アフターGIGA、端末活用で「学び方」を学べの真意 | 東洋経済education×ICT – 東洋経済オンライン

花のつくりとはたらき

2021年4月、教育現場の不安と混乱で始まったGIGAスクール元年。今、学校ではどのくらい端末の活用が進んでいるのか。その進捗を振り返りながら22年度以降に予測される3つの動向について、学校教育の情報化に造詣が深い東北大学大学院情報科学研究科 教授の堀田龍也氏に話を聞いた。

新学習指導要領で「学び方」が重視される理由と問題点

――コロナ禍で前倒しになったGIGAスクール構想をどのように見ていますか。

本来、4年がかりで進めるはずが、新型コロナウイルスの感染拡大によって1年で「1人1台端末」とネットワーク環境が整備されました。そのため学校現場ではそれなりに混乱が見られましたが、世界でも類を見ないスピードで整備されたことは評価できると思います。しかし、整備だけで子どもたちに端末の活用能力がすぐに身に付くわけではありません。ですから、2021年度は「とにかく使ってみよう」が学校現場でのスローガンになっていました。私の体感では、3割くらいの学校はベーシックな活用を経験済みで、次はどうするかという段階に来ています。あとの7割くらいはまだ試行錯誤中という感じですね。

ICTの活用スキルは、水泳みたいなものです。水に入って泳がなければ、泳げるようにならないのと同じで、端末の活用を躊躇している学校もどんどんチャレンジして使っていくしかありません。今回の新学習指導要領の要点は、情報活用能力を学習の基盤となる資質・能力と位置づけ、教科横断的に育成すること。子ども目線でいえば、国語や算数といった教科の内容と同時に、ICTも用いた「学び方」、つまり「〇〇の仕方」を学ぶということです。

例えば、理科の実験を行って、その結果をプレゼンテーションソフトを使って報告する学習活動を考えてみます。そのとき教科内容を学びつつ、自分が学習したことを整理する仕方やアイデアのまとめ方、どんな言葉を使い、どんな写真や表を選び、どうレイアウトするかといった表現や伝達の仕方などを学びます。大型掲示装置に表示されたスライドを見ることで、自分のレポートがほかの子とどう違うのかという比較の仕方も学びます。

ひとたび「学び方」が身に付けば、その力は生涯にわたり発揮していくことができます。社会人になって資格試験の勉強をしたり、大学でもう一度学び直したり、人生100年時代ではいろいろな局面が訪れます。その過程で、学び方が身に付いていないと次のステージに行けないおそれがあります。だからこそ、子どもたちは学校で先生にすべてを教えてもらうのではなく、自分自身で考え、いろんなリソースから学ぶ経験を増やしていくことが必要なのです。

ただ、「学び方」を身に付けるうえで課題もあります。今の教育職員免許法は、各教科の内容で教員免許状を授与しています。これだけ大切なICTの活用は「学び方」であっても教科ではないので、それを教える免許はありません。先生たちも「学び方」を教える専門スキルを習っていないので、それぞれが工夫して教えているのです。

また、例えば小さな町の小さな中学校には、理科と国語の先生しかいなくて、理科の先生が数学も教えていることがあります。優れた数学の先生がオンラインで教えればいいじゃないかと思うかもしれません。でも、現行の法律では、実際の教室にその教科の免許を持った先生がいなければ授業時数として認めていません。

これまでの制度が時代に合わなくなっていることは歴然です。ですので、22年度は過去に構築された仕組みが生んでいるさまざまな歪みを再検討し、規制緩和の方向へ進むのではないかと思っています。

ビッグデータの取り扱いがデジタルコンテンツ普及の足かせに

――教育制度の更新が22年度の1つのポイントになるわけですね。ほかにどのようなことが起こりうるでしょうか。

「1人1台端末」の配布が終わり、活用が進んでいけば、次に来るのはコンテンツ、つまりデジタル教材やデジタル教科書の活用をどうするかという議論になります。

デジタル教材・教科書は単に紙媒体を電子化したものではありません。大きな違いは、子どもたちの各自の学習履歴(ログ)が電子的に記録され残ることです。学習の進捗状況が可視化できるので、これまで先生が勘と経験で判断していたことが、科学的に学習分析(ラーニングアナリティクス)に基づく判断で指導できるようになります。例えば、ある単元でつまずいている子がいれば、いち早く先生がフォローできるし、理解が早い子は次のステップへ進めるといった具合に、個別最適な学びへどんどん近づけるのです。

また、ログが大量に蓄積されビッグデータとなり、それを解析することを通じてコンテンツの中身が見直され、より理解しやすいものに改善されるという利点もあります。将来的にはAIによって最適な教材が瞬時に提案・提供されることになるでしょう。そのとき、学校で使うデジタル教材は学習した量に応じて課金されるサブスクリプション制になるかもしれません。

「1人1台端末」整備後は、デジタル教材やデジタル教科書の活用、ラーニングアナリティクスの実用化へ

デジタル教科書については、21年度に国が予算をつけて希望する学校設置者に対して、小学5年生から中学3年生まで各学年1教科のみ配布しました。実際の導入は4割程度にとどまりましたが、22年度は教科数を増やし英語を最優先として全学校に配布する見通しとなっています。

ところが、ここにも問題があります。個別最適な学びを可能にするためには、大量に蓄積されたログをビッグデータとして活用することが不可欠です。しかし、その前提となる教育データを統一した規格にそろえる「標準化」や、個人情報に関わるログの管理をどうするかについては、まだ議論している最中です。ただ、私はデジタル庁が創設され、政府共通のクラウドサービス「ガバメントクラウド」の利用が前進したことで、22年度が初等中等教育におけるラーニングアナリティクスの実用化のターニングポイントになるとみています。

高校で「情報」が再編、25年共通テストで出題教科になった意味

――22年度は、高等学校でも新学習指導要領がスタートします。

高校には共通教科の「情報」があり、今は「社会と情報」と「情報の科学」のいずれかを学校が選ぶ選択必履修科目になっています。22年度からの高校の学習指導要領では、これが基礎的な内容を扱う全員に対して必履修となる「情報Ⅰ」と、さらに難しいことを学んでいく選択科目の「情報Ⅱ」に再編されます。「情報Ⅰ」ではプログラミングやデータサイエンスなど、いわゆる理系寄りの内容を文系の生徒も学ぶことになります。

しかも、この「情報」は25年1月に行われる大学入学共通テストの入試科目になりました。大学入学共通テストでは、音楽や美術などは入試科目ではありません。その道に進みたい人が頑張る教科という位置づけです。「情報」が大学入学共通テストの入試科目に加わったことは、「情報」が大学進学のために数学や国語、英語などと並んで一通り学ばなければならない教科になったことを意味します。

今、地域によっては、「情報」の授業を専門学校の先生などが非常勤講師として教えている例も多く見られます。この際、正式に採用しようという動きが全国的に起こったら、人材の争奪戦が始まります。人材不足解消のために、IT企業の社員に教えてもらってはどうかという話に発展しそうですが、皆さんお忙しいので授業はやはりオンラインでということになり、ここでまた免許法が立ちはだかるかもしれません。

――GIGAスクール構想が始まったことで、解決すべき教育制度の問題がいくつも同時に噴出しました。そのうえ大学入学共通テストに「情報」が入ることで、ICTの活用に対して懐疑的だった人も見方を変えざるをえなくなりそうですね。

とくに高校の先生たちの認識は大きく変わると思います。大学では1年生でAIやデータサイエンスを学ばなくてはなりませんが、高校時代にあまり「情報」を学んでこなかった子たちは授業についていくのが難しかったり、ICTの不適切な利用に走ったりといった困った状況が起こっています。

小中学校でのICTを活用した学びの経験が、高校の「情報」で再整理されることで情報社会の仕組みや技術が理解できるようになり、大学の入試科目として取り組むことになるという流れ。さらに言うと、高校で「情報」に興味を持った子たちが大学の専攻でコンピューターサイエンスやテクノロジーを選び、Society5.0の社会で活躍する社会人になるという、高大接続という話にもつながるということの重要性を、先生たちにしっかり認識していただきたいと思います。

――​GIGAスクール2年目で、先生たちはどう自己改革をしていけばいいのでしょうか。

いちばん大事なのは、教育現場に立つ先生たちが経済や産業、法律など世の中で起きていることにもっと興味を持つことです。なぜなら時代が変わり、先生たちが子どもだった頃に受けてきた教育と、今の子どもたちが受けなければいけない教育は別物になってしまったからです。

ずっと上向きだった日本という国が、近年下向きの、何とかこらえなければいけない状況に陥っています。少子化で若い世代の一人ひとりの生産性を上げなければ世の中が回らなくなる、高齢者が働けるような職場をテクノロジーを使って用意しなければならない、そんな時代がもう始まっていて、これからますます加速していきます。

日本人のまじめさ、知識などは世界で通用すると思いますが、それがデジタルに乗らない限り役に立ちません。今、教師という職を得ている人たちの多くが、学校という居心地のいい場所で感動的な体験をしたことで先生になったのだと思います。しかし、紙と鉛筆で学んできた自分たち世代を、今後もそっくりそのまま再生産するわけにはいきません。その自覚を持つためにも、ぜひ学校の外に目を向け、世の中がどうなっているのか、これからどうなっていくのかに関心を持ってほしいですね。

堀田龍也(ほりた・たつや)


東北大学大学院情報科学研究科 教授、東京学芸大学大学院教育学研究科 教授


1964年熊本県生まれ。86年に東京学芸大学教育学部を卒業し、87年に東京都公立小学校の教諭として勤務。2009年東京工業大学より博士(工学)授与。文部科学省参与、玉川大学教職大学院教授などを経て、14年より現職。中央教育審議会・委員、文部科学省情報活用能力調査に関する協力者会議・主査、同デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議・座長、同教育データの利活用に関する有識者会議・座長、内閣官房教育再生実行会議初等中等教育WG・有識者などを歴任

(文:田中弘美、写真:尾形文繁)

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