河合塾、2025年度の「情報」入試に関するセミナーを開催 – 新公民連携最前線

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 河合塾は2021年10月10日、オンラインセミナー「教科『情報』をめぐる動きと情報入試に向けた指導を考える」を開催した。2025年度から大学入学共通 テストに新たな出題教科として加えられる「情報」について、現時点で明らかになっていることや、学校現場での指導の状況などに関する講演を実施した。

 まず、河合塾 教育研究開発本部 本部長の富沢弘和氏が、「2025年度大学入学共通テスト概要と出題教科『情報』の位置づけ」と題して、高等学校における現行の教科「情報」と、2022年度から実施される新学習指導要領での「情報I」「情報II」の違いや位置付けについて解説した。

 現行の教科「情報」では、情報機器や情報通信ネットワークの適切な活用、情報化が社会に及ぼす影響の理解を重視する「社会と情報」(2単位)と、情報や情報技術の活用に必要な科学的な考え方、情報社会を支える情報技術の役割の理解を重視する「情報の科学」(2単位)のいずれかを選択履修する。

 2022年度からはプログラミングやモデル化、シミュレーション、ネットワークとデータベースの基礎について学ぶ「情報I」(2単位)を生徒全員が共通して履修する。発展的な選択科目として「情報II」が設置され、「情報I」で基礎を学んだ上で情報システムや多様なデータを効果的に活用する力やコンテンツを創造する力を養う。

 現時点で大学側は大学入学共通テストで「情報」受験を必須にするかどうかを明らかにしていない。そのため、一般入試受験者に共通テストの受験を原則必須としている国公立大学の動向が、「情報」入試の先行きを左右するとみられる。

 国立大学の集まりである国立大学協会(以下、国大協)の入試委員会は、従来の「5教科7科目」の方針を変更し、「情報」を加えた「6教科8科目」の受験を原則とするかどうか検討している。「情報」を必須の受験科目にするかどうかは積極論と慎重論があるとみられ、2021年11月には方針が決定される見込みだ。国大協が6教科8科目の基本方針を示したとしても、「情報」の受験を課すかどうかは最終的に各大学が判断する。学部・学科や日程によっては「情報」の受験を課さないこともあり得る。

大学入学共通テストで「情報」受験の利用が広まるかどうかは、国立大学の方針に大きく左右されるとみられる

出所:河合塾「教科『情報』をめぐる動きと情報入試に向けた指導を考える」

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 国大協が「情報」受験を必須とした場合、多くの国立大学が「情報」受験を必須科目として採用し、国公立大学の受験希望者は基本的に「情報」の受験が必要となる。この場合、大学入学共通テストの受験生約54万人(2020年度)のうち、およそ半数に当たる20万〜30万人が受験すると予想される。学部ごとに活用、あるいは各大学に判断させる方針を国大協が出した場合は、大学ごとに対応が任される。理系・情報系とそれ以外の学部といったように採用が分かれ、受験者数は数千人〜5万人程度にとどまるとみられるという。

 続く基調講演では、京都精華大学メディア表現学部 教授・文部科学省初等中等教育局 視学委員の鹿野利春氏が登壇。高校と大学教育を一体的に改革する高大接続の中での教科「情報」の意義や、大学入試共通テストに「情報」が加わったことの意味合いについて講演した。

 鹿野氏は「高大接続においては、高校教育と大学教育の結節点である大学入試の改革が不可欠。流れはできてきており、大学入試をどうしていくかは今まさに決まりつつある。どう対応するかは高校と大学の双方に問われる」と話した。

 2020年度から必履修科目になる教科「情報I」は、現在の「社会と情報」「情報と科学」を発展させたもので、新しく組み込まれた内容も多く含まれる。「高等学校では『情報』を教える上で、教員の研修等を進めてほしい。大学でも教育の質を担保するため教員養成が重要になる」と鹿野氏は話した。

2022年度から始まる「情報I」では、情報デザイン、プログラミング、データの活用といった内容を通じて問題の発見や解決を学ぶことを目標にする

出所:鹿野利春氏「高大接続における教科「情報」と情報入試の意味」」

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 その後の講演で、奈良女子大学 非常勤講師の竹中章勝氏は、大学入試センターが2020年11月に公開した大学入学共通テストの「情報」試作問題(検討用イメージ)や2021年3月に公開したサンプル問題を基に、問題の傾向や「情報」入試で受験生に求められる知識・技能などについて解説。高校教育の中でどのように取り組んでいくべきかを議論した。

大学入試センターが公開した施策問題(検討用イメージ)と教科「情報I」で学ぶ領域との対応

出所:竹中章勝氏「河合塾モニター調査・大学入試センターサンプル問題・既存入試にみる「情報I」の指導の課題」

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 竹中氏は「高等学校でもGIGAスクール構想により、校内ネットワーク環境が整備され、利用する端末もBYOD(個人所有のデバイスの持ち込み)や自治体の負担による配備が進んでいる。教科『情報』でしかできない内容を精査し、数学・国語・理科・社会など他教科との連携を進める必要がある。教科『情報』は社会で起こっているさまざまな出来事と情報技術・情報社会との関連を学び、理解する。知識を得るだけでなく、思考力・判断力・表現力と情報技術が問われている」と話した。

 現職の教員として講演をした東京都立立川高等学校 指導教諭の佐藤義弘氏は、高等学校の中で教科「情報」がどのように位置付けられているかを紹介。2022年度から始まる「情報I」で、プログラミングをどのように扱うべきかを議論した。2003年に「情報」が必履修科目になってから18年が経過したが、今でも「情報」を教えられる教員は少なく、指導体制が不十分だと指摘した。

オンラインで参加した立川高等学校の佐藤教諭は、学校現場での教科「情報」の位置付けや、それを教える教員の現状などについて説明した

出所:佐藤義弘氏「『情報I』プログラミングの指導と大学入学共通テスト」

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 小中学校でのプログラミングの必修化に伴い、高等学校でもプログラミング教育が注目されている。だが、2単位(法定70単位時間)の「情報I」でプログラミングを教える時間は、教科全体を均等に割ると6時間程度だという。限られた授業時間の中でプログラミングを扱う難しさを指摘した。

 佐藤氏は「プログラミングの教材は無償で提供されているものも多いが、授業で割ける時間に対して長すぎる。一方、参考書や問題集など大学入試に向けて必要とされる教材はほとんどなく、どのように受験指導をしていくか、また思考力を問う問題にどう対応していくかなど指導方法に頭を悩ませている」と話した。

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