「金賞だけが目的ちゃうねんで」悔し涙の吹奏楽コン 僕が選んだ進路(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース – Yahoo!ニュース

「金賞だけが目的ちゃうねんで」悔し涙の吹奏楽コン-僕が選んだ進路(朝日新聞デジタル)-–-yahoo!ニュース-–-yahoo!ニュース 花のつくりとはたらき

朝日新聞デジタル

 第69回全日本吹奏楽コンクール(全日本吹奏楽連盟、朝日新聞社主催)が、23日の中学校の部を皮切りに始まる。今年は新型コロナウイルスの影響で、会場への入場は出場団体関係者に限定されるため、初めて「ライブ配信」される。事前専用サイト(https://www.asahi.com/brasschorus2021/wbandcompetition.html?ref=article)に申し込みをすれば、全国大会に選ばれた団体の卓越した演奏を、どこででも聴くことができる。

【写真】2019年に開かれた全日本吹奏楽コンクール。昨年はコロナ禍で中止。今年はライブ配信される。

 吹奏楽コンクールは、特に中高生にとって「文化系の甲子園」とも言われる。毎年夏に始まり、金賞受賞や上位大会への出場を目指して一度きりの演奏に全力を尽くす、緊張の舞台だ。

 かくいう私も、京都府立洛北高校吹奏楽部のテューバ担当として、高校3年間を吹奏楽に捧げた一人だ。といっても、全国大会や関西大会は雲の上の話。府大会でどうしても金賞が取れない。いつも頑張ったけど「あと一息」の銀賞に悔し涙を流していた。

 当時、部活を指導し合奏を指揮していたのは、顧問教諭ではなくプロのファゴット奏者をしている吹奏楽部OBの「先輩」だった。この先輩は、とにかくチャイコフスキーやプッチーニが大好き。吹奏楽なのにチャイコフスキーの「三大バレエ」や、プッチーニの歌劇「トゥーランドット」「蝶々夫人」「マノン・レスコー」などと格闘することになった。

 当時は吹奏楽の編曲版もそれほど充実していなかった時代。また、移調されていて原曲の響きが出ないこともあり、先輩はオーケストラのスコアから吹奏楽の楽器に割り当てる方法をとった。結果的に、管楽器にとって猛烈に難しいパッセージが出てきて大変だったが、おかげでオーケストラのスコア全体を読む面白さを教わった。

 「コンクールで金賞取るだけが目的ちゃうねんで」といつも我々に釘を刺してくれた先輩からは、オーケストラの響きや「歌うこと」を常に求められた。コンクールは最大の目標ではあったが、今思えば、先輩の合奏を通じて「音楽作品の作られ方」を学んだことが、大げさかもしれないが、その後の人生を変えるきっかけになったように思う。

 そんなわけで、高校は理数コースで大学はバイオテクノロジーが面白そうかな、と思っていたのが、オーケストラ音楽にはまり、大阪までスコアを買いに行っては、CDを聴きながら楽譜を読み込むようになった。高校2年も後半になって、音楽学という学問があることを知り、必要な音楽系科目のレッスンに通い始めて、東京藝術大学の楽理科に進学した。

 ここまで専門の道に歩まなくても、音楽の楽しみや奥深さを知る入り口として、吹奏楽を特に中高生にお勧めしたい。

 とにかく、吹奏楽は表現が幅広い。少人数バンドでもフルオーケストラでも、それぞれの個性を持ったサウンドをつくり出すことができる。小編成の部だからこそ、はっとするような美しい響きや、温かいサウンドに出会うことがある。

 ジャンルも多彩だ。ビッグバンドの鮮やかさから、日本の祭りを題材にした民俗的な曲や、音を素材レベルから構成し直す現代曲まで。バッハのオルガン音楽を吹奏楽の楽器編成で表現すると、パイプオルガンに匹敵する「音楽の小宇宙」が浮かび上がる。

 さらに、全員で一つの作品にとことん向き合い、音楽を探究する喜びは、何にも代えがたいものだ。入学した頃にはまったくの初心者でも、基礎練習を積み重ね、上級生がスキルをうまく伝えていけば、中高生は信じられないぐらい上達する。そこからどう音楽を深めていくのか、という新たな世界が広がっていく。

 全国大会の常連校を取材したことがあるが、技術を高める日々の厳しい練習はもちろん、曲のそれぞれの瞬間で「どんなサウンドを作りたいのか」「何を表現するのか」を指導者が常に生徒たちに問いかけ、共有する作業を繰り返していた。

 そこから出てくる音楽には、めくるめく超絶技巧と繊細な表現、ほとばしる情熱がある。大会での演奏を聴くと、その余りのすごさに圧倒されっぱなしだ。今回始まるライブ配信は、音響や映像技術の進化で、まっすぐな音の迫力や甘美な響きを、十分に堪能できるだろう。今まで吹奏楽に触れる機会が少なかった人も、ぜひ聴いてみてほしい。

 当然のことだが、吹奏楽はスポーツの試合ではないので、評価点がつくことはあっても勝ち負けはない。でも、先輩OBの言葉を繰り返せば、「金賞を取るだけが目的ちゃうで」。ひたむきに練習を続ける皆さんにエールを送るとすれば、ぜひこの学校や団体でしか出せないサウンドを作りだして、聴く人の心に残る演奏をしてください、と言いたい。こんなに多彩な楽器で、大人数で一つの作品を作り上げるチャンスは、そうそうない。そして聴く側は、それぞれの演奏の個性を見つけることを楽しみつつ、音楽に身を委ねてみてほしい。

 吹奏楽は、肩ひじ張らずに、でも音楽の楽しさや奥深さを教えてくれる「一生の友達」になれる。だからこそ、練習は厳しくても高校で決して「息切れ」することなく、大学生や社会人になっても吹奏楽を愛する人でいてほしいと思う。(河原田慎一)

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 1974年京都市生まれ。京都府立洛北高校では吹奏楽部に入部し、テューバを担当した。東京藝術大学の楽理科に進学したが、在学中は学生オペラ公演の制作や演出に明け暮れた。同大大学院音楽学専攻を修了後、朝日新聞社に入社。社会部の裁判・検察担当やローマ支局長などを務め、現在は大阪本社社会部で司法担当キャップをしている。

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