政府は12月24日の閣議で、一般会計総額107兆5964億円となる2022年度予算案を決定した。文科省関連は総額5兆2818億円。学校関連では、いじめ不登校や自殺者の増加、ヤングケアラーへの支援に対応するスクールカウンセラー(SC)とスクールソーシャルワーカー(SSW)の拡充に過去最高の77億円を計上したほか、小学校の35人学級や高学年の教科担任制導入に向けた教職員の定数改善、教員をサポートする業務支援員や部活動指導員の拡充などを盛り込んだ。学校のICT環境整備では、技術的なサポートを担うGIGAスクール運営支援センターの整備や、全国全ての小中学校にデジタル教科書を22年度中に提供する実証事業に必要な経費などを計上している。
末松信介文科相は同日の閣議後会見で、「厳しい財政状況の中、教科担任制の推進に伴う定数改善をはじめ、教育、スポーツ、文化芸術、科学技術イノベーションの各分野の振興に必要となる予算を確保することができた。補正予算に続き、人や科学技術への投資を重視する岸田政権の姿勢をしっかりと示すことができたと考えている。新型コロナウイルス感染症の影響などで、わが国は依然として厳しい状況だが、今回確保した予算は、まさに未来への先行投資になる」と述べ、文科省として政策遂行に必要な予算を確保できたとの見方を明らかにした。
子供へのサポートを強化
初等中等教育予算のポイントとして、文科省は「子供へのサポートを強化」をまず挙げている=表1参照。いじめ、不登校、自殺者数の増加への対応として、スクールカウンセラーを全ての公立小中学校(2万7500校)に週1回4時間配置した上で、より支援が必要な学校に週1回8時間(終日)以上の配置を可能とする重点配置について、21年度の3600校から22年度には5400校に増やす。また、スクールソーシャルワーカーも全ての公立中学校区(1万校区)に週1回3時間を配置した上で、週2回や週3回の配置を可能とする重点配置を同じく3900校から6900校に増やし、虐待対策やヤングケアラーへの支援などにつなげる。こうした重点配置で合わせて前年度比5億円増で、過去最高となる77億円を計上した。
医療的ケアが必要な児童生徒への支援では、看護職員の配置を21年度の2400人分から22年度には3000人分に拡充する。こうした看護職員の配置は校外学習や登下校時の送迎車両への同乗などにも対応する。この拡充には前年度比5億円増で、過去最高となる26億円を計上した。
幼児期から教育の充実や小学校教育との円滑な接続に向けた「幼児教育スタートプラン」の実現に向け、幼稚園・保育所・小学校の架け橋プログラム事業の新設も盛り込んだ。先導的な12の架け橋プログラムを開発し、全国で幼児教育推進体制を支援するとして、前年度比2億円増の50億円を積み込んだ。
教師の指導環境が変わる
次に「教師の指導環境が変わる」と題して、子供たちの学びへの支援と共に、教職員の働き方改革の推進を念頭に置いた教職員定数の改善や、教員への支援体制の充実をポイントに挙げている。
小学校全学年の35人学級に向けた計画的な整備では、22年度に小学3年生を実施し、このために教職員定数の基礎定数を3290人改善。来年4月にスタートする小学校高学年の教科担任制については、外国語・理科・算数・体育の専科指導を行うために4年間で3800人を改善することで財務当局と一致しており、その初年度分として950人を加配定数として改善する。文科省では、これにより、小学校高学年の担当教員の授業持ちコマ数は週3.5コマ程度少なくなると算定している。
教員への支援体制では、スクール・サポート・スタッフから名称を変更した教員業務支援員を21年度の9600人から22年度の1万650人に拡充する。教員業務支援員は、今年8月の文科省令で学校教育法施行規則の中での役割が明確化され、▽校内や家庭向けの資料の印刷や配布▽採点業務の補助▽来客対応や電話対応▽学校行事の準備補助▽データの入力・集計や掲示物の張り替えなどの作業--を担う。教員の負担軽減を通じた働き方改革を支える重要な人材と位置付けられ、22年度予算案には前年度比6億増で、過去最高となる45億円を計上した。
中学校の部活動指導員については、21年度の1万800人から22年度には1万1250人に拡充される。この経費として前年度比1億円増で、これも過去最高となる13億円を計上。学力向上を目的とした学校教育活動を支援する学習指導員は21年度と同じ1万1000人が22年度にも確保され、予算額も前年度と同じ39億円となった。
教室での学びが変わる
学校のICT環境整備については、「教室での学びが変わる」として、GIGAスクール運営支援センターの立ち上げと、学習者用デジタル教科書を全国全ての小中学校で少なくとも1教科で提供することを柱に置いた。
GIGAスクール運営支援センターは、民間事業者に委託して各都道府県が設置。「十分な通信速度が確保できない」「全員の同時接続ができない」などネットワーク環境の問題をはじめ、学校現場が抱える技術的な悩みに対応するヘルプデスクなどを提供する。センターの立ち上げ費用として21年度補正予算に52億円を計上しており、これに加えて22年度予算では年間の運営費用として10億円を新規に盛り込んだ。
文科省では、運営支援センターを通じて来年3月末までに全国全ての公立学校でネットワーク環境の総点検を行い、それぞれの学校の課題を特定した上で、個別に対応していく考え。一部の学校が光回線の未整備地域に所在しているなど、インフラ上の問題もあることを踏まえつつ、義務教育を行っている全国全ての学校に、災害時などに同時双方向のオンライン授業ができるICT環境の整備を目指している。
デジタル教科書については、21年度に全国の小中学校のほぼ4割で、少なくとも1教科でデジタル教科書を使う実証事業が実現している。文科省では、22年度に、この実証事業を全校全ての公立小中学校に広げることを目指しており、21年度補正予算で措置した65億円に加え、22年度予算案には前年度比1億円増の23億円を計上した。
実証事業の具体的な内容としては、①朗読音声を用いた外国語によるコミュニケーション(英語)②動画や図形等のデジタル教科書と一体的な教材を活用した観察や実験(算数・数学、理科のうち、いずれか1教科)③よりよい生活の実現に向けて工夫する(音楽、図画工作・美術、技術、家庭、体育・保健体育のうち、いずれか1教科)--の3つのメニューを想定している。
こうしたデジタル教科書の関連予算には、クラウド配信による円滑な使用に向けた通信環境などの検証事業や、紙とデジタルの役割分担などの効果検証や傾向・課題などの分析などを行う実証研究、教師の効果的な指導法の研究などの経費も含まれている。
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