「子どもがスマホを手放さない」、「子どもがやっていることがわからない」。多くの親がそうした悩みを持ち、どう対応すればよいのか戸惑っている。子どものスマホ利用の実態はどうなっているのか――。ジャーナリスト・石川結貴氏の新著『スマホ危機 親子の克服術』より一部抜粋し、本稿では子どものスマホ・PCなどデジタル端末の利用実態の国際比、この状況下進められている「GIGAスクール構想」について解説する。
■日本は「ゲームをする」が1位
2019年12月、あるニュースが教育関係者の注目を集めた。経済協力開発機構(OECD)が、世界79の国と地域に住む60万人の15歳を対象に実施した『国際学習到達度調査(PISA/2018年)』で、日本の子どもの読解力低下が報じられたのだ。
調査は3年ごとに行われ、「科学的応用力」、「数学的応用力」、「読解力」についてそれぞれ順位付けされる。このうち科学的応用力は5位(2015年は2位)、数学的応用力は6位(2015年は5位)と世界トップクラスを維持したが、読解力は15位と低迷。前回2015年は8位、前々回2012年は4位だったため、その急落ぶりを懸念する声が強まった。
だが、より深刻な別の問題があったことはあまり知られていない。OECDの調査をもとに国立教育政策研究所が公表した『2018年調査補足資料』によると、パソコンやスマホなどデジタル端末を使って「勉強する(宿題をする、学習ソフトや学習サイトを利用するなど)」がOECD加盟国中最下位。
一方、「一人用ゲームをする」、「チャットをする」は、いずれもOECD加盟国中1位だった。つまり、日本の子どもにパソコンやスマホを与えても勉強には活用せず、もっぱら遊びや友達とのコミュニケーションの道具として使っている。
こうした状況下で進められているのが、文部科学省のGIGAスクール構想だ。GIGAとは「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字で、すべての人に世界的規模で革新的な入口を、という意味。具体的には義務教育を受ける児童生徒(小中学生)に対し、ひとり一台の学習用デジタル端末(パソコンやタブレット)を配布、学校内の高速ネットワーク環境(Wi-Fiなど)を整備する。
子どもや教師が使用する学習教材は、電子黒板やデジタル教科書、クラウド型のアプリ。さらに、小学校でのプログラミング教育が必修化される新学習指導要領の実施など、教育のICT(Information and Communication Technology=情報通信技術)化を目指すといった内容だ。
計画の一部はコロナ禍の休校措置で前倒しされ、公立の小中学校を設置する全国の自治体では、2021年3月時点で97.6%が子ども専用のデジタル端末とネットワーク環境の整備を終えた。さらに2024年度には、従来の紙の教科書と併用しつつデジタル教科書の導入を進めるという。今後の教育現場ではデジタル教材の活用や、いわゆるオンライン学習を十分に行えるだけの指導力が求められる。
■「オンライン授業はハードルが高すぎた」
オンライン学習はコロナ禍において一躍注目を集めた。2020年3月から小中高校などで全国一斉休校が実施され、一部地域では5月末までの長期にわたって子どもの通学が中断。進級や進学という重要な時期と重なったため、不安を抱えた人も多いはずだ。
学校での授業ができないという緊急事態で、オンライン学習はどれほど実施されたのか。2020年7月に公表された文部科学省の『新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公立学校における学習指導等に関する状況について』によると、Zoomなどのリモート会議システムを使った「同時双方向型オンライン指導」を行った教育委員会は全国で15%。ちなみに4月時点では、わずか5%にすぎなかった。
東海地方の公立中学校に勤務する教師(40歳)は、「ICT教育のモデル校ならともかく、ふつうの公立校でオンライン授業をするのはハードルが高すぎた」と話す。
通常の授業をオンラインで代替するには、設備というハード面と実際にオンライン授業を行える人材の確保というソフト面の両方が必要だ。学校では授業用の動画を配信するためにカメラやマイクを準備したり、教師用のパソコンを設定したり、セキュリティー対策などを行わなければならない。さらにオンライン授業をどう進め、どんな教材を使っていくのかという問題もあった。
通常の授業のように板書をしながら行うのか、パワーポイントのようなプレゼンテーションソフトを使うのか、リアルタイムか録画か、どのくらいの授業時間にするのかなどを検討し、おまけに上層部の決裁がなければ進められない。先の教師は「ウチの学校には、具体的な知識を持っている先生は誰もいなかった」と嘆息する。
「教科の中には、オンライン授業に適さないものがあります。たとえば理科なら実験器材を使えないし、体育では用具の使用だけでなく集団競技や対抗戦もできません。美術や音楽、家庭科など実技系の授業も、用具や設備を考えれば現実的にむずかしい。休校中は保護者からなぜオンライン授業をやらないのか、先生がダメだと苦情が寄せられましたが、学校にもいろいろな事情があるんです」
東洋経済新報社が全国の小中高校教員を対象に2020年5月と同12月に実施したアンケート調査(オンライン授業の経験)では、コロナ休校中だった5月と学校再開後の12月で現場の意識が変わっている。
「オンライン授業をしたことがあるが、現在はしていない」という回答が5月の5.7%から12月は14.5%と3倍近くなり、オンライン授業をはじめても継続されない状況が浮かび上がる。また、オンライン授業をしたことがない理由として「必要と感じていない」と回答したのは、5月の12.9%から12月には26%と倍増した。
12月のアンケート調査では教員個人のPCスキルを尋ねている。「PCのオフィスソフト(Word, Excel, PowerPoint)の使用」では、86.3%が「扱える」と答えたが、「メールやチャットの使用」は60.2%、さらに「Zoom, Microsoft Teamsなどのオンライン授業やミーティングをWeb上で行うことができるアプリの使用」では43.2%の教員しか使えない。
■オンラインよりも対面で
さらに現在では、学校の設備や人材の有無とは別の問題が起きている。公立小学校に勤務する教師(33歳)はこう話す。
「ウチの小学校では2020年度末に、全児童にタブレットを配布しました。オンライン化を進めるために学校の設備も拡充し、教員もさまざまな研修を受けたんです。今後は万全だと安心したのですが、保護者からは『オンライン授業より、学校で通常の対面授業をしてほしい』という要望がすごく多くなっています」
小学生が在宅でオンライン学習をする場合、特に低学年では保護者の見守りや協力が必要になる。ところが保護者からは「自分は仕事で外出しなくてはならない」、「テレワークをしているので、子どもが家にいるとうるさくて困る」、「家に乳幼児がいて、小学生の子どもの面倒まで見られない」、そんな声が噴出しているという。
保護者にすれば、「子どもは学校で見てほしい」のが本音だろう。タブレットなどのデジタル端末があっても、オンライン授業ができる環境が整っても、GIGAスクール構想が本当に子どもや家庭の現実にマッチするものなのか、先行きの不透明感は拭えない。
東洋経済オンライン
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最終更新:10/16(土) 17:01
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