中学受験を考えるときに無視できないのは塾や学校の費用だ。中学を卒業するまでにどれくらいの出費があるのか。AERAムック『偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び2022』では、人気のファイナンシャルプランナーに家計の見直しポイントとともに解説してもらった。
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中学受験に臨むにあたり、費用のリサーチは必須事項の一つだ。ファイナンシャルプランナーの前野彩さんはこう話す。
「特に中学受験では、入試の前とあとにかかる金額をしっかりと把握することが大切です。その額をもとに、家計から受験に使える予算を具体的にイメージしておきましょう」
中学受験から卒業までの数年間では、大きく分けて三つの支出がある。
一つ目は塾代と検定料だ。中学受験をする場合、入試に向けたカリキュラムの開始時期や、それに伴う学習量の増加などを踏まえ、小学4年になる前から塾に通うケースが多い。総務省の「小売物価統計調査(2020年)」によると、東京都区部の学習塾等の補助教育(小学校)の月額は平均3万6273円。単純計算で小学3年次の2月から3年間通い続けたと考えると、計130万5828円になる。
出願の際に学校に納入する検定料もある。東京都の発表によると、21年度の都内私立中学校の検定料は、平均2万3365円だった。昨今の中学受験においては「7校出願、5校受験、3校合格」という「7・5・3」が代表的な考え方の一つ。7校に出願する場合は、合計16万3555円の出費となる。
二つ目は1年次の学校教育費。文部科学省の「平成30年度子供の学習費調査」では、私立中学校の場合、入学金を含む学校納付金、授業料、制服代、学用品などの支出として、平均133万9128円という額を算出している。
三つ目は中学2、3年次の学校教育費だ。文科省によると、2年間で187万2742円を納付する見込みとなる。
■支出の見直しが大きなポイント
ここまでの数字を合わせると、塾代と検定料、中学3年間の学校教育費の合計は468万1253円にも上る。この金額を準備するにあたり、前野さんは「家計の支出の見直し、なかでも、固定費の見直しは大きなポイントになります」と言う。受験生のいる家庭では、塾代をはじめとした定期的な教育費が発生する。だからこそ、通信費、光熱費、保険料といった固定費に目を向けるべきなのだという。
「最近は、スマートフォン、ネット環境、動画サービス、衛星放送の契約など、通信費が高額になっている家庭が多いです。収入が高い家庭ほど、プランの確認と見直しを軽視する傾向がありますが、月々数千円から2万円前後の出費を抑え、コツコツとためていけば、受験や入学時にかなり役立つはずです」
保険料にも見直すべき余地がある。前野さんは、保険の内容やプラン、価格よりも、その必要性の是非を検討することが重要だと説明する。
「『何かあったときに安心だから』という感覚で保険に加入している人が少なくありません。死亡保険や医療保険は、遺族年金、傷病手当金、障害年金などの知識を得て、国の制度を使うことで、今よりも節減できる可能性があります」
■大切なのは教育費の上限を決めること
中学受験に臨む家庭で、何よりも重要な準備は予算の設定だ。前野さんはこう話す。
「各家庭で教育費の上限を決めるのはとても大切なこと。住宅費や教育費を借り入れることはできますが、老後の資金にローンはありません。『子どもの勉強のために』と教育費を“聖域”にし、お金をつぎ込み続けた結果、将来の老後資金で困るのは親です。事前に準備が可能な金額を見極め、予算をしっかりと設定すべきです」
中学受験のための塾に通う場合は月謝に加え、夏冬の講習や特別授業、模擬テストなどの費用も発生する。入試が近づくにつれて膨れ上がる塾代に歯止めをかけるためにも、親の決断が必要になる。前野さんが言う。
「『一つの講習、1科目の授業料の出し渋りが不合格につながったら……』。親は、このような不安を抱えることもあると思います。それでも、無条件にすべてを受講していては、際限なく費用がかさんでしまいます。中学受験とともに、高校や大学への進学、さらには自分たちの老後のことも視野に入れましょう」
■教育支援制度を積極的に活用する
教育費の計画的な捻出においては、国や自治体の支援制度も見逃せない。たとえば、私立小中学校等就学支援。年収をはじめとした要件を満たすことで、児童1人あたり年額10万円が支給される。自治体独自の支援制度もあり、積極的な情報収集が欠かせない。
学校が独自に設ける制度にも注目すべきだろう。前野さんは次のように指摘する。
「近年では、『特待生制度』を取り入れる私立中学校が増えています。合格者に入学金や授業料を免除する特典を与える制度で、選出基準や免除内容は学校によってさまざま。早めに情報を調べましょう」
対象は高校生ながら、教育無償化を実現する高等学校等就学支援金制度は、子どもが小学生の段階から認識しておくべきだ。判定基準を満たすことで、年間で11万8800円、または39万6000円が支給される。「この判定に大きく関与するのが、前年の住民税です」と前野さんは説明する。
「住民税をもとに計算されるため、住民税の課税標準を抑えることで、約40万円の支給要件に滑り込める可能性もあります」
住民税を抑えるために「子育て世帯こそ注目」と前野さんが挙げるのが、老後資金として一定金額を積み立てていくiDeCo(イデコ)だ。
「iDeCoで積み立てを行うと、所得控除が使え、税金を抑える効果も見込めます。老後資金として注目されることの多いiDeCoですが、教育費の節約にも役立つ可能性が大いにあります。支援制度とともに税制の仕組みなどにも目を向けてみてください」
大学進学までを想定する場合、前野さんが提案するのは児童手当をベースにした計画的な積み立てだ。児童手当は世帯主の年収が約960万円以下の場合、第2子まで子ども1人につき、3歳未満には月額1万5000円、3歳以上中学生までは月額1万円が支給される。前野さんは続ける。
「児童手当のすべてを積み立てると、約200万円になります。同時に、子どもの誕生から18歳まで、毎月1万円の積み立てを続けると考えてみてください。すると合計216万円となり、児童手当と合わせて約420万円がためられる。子どもが18歳の時点で、400万円が目安と言われる私立大学資金の積み立てを実現できることになります」
祖父母に教育費を援助してもらう場合は、贈与税に注意したい。年間110万円以下の贈与であれば税金はかからず、1500万円までの教育資金の一括贈与の際には、贈与税が非課税になる制度もあるので、こうした仕組みを認識しておこう。
■各家庭に見合ったマネープランを組む
前野さんは、「さまざまな情報をリサーチし、それをもとに家庭の方向性を決めていくのがおすすめです」と言う。
「私立中学の学校教育費は、月単位で10万円近くの額が必要になります。きょうだいがいる場合は合計で約20万円。共働きでも、決して簡単に出せる額ではありません」
各世帯における計画性の大切さについて、前野さんはこうアドバイスを続ける。
「お金に関わる問題で子どもを転校させるようなことは絶対に避けたいですよね。親の務めを果たすためにも、いつ、どこで、どのようなお金が必要になってくるのか、学校や受験に役立つサイトなどを参考に、これからの情報をしっかりと把握する意識を持ち、各家庭に見合った計画を組むことを心がけましょう。
※本文内の金額は主に文部科学省による「平成30年度子供の学習費調査」に準じています。
前野 彩さん
ファイナンシャルプランナー
株式会社Cras代表。香川県で中学校・高校の養護教諭を務めたあと、2001年にファイナンシャルプランナーに転身。著書に『教育費&子育て費 賢い家族のお金の新ルール』(日経BP)や『本気で家計を変えたいあなたへ』(日本経済新聞出版)など。
(文/磯田智見)
※AERAムック『偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び2022』より
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