得点とは別に、アトラクション賞が設けられ、各色で競い合う。例年は各色約200人の生徒がグラウンドに出て、7分の持ち時間の中で、さまざまなアトラクションを繰り広げるが、今年は上限を70人にして、途中で入れ替わりながらメドレー形式で行った。

 生徒たちは、競技が終わるごとに出場者と入れ替わって速やかに教室に戻り、ライブ配信を見ながら応援した。頻繁な移動があったものの、大きな混乱はなく、
(おおむ)
ね予定通りに進行したという。

プロジェクターに投影されたライブ配信を見て応援する生徒たち

 黒組リーダーの井口佳祐君(高2)は、「次の競技に出場する生徒を誘導するのは、リーダーの役目でした。一度、中1の招集に遅れてしまいましたが、その時は他の色のリーダーが、『黒組も整列させておいたよ』とサポートしてくれました」と話す。「200人をまとめるのは責任もあって大変でしたが、周りの人も巻き込み、なるべくみんなの要望に応えるようにしました。後日、花束と似顔絵入りのメッセージをサプライズでもらった時はうれしかったです」

 アトラクションやオブジェを先導して作っていくのも、リーダーの役割だ。黄色組リーダーの小林徳子さん(高2)は、「ダンスを練習する時も『密』を避けていたので、全体の動きを確認するのが難しかった」と話す。5月は雨天が続き、グラウンドでのリハーサルを一度も行えなかったというが、本番の出来は良かったそうだ。「後輩たちも自分から練習をしていて、日に日に団結力が強くなりました。私自身は責任感が強くなったと思います。ミスをしても誰かに助けを求めるのではなく、自分から改善するようにしました」

 総務委員として、体育祭の仕事をサポートしてきた小池
正良(まさら)
君(中2)は、「先輩たちの指導力に感心しました。自分は学ぶ立場でしたが、ただ指示を待つのではなく、『何かできることはありませんか』と聞いて、手伝うように心がけました。この経験を次に生かしたいです」と抱負を語った。

自分たちで課題を解決してこそ生徒主体の行事

 実行委員長の大井さんは、「体育祭を開催するまでには、実行委員、リーダー、学校、それぞれの意見が異なることもありました。その調整をして、自分でも意見を出して、それが通った時は、今までにない達成感でした。体育祭を通じて、自分が成長した気がします」と振り返る。

 今年度の体育祭を作り上げた実行委員について田中先生は、「1か月程度の準備期間で、感染予防にも気を配り、よくまとめ上げたと思います」と評価する。「最初から学校が指示を出していれば、物事はもっとスムーズに進んだでしょうが、それでは自分たちの言葉で、一般の生徒へ伝えていくことはできません。たとえ遠回りをしても、自分たちで解決策を考えることが大切ですし、それでこそ生徒主体の行事と言えるのだと思います」

 ただ今回は、午前のスケジュールが少し押してしまったため一部のプログラムを削ったり、段取り不足で、中1の学年リレーのアンカーがゴールの位置を間違えたり、といった反省点もあった。こうした課題や気付きは、来年の実行委員に申し送りをするという。コロナ禍でも、『自分たちで作る体育祭を途絶えさせない』という先輩たちの思いとともに、しっかり後輩たちへ引き継がれていくだろう。

 (文:北野知美 写真:中学受験サポート 一部写真提供:湘南学園中学校高等学校)

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