- 編集部:体育学部の「こどもスポーツ教育学科」は、どんなことを学ぶ学科なのですか?
- 編集部:体育学部の中に教育学科を設けたのには、どのような意味があるのでしょうか?
- 編集部:先生のご専門は音楽ですよね。ここではどのような授業を担当されているのですか?
- 編集部:ゼミも教えてらっしゃいますよね。ゼミではどんなことを学ぶのですか?
- 編集部:具体的には、どのような研究テーマがあるのですか?
- 編集部:こどもスポーツ教育学科には、学生が始めたさまざまな行事があるとうかがいました。これはどのようなものですか?
- 編集部:教員採用試験対策の勉強会もあるとうかがいました。これも学生が始めたものなのですか?
- 編集部:この他に、カリキュラムに位置づけられている実習や学科で実施しているカリキュラムもあるのですね。
- 編集部:ICTの活用や海外の小学生との交流など、新しい試みもされていますね。
- 編集部:先生はどのようなきっかけで、音楽の道に進まれたのですか?
- 編集部:最後になりますが、4年間の学びを通して、学生にはどのような人間に成長してほしいとお考えですか?
編集部:体育学部の「こどもスポーツ教育学科」は、どんなことを学ぶ学科なのですか?
国士舘大学の体育学部には「体育学科」「武道学科」「スポーツ医科学科」「こどもスポーツ教育学科」の4つの学科があり、それぞれ特徴的な学びを実施しています。「こどもスポーツ教育学科」は2008年に開設されたもので、小学校の教員と、中学校・高等学校の保健体育の教員の養成を目指しています。この学科には「体育・スポーツの得意な小学校の教員を育てる」というキャチフレーズがあります。体育学部の中に小学校1種免許の教員を養成する学科ができたのは珍らしく、開設して14年目になります。これまでに体育が得意な小学校教員を多数輩出してまいりました。ここで学ぶ学生のほとんどが、過去にスポーツの選手経験を持っています。スポーツという自分の特技を活かして、子どもたちと元気に遊んで、一緒に学べる素敵な先生になってほしいと思っています。
編集部:体育学部の中に教育学科を設けたのには、どのような意味があるのでしょうか?
この学科の主な狙いは、体育の授業がしっかりできる小学校の先生を養成することです。ご存じのように、小学校の担任はすべての教科を一人で教えることになりますが、その中で体育ができる先生というのは稀少な存在となっています。小学校の現場から「スポーツが得意で精神力の強い先生が欲しい」という要請があり、それに応える形でできた学科なのです。
もうひとつは、近年「小中連携」をする学校が増えてきたことですね。そのため小学校の教員免許に加え、中学校・高等学校の保健体育の教員免許を持った人材が求められるようになりました。本学科では、その両方の免許が取れるようなカリキュラム設定になっています。
他の教育学科と単純に比較はできませんが、本学科には、子どもが大好きで、スポーツが大好きで、情熱的で、熱心な学生が多いように思います。開設年度から20名以上の教員採用試験合格者を出し、その後もずっとコンスタントに合格者を出し続けています。非常勤や臨時的任用の教員を合わせれば、卒業後の合格者も含めると毎年50〜60名が小学校の教員になっています。全体の定員が80名であることから考えて、かなりの割合の学生が、自分の望む教員の道へ進むことができています。
編集部:先生のご専門は音楽ですよね。ここではどのような授業を担当されているのですか?
はい、私はいま学科主任をやらせていただいていますが、授業は音楽を専門に受け持っています。「基礎音楽」「専門音楽」「教科教育法(音楽)」といった授業になります。
「基礎音楽」は読んで字のごとくで、基礎から音楽を学んでいく授業です。学生は実際にピアノを弾いてみたり、合奏したり、合唱したり、音楽鑑賞をしたりして、自ら体験することで“音楽とは何か”ということを身に付けていきます。人によって音楽の経験はまちまちですが、中にはまったくピアノに触れたこともないという学生もいます。でも、スポーツをやっている学生って、何かを習熟する方法が身に付いているんでしょうね。感心なことに、毎年全員が「海」「もみじ」「ふるさと」などの楽曲を弾き歌いできるようになります。また、スポーツをやっている学生は体がしっかりしているので、歌うといい声が出るんですね。太鼓の音もドーンと響くし、楽器を吹かせても肺活量があるので、気持ちいいぐらい大きな音が出ます。
「教科教育法(音楽)」は、小学生に歌や楽器や合唱をどうやって教えればいいかという、教え方を学ぶ授業です。最後の方は模擬授業を行い、4年生になれば教育実習もあるので、そのときに必要になる「指導案」の書き方なども学びます。「専門音楽」の授業ではピアノやリコーダーといった楽器の演奏を練習します。地域によっては教員採用試験の中に楽器演奏があるので、そのための対策となる授業ですね。
編集部:ゼミも教えてらっしゃいますよね。ゼミではどんなことを学ぶのですか?
ゼミの授業は3年生と4年生のときにありますが、学びの目的は卒業論文を書き上げることです。3年生のときに卒業論文の作成に必要なスキルを一通り身に付け、テーマを絞り込んでいって、4年生になってから論文を書き上げていきます。といっても、ここで学ぶ学生の多くがスポーツ中心の生活を送ってきたので、他の分野への興味関心が薄いんですね。だから、3年生のときには視野を広げてもらうために、博物館に行ったり、ミュージカルやクラシックコンサートに連れていったり、授業の中でいろんなことを体験してもらいます。
卒論を書くためには文献を探したり、実験をしたりする必要があるので、そういう研究の仕方や論文の書き方も学んでいきます。学生とじっくり話しあいながら、どんなことに興味があるのかを聞き出して、卒業論文の研究テーマを絞り込んでいきます。
編集部:具体的には、どのような研究テーマがあるのですか?
そうですね。私のゼミの場合は、やはり音楽とスポーツを結びつけた研究をする学生が多いようです。競技の前に音楽を聴くとリラックスするという話があるでしょう。そういった音楽がスポーツに与えるポジティブな影響を調べるとか、陸上競技の選手が練習のときに音楽を流して、それがどのくらい効果があるのかを調べたり、また、音楽が人の心に与える影響を実験で調べて論文にした学生もいました。他にも、音楽の授業嫌いの子をどうやってなくしていくかとか、学級経営に音楽を利用した例を調べるとか、いろいろですね。学生がいちばん興味を持てそうな分野をテーマにして、卒業論文を書いてもらっています。
編集部:こどもスポーツ教育学科には、学生が始めたさまざまな行事があるとうかがいました。これはどのようなものですか?
はい、学生が主体となって行うさまざまな行事があるのも、本学科の大きな特色になっています。たとえば、「体育行事演習」という、運動会の練習があります。これは、「自分たちが将来、小学校の先生になったら、絶対に運動会の企画を任されるよね」ということで、一期生の有志の学生が中心になって始めたものです。最初は「ミニ運動会」といって、10月に開かれる「鶴川祭」に来てくれる子どもたちと一緒にやっていたのですが、いつしか本学科の恒例行事の一つとして定着しました。
もう一つは、1年生から4年生までの学生が参加する「大運動会」で、これは二期生が企画してくれたものです。面白いなと思うのは、みんな体育学部の学生なので、上級生を立てようとするんですね。学生は2年生ぐらいがいちばん体力があるので、真っ向勝負すると4年生が負けてしまうんです。そうすると、3年生が2年生を叱るわけですよ。「なんで勝っちゃうんだよ」って。でも、勝っちゃいけないというのも妙な話なので、その後は学年対抗をやめて、学年の混成チームで競うようになりました。体育学部ならではのエピソードですね。
編集部:教員採用試験対策の勉強会もあるとうかがいました。これも学生が始めたものなのですか?
はい、それは当初「やる気あるん会」と呼ばれていたもので、有志の学生と私たち教員が一緒になって始めた勉強会です。最初はそれぞれの先生の専門の本を持ち寄って読んでいました。ただ、本学科には校長や教育委員会を経験したすばらしい先生方がいらっしゃるので、学生の要望もあって、教員採用試験対策の勉強会へと発展していきました。いまでは定期的に開催され、試験対策用の論文の書き方や面接の練習などを行っています。
この他にも、毎年12月頃に行われる「合唱コンクール」というものもあります。これも学生の有志が本学科に残してくれた伝統行事の一つです。1年生から4年生までが、それぞれ課題曲と自由曲を選んで練習して、1位を競い合います。審査は学生の代表と、私たち教員で行います。ちょっと感動的なのは、コンクールの後に、下級生が4年生の写真を集めてきて、それを上映しながら卒業ソングをサプライズで歌うことです。退官なさる先生がいらっしゃる場合は、その先生へのメッセージも読み上げられます。
他にも、こどもスポーツ教育学科オリジナルの準備運動「コスポ体操」を作ってくれた学年や、「コスピー」というキャラクターを残してくれた学年もあります。歌詞もメロディも学生が考えて創ってくれた「コスポの歌」には、私が伴奏を付けて、録音してCDにしました。本学科は学生同士もそうですが、教員と学生もすごく仲よしなんですね。これも本学科のいいとろだなぁと感じています。
編集部:この他に、カリキュラムに位置づけられている実習や学科で実施しているカリキュラムもあるのですね。
はい、この他にも野外実習があって、これは本学科の授業として実施されています。一つは、1年生の夏に行われる「キャンプ」と「臨海実習」で、どちらか一つを選択することになっています。もう一つは、二年生の冬に実施される「スキー合宿」で、こちらは全員参加になっています。ここのところコロナで中止になっているのがとっても残念で、こういう泊まりがけの実習で、互いに親睦を深めたり、集団行動を学ぶことができるんです。臨海実習の場合は、昼間に遠泳をやったり、磯で生物の観察をしたりして、夜はみんなで国士舘歌を歌ったり、気持ちを俳句にしたためる時間があったりで、心を一つにしていきます。
3年生の終わりにも「学外研修」というものがあって、1日目は近隣の小学校に行って授業を見学し、夜は宿泊先で見学した授業についての意見交換をします。2日目はスポーツ大会を開いて、ドッジボールや縄跳びをして楽しみます。3年間の集大成という意味を込めたイベントですね。
そして、4年生の最後の2月には「卒論研究発表会」があり、各ゼミの代表者がまるで学会発表のようにプレゼンをして、質問を受け付けます。こういったさまざまな行事は、学科が誕生した当初からあったわけではなく、「こういうのがあったらいいよね」と、話しあいの結果生まれてきたものばかりです。学生と教員が一緒に創り上げていく、それが「こどもスポーツ教育学科」の大きな魅力になっているのです。
編集部:ICTの活用や海外の小学生との交流など、新しい試みもされていますね。
はい、国の方で「ギガスクール構想」というものが立ち上がり、ICTに対応する教員を養成する必要があるために、新しい取り組みを始めています。電子黒板とタブレット端末を使う授業で、小学校で使うアプリを学生の端末にダウンロードしてもらい、それで授業をやっています。というと簡単に聞こえますが、ICTを教えられるようになるためには、まず私たち自身が習熟する必要があるので、去年はこどもスポーツ教育学科の先生が一丸となって、徹底的に教員がICTを学び、使いこなせるようにしました。これを教科教育法の授業で学生に教えています。
もう一つは、海外の小学生との交流ですね。学生にはできるだけ英語を話すことに慣れてほしいので、交流先の小学校を探していました。なかなか見つからなかったのですが、国士舘大学の国際交流センターの方のご友人がオーストラリアにいらして、実現することになりました。英語の先生を中心に、オンラインを使って交流していきます。
編集部:先生はどのようなきっかけで、音楽の道に進まれたのですか?
私ですか? 私は小さい頃からピアノを続けていて、大学でもピアノを学ぶつもりでした。ただ、受験の際には歌の試験があるので、歌を習っていたら、先生から「いいですね」って褒められたんですよ。大学に入ってからもすぐに合唱部に入って、そこでも合唱の先生に「歌、いいですね」っていわれて。嬉しくなって、専門をピアノから声楽に変えて、その先生に付いて声楽を学ぶようになりました。
大学院も教育系の大学院に進学し、そこで声楽を学びながら、「二期会」というオペラの団体の研究生になりました。昼は大学院、夜は二期会という生活が続いて、大学院の卒業後は私立中学校の音楽の教員になりましたが、そのまま二期会に入り、声楽の活動を続けました。同時に大学の講師をしたり、音楽教育の研究も行っていました。私のパートはソプラノですが、いまも声楽仲間と組んでコンサート活動は続けています。ときどきうちの学生も演奏を見に来てくれますよ。体格のいい若い子が揃って見に来るので、みんなびっくりしちゃいますけど(笑)。
編集部:最後になりますが、4年間の学びを通して、学生にはどのような人間に成長してほしいとお考えですか?
そうですね。学校の先生になるならない以前に、まず、自ら学び続ける人になってほしいと思います。今回のコロナでもそうですが、世の中は目まぐるしく変わっています。それに対応できる人にならなければならない。コロナ禍は大変でしたが、それによって、その人がどんな人かが洗い出されたような気がしています。変化に対応できる人か、できない人かといったことが。知識は力なんです。新しいことも古いことも幅広く学んで、たくさん知識を付けて、なぜそうなっているのかということを考える人になってほしいのです。
もう一つは、自分の幸せや充実した人生はもちろん大切ですが、それだけじゃなく、みんなが幸せになることも考えてほしいなと思います。いま、世界ではいろんなことが起きています。視野を広げてそういうことにも興味を持ってほしい。歴史だって何年に何が起きたかを丸暗記するのは退屈だけど、明治維新のときに坂本龍馬が日本中を走り回っていて、そういうのが目に浮かぶから学ぶことが楽しくなってくる。たとえば100年後には、コロナウィルスの流行が歴史の教科書に載ると思うんですね。そのときに「2020年初頭からコロナが流行りました、はい、これ覚えといて」ではなく、そのときに人々がどれだけ苦しみ、何を考えたか、それによって世の中がどう変化していったのか、そういうことを教えられる先生になって欲しいですね。
そのためには、いろんなことに興味を持って、触れてみて、いろんな視点で考えることが大切だと思っています。そういう学生の学びを全力で支えることが、私たち教員の使命だと感じています。
三小田 美稲子(SANKODA Mineko)教授プロフィール
●修士(教育学)/東京学芸大学 教育学部 音楽教育 修士 修了
●専門/教育学
掲載情報は、2021年のものです。
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