探究学習を通して自ら問題を発見し、行動を起こせる人物に…十文字 – 読売新聞

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 十文字中学・高等学校(東京都豊島区)は、自ら疑問を持って調べ、行動を起こせる主体的な生徒を育てるため「探究学習」に力を入れてきた。動物園見学に始まり、企業との共同研究、自由テーマの論文執筆、大学の志望理由書の作成まで、中1から高3まで6年間を通じた体系的なプログラムとなっている。一連の探究学習の狙いや成果について横尾康治副校長に聞いた。

中学では動物園見学や「自分史」作り、職業調べ

上野動物園で観察を行う中1生

 同校は、生徒の主体性を育てる目的で15年ほど前から、調べ、分析し、発表するという活動を伴う「探究学習」を各学年で実施してきた。全学年の探究学習のまとめ役を務める横尾副校長は、「教師に言われて始めるのではなく、自分の興味をきっかけとし、もっと知りたいからもっと調べる、というサイクルを発展させていきたいと考えていました」と話す。

 この探究学習に弾みを付けたのが2015年度から始まった教育改革「Move on プロジェクト」で、プレゼンテーションやディベート、コミュニケーションなどの力を磨くさまざまなプロジェクトを展開してきた。「これらの要素を取り入れて探究学習活動はさらに充実し、現在は中1から高3まで、6年間の体系的なプログラムとなっています」と横尾副校長は話す。

 中1で行うのが上野動物園見学会。動物を観察しながら、その行動や生態に自分なりの疑問点を見つけ、持ち帰ってクラスで発表する。「勉強により知識を身に付けるだけでなく、自分の目で観察して『なぜ、こうなっているのだろう』という疑問を持つことが大切です。この疑問を解決したいと思うようになるところから、探究学習は始まります」

調査の結果をポスターセッションで発表する中3生

 中1から中2にかけては自分をより深く知るために、「自分史ワーク」に取り組む。チームを作り、昔撮った写真を見せ合ったりして、相手の反応を見ながら自分を客観的に見つめ直す。そうして振り返った体験を物語としてまとめ、クラスメートの前で発表する。

 中2では、外部の社会人にインタビューを行い、さまざまな職業について調べて発表するキャリア教育も行われる。「弁護士、警察官、会計士など、漠然としたイメージでとらえている職業について、実際に日々どのような仕事をしているのか、具体的に理解できるようにします。自分の進路について考える前に、まず『働く』とはどういうことなのかを知ってほしいのです」

 中3では数学の授業の中で、自ら研究テーマを持ち、仮説を立て、データを収集して分析し、図やグラフを作成してポスターセッションする活動を行う。「生きた統計の中から学ぶことを目的としています。例えば、『寝る子は育つは本当か?』というテーマで家族やクラスメートにアンケートを行い、睡眠時間の長さと身長の伸びの相関関係を調べた生徒もいました」

高校ではグループワークや論文作成を通し、自分の将来を探る

 中学では授業やホームルーム、宿題などさまざまな機会を利用して探究学習を行うが、高校では、学習指導要領の改訂によって2022年度から正式導入される「総合的な探究の時間」を授業として先取りしている。

 高1ではグループによる探究活動を実施する。チームの中で話し合いながら意見をまとめていくことを学ぶ。「あるチームは、『日本人の働きすぎを改善するには』というテーマを選び、自分の出身中学の教師にアンケート調査を行いました。公立より私立の教師のほうが仕事に対する満足度が高いという結果が得られ、『教師の仕事はどこでも大変だけれど、私立中学の先生たちは目標を持って楽しそうに仕事をしている』という自分たちなりの考察を加えていました」

NECを訪問してSDGsへの取り組みを学んだ高1生

 今年の高1は、電機メーカーのNECと協力して、SDGs(持続可能な開発目標)についての探究学習も行っている。「以前、SDGsに興味を持った生徒の発案で、NECのオフィスを見学して同社のSDGsへの取り組みを学んだことがきっかけとなり、探究学習についてNECとの共同開発が実現しました」。今春は新型コロナウイルスの感染対策でオンライン授業となったため、NECが製作したビデオを自宅で視聴し、感想を書いてオンラインで提出したという。

 高校生は皆1人1台タブレットを持っていて、オンライン授業前から、インターネットでの調査やプレゼンテーション資料の作成に活用している。中学生は学校のパソコンやタブレットを、普段の教科や探究学習の活動で利用している。オンライン授業期間は約140台のパソコンを貸与して自宅で使用できるようにしたという。

 高2では自分が興味のあることや、社会問題を表すキーワードを紙に放射状に書き出していく「マインドマップ」を作成する。その中から特に気になるものを自分のテーマとして「論文」を執筆する。さらに、高3で受験準備を始める前に、自分が将来どのような仕事に就き、どういう生き方をしたいかを志望理由書にまとめる作業を行う。その内容はそのまま、推薦入試やAO入試の際に提出する書類に応用できるそうだ。

 ある生徒は、中学生の頃から「お菓子」を自分のテーマとし、作るだけでなくお菓子の歴史や、人と社会に与える影響などを研究し、論文や志望理由書にまとめた。その成果が認められて慶応大学総合政策学部に合格し、その後、大学院でも「食」に関する研究を続けたそうだ。

生徒が独自に活動テーマを見つけ、学校に提案する

探究学習について説明する横尾副校長

 「探究学習を長年続けるうちに、生徒たちの意識が変わってきたようです」と、横尾副校長は話す。「学校で決められた活動とはまた別に、『世界の性差別の現状を調べて発表し、寄付を呼び掛けたい。先生、やってもいいですか』と手を挙げる生徒たちが出てきたのです。本校としては、もちろん歓迎しました。有志が集まって、全校生徒の前でプレゼンテーションを行い、募金活動を行いました。女子校なので、男子に気兼ねせず、のびのびと活動できるという利点もあると思いますが、自ら問題を発見し、行動を起こすという探究学習の成果が表れてきたものと思います」

 「身をきたへ 心きたへて 世の中に たちてかひある 人と生きなむ(心身を鍛え、社会に貢献する人となる)」。探究学習に取り組む中で、これらの生徒たちが見せた姿勢は、同校の校歌の中で歌われる建学の精神を表していると言えそうだ。

 同校は、オンライン授業期間に磨かれたITスキルを活用し、今後はテレビ会議や動画なども要素に取り入れて「探究学習」をさらに充実させていく方針だ。

 (文・写真:足立恵子 一部写真提供:十文字中学・高等学校)

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