【特集】新図書館完成、進学型教育を推進する拠点へ…日工大駒場 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 日本工業大学駒場中学校・高等学校(東京都目黒区)で9月末、従来の2倍の蔵書収容数や斬新なデザインを誇る新図書館が完成した。今年度、普通科専一校としてスタートを切った同校を象徴する施設だといい、言語教育や探究教育の拠点として、さらには入学試験への活用にも役割が期待されている。新図書館を通じた教育活動と今後の展望について、藤森啓教頭に話を聞いた。

デジタルの時代だからこそリアルな空間の図書館を

新図書館を通じた教育活動や、利用の構想を語る藤森教頭

 同校は、2008年度に共学の中高一貫コースを設けて普通科・進学型の学校へと改革を進め、今年度、工学科の生徒募集を停止して中高ともに普通科専一校となった。これに時期を合わせて行われたのが図書館のリニューアルだ。これまで100周年記念ホールの地下にあった図書館を、本館1階のエントランスに移し、内容・デザインとも大きく刷新した。藤森教頭は、「普通科専一化の実現は、創立以来最大の改革です。新図書館を工業系の学校からの脱却と、進学校として新たに出発するための象徴にしたい」と話す。

 新図書館は、可能な蔵書数をこれまでの2万冊から4万冊へ倍増した。蔵書の構成も大きく変え、旧図書館にあった工学系の本を減らす一方、学問的な裏付けのある良書を選定して探究学習に使用する本などを増やす。さらに視聴覚資料やデジタル資料も適宜取り入れ、電子図書システムも導入していく予定だ。

 新図書館は開架部分が約270度の扇形となっており、扇の要部分と、弧に当たる場所には書棚が設置され、座席のある七つの長机が放射状に広がっている。その末広がりの配置は、同校が発展していく様を象徴しているそうだ。また、廊下に面した壁はガラス張りとして開放感を演出する一方、内装には木材をふんだんに使い、穏やかな照明を使って落ち着いた雰囲気を作り出している。

 藤森教頭は、「社会のデジタル化が進行し、仮想空間が人々の意識の多くを占める時代だからこそ、生徒たちにはリアルな空間が必要だと考えています」と語る。「木の温もりに包まれた環境で、良質の情報を用いる訓練と習慣付けをする、紙の本による読書の心地良さを体験する、深く冷静に考えたり感じたりする時間を持つ、そのような役割を新図書館は担っています」

豊かな読書体験と質の高い探究学習の場に

開放的で落ち着いた雰囲気の新図書館

 同校は、「生きる基盤としての『言語教育』」や「AI時代を生きる力を培う『探究』」などを教育実践の柱としている。「言語教育」の中心となる「国語教育」では、能動的な読書体験を重視し、中1から高2で、「日駒Active Reading Program(ARP)」を実践している。学年別に設定した課題図書を読み、リポートを書く取り組みであり、課題図書は国内外の小説、評論、エッセー、詩歌、古典など幅広いジャンルから選んで、「にちこま文学全集」というオリジナル読本にまとめている。

 「新図書館では、より充実した読書体験ができるようになります。文芸作品などは、積極的に登場人物に感情移入して読み込んでほしいですね。そして、自分の言葉で表現する力を磨いてほしい。読書は生徒たちの読解力や思考力、豊かな情緒を養っていきます。新学習指導要領の実施により、文芸作品を読解する機会は、特に高校では、国語の授業から除外されてしまうので、本校ではARPを通じて、普段から文芸作品に親しむことを推奨しています」と、藤森教頭は話す。

 総合的な学習の時間・探究の時間では、これまで以上に図書館を利用した学習が増える見込みだ。「特に中高の『理数探究』と高校の『ゼミナール人文社会・自然科学』には、質の高い資料が必要です。また、生徒たちが情報を得るのに、安易にネット検索で済ませないためにも、最初は図書館の資料を使わせたいと考えています。そしてもっと調べたい時に、第2の資料として、インターネットを利用する。その時も情報の精度や偏りなどに注意するよう指導していきます。本校の生徒は各自タブレット端末を持っていますが、複数の資料を見て、考えたり、リポートにまとめたり、友達と意見交換するには、紙の資料を用いたほうが、効率が良い。紙はデジタルよりも、目に飛び込んでくる情報量が多いという説もあります。いずれにしても、これからは両方をうまく使いこなすことが求められるでしょう」

入り口に設置された「日駒図書館」の看板

 「理数探究」では、校外に出て自然や生物、地質を観察したり、「筑波実験植物園」や「JAXA筑波宇宙センター」を訪れて見学をしたり、多くのフィールドワークを実施しており、その事前学習にも、図書館が有効活用される見込みだ。

 探究学習では、図書館をハブにして課題について調べ、話し合い、考えをまとめ、発表するという一連の学びを実践していく。理科教諭からは、年間を通じて計画的に、資料探しや論文を作成する期間を設け、卒業研究のような探究を行いたいという意見も出ているそうだ。

 藤森教頭は、授業以外でも、生徒たちに読書や調べ学習、自主学習などで図書館を大いに利用してもらいたいと考えている。「一人でも友人と一緒でも、静かに気持ちを落ち着かせる場、集中力を高める場、知的好奇心が刺激され、普段得られないような発想力をもたらす場に、図書館がなっていったら良いと思っています」

発表会や入学試験にも活用を広げる

新図書館の見学会で次々と本を手に取る中学生たち

 同校は今後、図書館を発表の会場にすることも検討している。「本校は表現活動を大切にしており、英語で劇やプレゼンテーションをするイベントや、自分の進路について発表する『進路探究発表会』などを、ホールやアリーナを使って行っています。図書館のスペースも広くなったので、本に囲まれた空間を生かして、ビブリオバトルを開催するのも面白いと思っています。クラス単位なら図書館で行えますし、クラスの代表が発表する大会になれば、オンラインで教室とつないで開催するのも良いですね」と、藤森教頭は構想を膨らませる。

 さらに、図書館を使った中学の入学試験の導入も構想中だ。「たとえば提示した課題を図書館の本で調べて、リポートを書くといった内容です。一般入試では測りにくい思考力や表現力などを見ていきたいと思っています」

 新図書館は、新たに「日駒図書館」と命名され、入り口にはヨーロッパ風のデザインの看板も取り付けられた。「本校の最大の特長は、きめ細やかで熱意あふれる教育です。そこに知性を育む新しい図書館が加わりました。さらに日駒の教育活動をパワーアップしていきます」と藤森教頭は抱負を語った。

 (文:北野知美 写真:中学受験サポート 一部写真提供:日本工業大学駒場中学校・高等学校)

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