そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない箱根駅伝はいわば生き残りの物語。
この本戦に出るための予選会にまずは熾烈なドラマがある。
およそ50の大学が上位10校を争う予選会。今年の注目は本戦初出場を狙う駿河台大学。取材の出だし、朝練を覗いて戸惑った。監督の徳本の姿が見当たらないのだ。結局監督不在のまま朝練が終了した。
なんでも朝練には当分出ていないばかりか、午後の練習には出てくるものの押し黙ったまま、見つめるだけで特に指導はしない。練習量やペースは選手任せだと言う。
すると選手が次々に意見を求めてきた。これが狙い。徳本は「選手に考えさせる練習」を徹底しているのだ。
現役時代は箱根を走り注目を浴びた。法政大学2年のときには1区を任され区間賞で襷をつなぐ。しかし大学4年、最後の箱根路には悔しさが刻まれることに。あの日つなげなかった襷が徳本に再び箱根を目指させる。
29歳のオールドルーキー・今井駿河台大学を指導し始めたのは9年前のこと。
しかし全くの無名チームで選手たちとせめぎ合う。怒ればやる気を失い、また怒る原因ができる悪循環。袋小路を抜け出せたのは心理学の本などを読み漁り、選手との関わり方を一から見直したからだった。
駆け出し監督と寄せ集めの選手。前途多難に見えた道行きは確かな軌跡で箱根に近づいていく。
予選会の成績は27位からおととし18位、そして去年は12位。
今年10位以内なら箱根に行ける。
陣容は整った。
たとえば一人は即戦力のオールドルーキー。下級生も上級生も今井さんと呼ぶ今井隆生はなんと29歳。
今年大学に編入してきた今井は、それまで中学校の先生をしていた。保健体育を教えていたが生徒をうまく導けず壁にぶつかってしまった。
一時的に休める休職制度を使い、二度目の大学生活を送ることに。心理学を専攻したのは、卒業後、教師に戻って指導に活かしたいと考えたからだ。
駅伝名門校出身・堀内9月、チーム作りの佳境、群馬県の山中で合宿を張った。
監督の徳本はある選手に熱い視線を送っていた。予選会をひと月後に控え、4年生の堀内は充実した走りを見せていた。
駅伝の名門、広島・世羅高校の出身だが、3年生のとき膝を傷めて走る意欲を失った。卒業する頃には10キロ以上体重が増え、陸上選手とは思えない見た目に。推薦入学が決まっていたため大学では駅伝部に入ったが練習をさぼることも度々だった。
しかし今は違う。もともと才能はあったのに腐っていただけ。心を入れ替えて練習量を増やすと、成績は着実に伸びていった。
合宿も大詰め。予選会を想定したタイムトライアルが行なわれた。トップでゴールしたのは堀内とエース吉里。今井のタイムは想定を大きく下回った。もしも本番だったら足を引っ張っていたところ。
メンバー選考レースの3日前にも事件が。急成長した堀内が、膝に違和感があり選考レースは難しいと徳本監督に直談判したのだ。しかし、どんな状態であれ堀内だけ選考を免除するわけにはいかない。選考レースへの出場は本人に委ねられた。
駿河台大学の予選会メンバー選考レースそして当日、この日の結果で予選会を走れる12人が決まる。堀内もスタートラインに立った。
箱根駅伝初出場を狙う駿河台大学の予選会メンバーを決める選考レース。膝の不安を訴えていた堀内は先頭集団に食らいついてペースを維持。我慢の走りを見せる。
結果は6位。12位以内を死守してメンバー入りを決めた。今井も見事復調して9位でメンバーに入った。
見えない襷をつなぎ続けて10年。
異彩の監督は悲願を遂げられるのか?
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