時事問題ではコロナを題材にした出題も
–コロナ禍での入試初年度となった昨年(2021年度入学者向け入試)の入試全体について、特徴的な傾向がありましたらお聞かせください。
まず1つ目に、ここ数年の流れとして、公立中高一貫校の入試で行われているような非教科型の適性検査型入試を取り入れる私立中学校の増加が目立っています。昨年度入試において、首都圏で適性検査型(総合型・思考力型・自己アピール型なども含む)入試を行った私立中は149校から152校に増えました。
以前は大学入学共通テストのサンプル問題として、公立一貫校の適性検査型入試が取り上げられその類似性が指摘されましたが、大学入試の形式が変わり、求められる力がより明確化されたために、「その場で考え、自分の言葉で表現する」ことを中学入試の時点においても意識している学校が増えていること が背景にあります。
大学入試改革が叫ばれた初年度には実際のところ大きな変革はありませんでしたが、第二次改革とされている2024年以降に大学入試本番を迎える今の小学生においては、大学入試そのものの傾向の変化にも注目しておく必要があります。思考力を重視する流れは今より顕著になっていると予想されます。
さらにはこの1、2年で千葉大学附属中、お茶の水女子大学附属中といった、教育研究のための機関という位置付けの国立大学附属校でも適性検査型入試が採用されたということもあり、従来の教科型入試から適性検査型入試へのシフトは将来的にも広がっていくとみています。
2つ目として、時事問題で新型コロナを題材にした出題が多く見られたのも象徴的です。現在(2021年10月13日時点)は落ち着いていますが、第6波、第7波が警戒される中で引き続き関心は高く、コロナを通じて世の中の問題を考えさせるといった切り口の出題は今年度も出てくるでしょう。これには、コロナという単なる感染症の問題から、広くはSDGsに通じるような、人類が解決していかなければならない課題にどう取り組むかといった問題意識をもってもらいたいという学校側のメッセージが根底にあります。SDGsについて考えさせるような問題が、社会、国語などの題材として扱われるといった流れは今後も続いていくことでしょう。
3つ目に関しては、休校期間を経た2021年度の入試では、学習の遅れを考慮して出題範囲を絞ったり難易度を下げたりといった対応をした学校があったことです。この傾向は今年度も続きそうで「2年もの間コロナ禍中での受験勉強を強いられてきた子供たちへ配慮を」という学校からのメッセージとして出す学校もあるでしょう。
2021年入試の受験率は過去最高
–受験者数の増加の背景にはどのような要因があるとお考えでしょうか。
昨年度の中学受験者数は5万50人と昨年より650人増加し、16.86%と近年では最高の受験率となりました。入試以前に私どもが予想していた傾向とは異なり、コロナを理由に中学受験を止めるといったケースはあまりなく、むしろ6年生になってからの駆け込み受験者が増えたように思います。
その大きな要因として、昨年の一斉休校時のオンライン対応における私公立格差が如実に表れたことがあります。公立の学校のほとんどがオンライン対応に苦戦した一方で、私立はすぐに端末やネット環境を揃え、4、5月の時点で95%の学校がオンライン授業に対応できていたと聞いています。
文部科学省主導のGIGAスクール構想も前倒し実施になりましたが、まだまだ1人1台の端末が行き届いていなかったり、学校と家庭での使用に制限があったりと、公立は私立に比べ大分遅れをとっている印象です。私立はその後も、休校する・しないに関わらず、感染状況に応じて分散登校や時差登校を実施したり、対面とオンラインを駆使したハイブリッド授業を行ったりと柔軟な対応を取っています。奇しくもコロナ禍をきっかけに私立の教育内容に目を向ける保護者が増え、私立に対する信頼が高まったこともあり、今年も受験者数は増える傾向にあるとみています。
受験者数は、全体でみると最難関校こそ減少しましたが、準難関校、中堅校、下位校の志願者が増えています。昨年、首都圏の入試ピークの2月1、2日の時点で合格できず、4日、5日まで試験を受け続けるご家庭も多かったことを考えると、2022年度も厳しい入試が予想されます。ただ、1月試験校 を含め午後入試や2回目、3回目入試など、受験機会は豊富にあるので、第一志望校、第二志望校の入試にうまく向かっていけるような併願作戦を立ててほしいと思います。
–受験生1人当たりの併願校数についてはいかがでしょうか。
昨年度1人当たりの出願校数は若干減りましたが、今年度はもっと減るとみています。コロナ以前は、力試しとして1月実施の千葉、埼玉の学校まで受けに行く子が半数ほどいましたが、昨年は安全を考慮して受験校数を絞られた方も多いでしょう。
また、学校に出向く機会が減ったことも影響しています。オンライン説明会や学校紹介動画など自宅で学校情報を収集するなかで、あれこれと目を向けるのではなく、良いなと思った2校くらいに絞り込んでいるようですね。1人が何校も併願をして、受験者数・受験率ともに膨れ上がって見えていたこれまでよりも、より実態数に近づいた感覚があります。実際、私どもが実施している模試の志望校記入欄に書かれる学校数も減っています。ただし、この志望校数は入試が近づくにつれて増えていくことも考えられます。
昨年度の経験を生かし感染対策を徹底
–コロナ変異株の影響で、今年は児童たちの間にも感染が広がりました。この点、今年度の中学入試にはどのような影響が及ぶとお考えでしょうか。
多くの学校で、昨年度入試の感染対策のノウハウを生かして今年も受験生を受け入れていくことと思います。消毒はもちろん、サーモグラフィによる検温、アクリルのパーテーションの設置など徹底した感染対策のほか、埼玉の栄東のように公共交通機関を使わずに来校できるよう、校庭を駐車場として解放する学校もありました。今年は教員へのワクチン優先接種も進んでいるのも安心材料でしょう。
すべてが手探りだった昨年に比べ、学校側も受験生側も対策に慣れてきましたし、面接やグループワーク、お昼休憩を除けば、受験生の会話の機会はありませんから、そういう意味ではそれほど心配することはないという見方もできます。ただ、この後爆発的に感染が拡大する場合は想定外な対応の必要も出てくるかもしれないので、入試要項の変更も含めて保護者は常に新しい情報にアンテナを立てるようにしてください。
また、出願と合格発表については96~97%の学校がWeb上に移行したほか、校門前の塾の激励も自粛となりました。そのぶん当日の朝にオンラインでひとりひとりの顏を見ながら声をかけたり、先生からの動画メッセージを配信したりと、各塾ともに臨機応変に入試応援をしていたようです。
–面接やグループワークの実施についてはいかがでしょうか。
昨年は冬になって感染者が増加したことを受け、12月から2月の本番直前にかけて、女子学院、雙葉、学習院女子などの女子校が面接取りやめを発表しました。特にミッション系の学校は、キリスト教教育に対する理解と賛同、学校のカラーに合うか合わないか確認するといった意味合いで面接を行う学校が多く、中止は苦渋の決断だったと思います。今年度以降、復活する学校もあればこのまま中止の学校もあるでしょう。桜陰、フェリスのように面接を記述型の人物考査に切り替えたところもあります。
大学付属校は過去最高の人気ぶり
–人気校に変化はありますか。
大学付属校人気は依然として続いています。慶應、早稲田、GMARCHだけでなく、東海大、日大系列の付属校などで軒並み志願者が増え、ここ30年ほどでは類をみないほどの人気ぶりです。マスコミなどでは、大学入試改革への不安といったネガティブ要因が言われていますが、それだけではありません。世の中に求められる力の変化に応じた教育、ICTなどへの取り組み、大学との教育連携を深め、10年間一貫教育の在り方をバージョンアップしているといった教育方針をポジティブに評価した結果、付属校が選ばれています。
–今年、注目されているコース、新設(改革)校があればお聞かせください。
昨年度、広尾学園の姉妹校として開校初年度入試だった広尾学園小石川は、延べ3,000名もの受験者を集めるという激戦ぶりでした。同じく共学化した芝浦工大附属中も注目校です。ほか大妻、鴎友など、説明会をオンライン化したことが功を奏し、講堂の収容人数をはるかに超えた保護者が集まることが可能となり、大きな人気を集めた学校もあります。
三田国際、開智日本橋、東洋大京北は近年じわじわ人気を集めていて、受験者数は横ばいでも偏差値が上がっているという印象です。また、STEAM教育の考え方を取り入れようという学校が増えているなかで、2021年度より世田谷学園が理数コースの定員数を明確化、昭和女子はスーパーサイエンスコースを中学3年次から1年次での募集へと低学年化しました。また、2022年度より、理科分野への興味が旺盛な子たちが在籍する三田国際のメディカルサイエンステクノロジークラス(MSTC)が始動します。
この他、女子校であった目黒星美学園がサレジアン国際学園として共学化し、校名変更するほか、武蔵野大学中、ドルトン東京学園などは、生徒のモチベーションや挑戦心を高め、自主的に学んでいける力を育てるカリキュラムに期待が高まり、人気が一段上がる可能性があります。
2022年は英語入試の解禁元年
–入試の内容についてはいかがでしょうか。
入試タイプの多様化は続いています。2022年の受験生は、新学習指導要領で学んできた初の学年。小学校で英語が必修・教科化されたことを受けて、英語を学んでいることを前提とした英語入試の解禁元年と言っても良いのかもしれません。全国初の取組みとしては、茨城県の私学トップ校、茨城学園取手が4教科に英語を加えた5教科で全回の教科型入試を行う方針です。
なお、昨年度、選択科目を含めた英語入試を取り入れた学校は143校あり、志願者もやや増加しています。影響の大きいところでいえば、すでに早くから慶應湘南藤沢が英語選択入試を取り入れています。これまで、慶應湘南藤沢が打ち出した方針を他の付属校が追随するという流れがあるので、今後の英語入試の広がりについては要注目です。
もう1つ、今年から小学校で“必修化”と言われ始めたのがプログラミングです。大妻嵐山、相模女子大中、駒込、聖徳学園、聖和学院、八王子実践、静岡聖光学院など、首都圏では現在7校ほどがプログラミング入試を取り入れています。英語選択や非教科型、プレゼン入試などもそうですが、全体の定員のうち1~2割を割いてこういった特殊な入試を行い、学校側も手ごたえを見ながら今後の在り方を探っている段階ですね。
適性検査型入試を行う私立が増加
–首都圏の公立中高一貫校の受検について、近年の動向を教えてください。
首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城)には現在34校の公立中高一貫校がありますが3,840人の定員に対して受検者数は1万8,207人。そのうち6,500人前後が私立中を併願していると推定しています。10年前は併願するケースは1割程度もいなかったことを思うと、公立中高一貫校を第一志望にしながら私立中高も併願するケースはずいぶんと増えています。
「適性検査型入試」というのは、知識そのものを問うのではなく、長文の素材文や、問題中に提示された図やグラフ、データを読み取り自分の持っている知識を結び付けて考えを導き出すといった内容で、記述力なども求められます。公立中高一貫校と私立中高受験では出題傾向や対策が違うといわれますが、冒頭でも述べた通り、私立中高一貫校で適性検査型に近い入試を実施することで、高倍率の公立中高一貫校に惜しくも落ちてしまった優秀な子たちを集められるというメリットもあります。安田学園、宝仙インター、桜美林など多くの学校で適性検査型入試を取り入れ、優秀な子たちがその力を伸ばしています。
首都圏模試では思考コードを使って本人の強み・弱みを分析していますが、実は私立の従来の問題よりも適性検査型の問題に強みを発揮する子は相当います。漢字の書き取りや計算やスピード重視の一行問題などは苦手でも、自分なりの考えや意見を持ち、ユニークな発想で記述ができる子は適性検査型入試に強みを生かせると思います。
現に、公立中高一貫校に受かる子は、入学後も授業への積極性や好奇心がとても旺盛で、間違えることを怖がらない子が多いと先生方からも聞いています。それこそが、これからの世の中に必要な力だと考えると、適性検査型の問題を通じて学び、考えることは、今後の大学入試や世の中に向けてプラスになることは間違いありません。
第一志望は五分五分でも受けてほしい
–模試の活用法をお聞かせください。
模試はあくまで入試本番に向けての本人の課題を知るためのものであって、実際の入試とは関係ありません。このことを、保護者の皆さまはもう一度肝に銘じておいてください。
この時期に合格判定や偏差値を気にしても仕方ありませんし、志望校を諦めるなんてもってのほか。第一志望については50%の合格可能性があれば受けなければ損です。個人的には10ポイント偏差値が足りなくても受けるべきだと思います。「最後まで第一志望は諦めない」というスタンスが子供をプラスに向かわせてくれるからです。ただし併願校については、本人の意見というよりは、子供の性格や校風などを見極めたうえで親の責任で選んでほしいですね。
英語が得意な子は英語入試、話すのが得意な子はプレゼン入試やグループワーク入試など、子供がやりきった、頑張った、楽しかったと、笑顔で試験会場から出てくるような入試をひとつ併願校に入れるのも良いと思います。
–これから受験日までラストスパートをかける小学6年生、保護者へのアドバイスをお願いいたします。
コロナ禍と重なり大変だった受験準備期間を経て、思うように勉強が進まなかったり、時間が足りなかったりといった不安はすごく大きいと思います。でもそれは皆同じ。子供も保護者も焦らず、能天気過ぎるくらいの明るく前向きな気持ちで臨んでほしいですね。誰もが先のことが見通せないという状況下、2月1日に無事にたどり着けただけでも十分立派です。お子さんは大きく成長し、平常時の受験よりも一層の強さを身に付けているはずです。どうか自信をもって来春2022年の入試に臨んでください。
–ありがとうございました。
今なお続くコロナ禍の下で受験勉強を続けてきた子供たちに、「よく頑張ってきた」と温かなエールを贈ってくれた北氏。万全の対策を講じて受験生を迎えてくれる学校関係者、試験当日まで子供たちと向き合う塾の先生、子供のために日々心を砕いてきた保護者、そして何よりも努力を重ねてきた受験生。入試本番まであともうひと踏ん張り、来年春には皆の思いが実を結ぶようにと願っている。
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