【特集】実験にワクワク、学びの魅力知る「サイエンスデイ」…鎌倉女学院 – 読売新聞

【特集】実験にワクワク、学びの魅力知る「サイエンスデイ」…鎌倉女学院-–-読売新聞 花のつくりとはたらき

 今年度、「つなげて、つかえて、つくりだす」という新スローガンを打ち出した鎌倉女学院中学校高等学校(神奈川県鎌倉市)は7月29、30日、このスローガンを実現するプログラムとして大学教授を講師とする「サイエンスデイ」を開催した。参加した中3生は、「香りの化学」をテーマとする高度な実験に取り組みながら学びの楽しさを実感したという。「サイエンスデイ」の狙いや手応え、今後の展望などを担当教諭に聞いた。

中3生がハイレベルな実験に挑戦

新しいスローガンの意図について説明する石井主幹
新しいスローガンの意図について説明する石井主幹

 同校は今年度、「学びを通して得た知識や技能を『つなげて』、新しい価値を生みだし、その価値を『つかえて』、新たな未来を『つくりだす』ことができる女性を育てたい」との思いで、「つなげて、つかえて、つくりだす」という新スローガンを掲げた。

 その意図について、広報委員長・教務課課長代理の石井美咲主幹は「中高6年間で得た知識は、10年後、20年後には古くなり、役に立たなくなることもあります。生徒にはさらにその先も常に学び続け、進化し続ける人間になってほしいと考えるからです」と言う。「本校では、学ぶことの楽しさや素晴らしさを実感できるカリキュラムで、6年間を通して
螺旋(らせん)
を描くように徐々にレベルアップし、卒業後には自身の力で進んでいけるようになっていく。そうした『学ぶ力』の土台をつくる教育を目指しています」

 このスローガンを実現するためのプログラムの一つとして、同校は今夏、中学3年生を対象とする初の「サイエンスデイ」を開催した。コロナ対策で「密」を避けるため、7月29、30日の2日間、それぞれ午前・午後の計4回にプログラムは分けられ、東京学芸大学の前田
(ゆたか)
教授を講師として、「香りの化学」をテーマとする講義と実験が行われた。各回約40人の生徒が参加し、前田教授の研究室の学生がティーチングアシスタント(TA)として生徒をサポートした。

 理科主任の竹内歩教諭は、その目的について「生徒たちは本校独自の『鎌倉学』『国際・環境学』といったプログラムを通して、リサーチやディスカッション、論文作成、プレゼンテーションなどの経験を積み上げ、学びの礎となる力を付けてきました。そこに自ら手を動かし、科学的な視点で検証する『実験力・検証力』が加われば、さらに『つなげて、つかえて、つくりだす』というサイクルが高まるのではないかと考えました」と語る。

五感を使った実験で科学の面白さを知る

東京学芸大の前田教授を講師として行われた「サイエンスデイ」の講義と実験
東京学芸大の前田教授を講師として行われた「サイエンスデイ」の講義と実験

 「サイエンスデイ」ではまず、前田教授から「香りと化学の関係」について40分ほどの講義があり、その後、生徒たちは2人1組になって実験に取りかかった。内容は、アルコール類と酢酸などのカルボン酸をさまざまな組み合わせで混合し、香水や柔軟剤など香料の原料となる物質「エステル」を合成・分離するというもの。生徒たちは最初、教授が提示したやり方でエステルを合成・分離し、次に自由な組み合わせで合成・分離を試みた。さらに実験後は、「合成したエステルはどんな構造式か」といった問いを考えながら考察を深めていった。

 竹内教諭によると、この実験は高3で受験科目に化学を選択する生徒が学ぶレベルの高度なものだという。それを中3生に経験させる目的について、「近年は出前授業というと、身近で簡単な内容が選ばれることが多いのですが、生徒には学校でしかできない本格的な化学実験を体験し、その面白さに触れてほしいと考え、あえて難しい内容を選びました」と言う。「中学3年生は、中学の学習内容を幅広く理解できた段階であり、進路を考える一歩手前の段階です。ここで『サイエンスデイ』を行うことで、理科に苦手意識のあった生徒が科学に興味を持ち、高校で理科に取り組む姿勢が変わったり、大学選びに『科学』という新たな視点が加わったりすることを期待しています」

 生徒たちは高度な実験操作に初めは戸惑いを見せていたそうだが、じきにTAの学生に「これは何のための器具で、実験と何の関わりがあるんですか」「なぜ、器具はこういう形をしているんですか」など、さまざまな質問を投げかけつつ真剣に取り組んだという。TAの学生が「中学3年生で、ここまで深い質問が出るとは思わなかった」と話すほど、意欲的な姿勢だったようだ。

ティーチングアシスタントの学生に質問しつつ、実験を進める生徒たち
ティーチングアシスタントの学生に質問しつつ、実験を進める生徒たち

 実験後に生徒が書いた感想には、「今まで化学反応式は苦手だったが、今回の経験で足し算のようで面白いと思えた。分からなかったことが分かるというのはとても楽しかった」「蒸留以外にも目的物を分離する方法があるということを実験で初めて知った。複雑な実験を久しぶりに行ったのでわくわくした」という声があった。

 竹内教諭は、こうした感想について「自ら手を動かし、ポコポコとした音を聞き、出来上がったエステルの香りをかぐ。五感を使った化学ならではの学びが、すごく楽しかったようです。また、2人1組で行う実験のため、一人一人が普段の授業の実験以上に前向きに手を動かしたことも、『面白い』という感想につながったと思います」と笑顔で話す。「半日の講座でしたが、生徒にとって頭をフル回転させる時間になったと思います。前田先生の講義を聞き、専門的な知識を持った学生と話すことで、大学の研究室の様子を感じ取り、漠然としていた大学が、少し身近に見えたことでしょう」

 石井主幹も、「『わくわくした』という感想は久しぶりに見ました。これはサイエンスならではの力だと思います。生徒は化学実験を通して知識を頭で理解したというより、もっと根源的な『学び』の魅力に触れたのではないでしょうか」と驚きの表情を見せた。「『サイエンスデイ』で、答えのないものを証明するためにはどうしたらいいかを、自分で考えることによって生徒の思考のフィールドが広がったと思います」

生徒も教員も「やればできる」ことを実感

「五感を使った化学ならではの学びが、すごく楽しかったようです」と生徒の様子を話す竹内教諭
「五感を使った化学ならではの学びが、すごく楽しかったようです」と生徒の様子を話す竹内教諭

 「サイエンスデイ」で高度な実験にチャレンジしたことで、生徒だけでなく教員も「やればできる」と実感し、自信を付けたという。

 竹内教諭は、「今回は生徒たちが使ったことのない実験器具が多く、操作も複雑だったので、教員は『危険ではないか』『難しくて無理じゃないか』と思っていた部分もありました。マッチを擦るのも怖がる生徒もいましたが、いざ実験が始まると、器具を壊すこともなく安全に操作でき、教員の予想をどんどん超えていきました。私たち教員にとっても『サイエンスデイ』は、生徒にはまだまだ難しいことにチャレンジできる伸びしろがある、と気付く時間になりました」

 今回の経験を踏まえ、同校は「サイエンスデイ」をさらにブラッシュアップして、来年度以降も続けていく方針だ。また、化学だけでなく、地学や物理の分野もゆくゆくは盛り込んでいきたいという。

 「化学は学習の入り口で拒否反応を起こす生徒も多いのですが、『サイエンスデイ』で実験の楽しさを経験し、拒否反応が薄れたようです。サイエンスは文系の生徒にとっても足を踏み入れなければならない分野ですし、化学の初歩を知っておくことは、のちの学びにおいても非常に大切です。今後も化学の講座をベースに、答えが分からないことを生徒が一生懸命に考え、初めての経験にチャレンジして、わくわくできる機会をつくっていきたいですね」

 (文:籔智子 写真:中学受験サポート 一部写真提供:鎌倉女学院中学校高等学校)

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