すべての教科を担任が教える学級担任制を基本とする小学校で、今年4月から高学年で教科担任制が始まる。これまでも一部の学年や教科で実施する学校はあったが、教科担任制が全国に広がることになる。本格導入を前に、学校では教科担任制を実践するポイントを学んだり、実施方法を検討しておく必要があるが、教員からは「本当にやるのだろうか」「どうやってやるのだろうか」という声が上がるなど準備が進んでいない学校もあるようだ。
教科担任制導入に向けて950人増だが…
昨年12月、政府は公立小学校高学年での教科担任制を拡大するため、2022年度に教員の加配定数を950人増やすことを決めた。
当初、文部科学省の概算要求では2000人を掲げていたため、十分な予算を確保できず厳しい結果となったが、中規模校・大規模校では学校内における授業交換、小規模校では中学校教員の活用など小中連携や小学校同士の連携で教科担任制の導入を目指すことになる。
今後も、文科省は25年度までに3800人の加配定数増を目指し、4年をかけて小学校高学年における教科担任制を段階的に推進するとしている。だが、厳しい財政状況の中、引き続き財務省との予算折衝、教員の定員数増には困難が予想される。
なぜ、小学校高学年で教科担任制を導入するのか。その背景には、4つの目的がある。1. 児童の学力向上、2. 複数の教員が多面的に児童を見ることによるきめ細かな指導の実現、 3. 小学校から教科担任制に慣れ中学校への移行をスムーズにする「中1ギャップ」の緩和、4. 教員の働き方改革だ。
小学校高学年ともなると学習内容が難しくなり、指導力がより求められるようになる。これまでも得意、不得意のある教員がいたが、理科や算数に苦手意識を持つ教員も増えているという。専科指導の加配教員による指導をはじめ、授業交換などで自身の得意な教科を担当することで専門性の高い指導を実現できるというわけだ。教材研究も教科を絞って取り組めるため、じっくりかつ効率的に行うことができることから、働き方改革につながる可能性もある。
優先的に専科指導の対象とすべき教科としては外国語、理科、算数、体育の4教科が挙げられているが、4月からは地域や学校の実情に合わせて教科担任制の趣旨、目的の実現に向けた対応が求められる。
目黒区は教科担任制の準備と心構え促す冊子を作成
では実際、学校現場では、どのように準備が進められているのか。「本当にやるのだろうか」「どうやってやるのだろうか」という声が上がっているように、準備が進んでいない学校がある一方、本格導入前に教科担任制のポイントを学んだり、実施方法を検討し始めているところもある。
目黒区教育委員会教育指導課長の竹花仁志氏は、従来の教科担任制・交換授業の取り組みについて「区立小学校の約半数以上で交換授業などを実施しているが、年間を通じて実施する学校もあれば、一部の単元だけで実施する学校もあり、実施教科も学校によってさまざまだった」と話す。
竹花仁志(たけはな・ひとし)
目黒区教育委員会教育指導課長
(撮影:梅谷秀司)
21年1月の中央教育審議会答申で、22年度をメドに小学校高学年における教科担任制本格導入の方針が示された後、目黒区では22年度から施行される目黒区の学校教育に関する中期計画「めぐろ学校教育プラン」で「教員の教科指導における専門性を生かした教科担任制や交換授業などを推進」する方針を掲げている。
中教審の答申直後の昨年2月には、校長会で「22年度から小学校高学年で教科担任制を実施する」ことを各校長に伝え、昨年4月からは推進校3校を指定して教科担任制を実践してきた。
昨年12月には、教育委員会が教科担任制の知識と実践についてまとめた冊子「目黒区立小学校教科担任制~チーム学校で児童の学びを最大化するために~」を作成。推進校3校の成果や課題も抽出して、冊子にまとめている。
推進校の1つでは、5・6年の社会と理科で教科担任制を実施することを決めたほか、音楽、図画工作、家庭科、外国語は専科教員が受け持ち、道徳は学級担任に専科教員を加えたローテーション制、算数は習熟度別少人数指導とした。学級担任が自身の学級を指導するのは、国語、体育、総合的な学習の時間、学級活動になったという。別の推進校では1~6年(各2学級)で教科担任制を導入し、高学年は全教科で実施してきた。
成果として――多面的な児童理解が促進され、学年の協働意識が高まった。教材研究の深みが増し、授業準備も効率化された。複数回、授業が実施できることで、1回目の授業の反応を見て、別の学級で行う際に授業内容を改善できる。複数学級を指導することで、より公正・公平な評価ができる。教科担任同士のコミュニケーションが増えて「学年担任」の意識が高まり、学年で組織的に問題解決を図る風土が生まれ、生活指導にも効果を発揮した――といったことが挙げられている。
教育指導課指導主事の平田孝一郎氏は「自分が担任する学級のみの授業の場合、もっとこうすればよかったと思っても、次に同じ学年を担任できるのが、何年後になるかわからない。一方で、教科担任制で同じ授業を別の学級で実施できる機会があれば、すぐに改善できる」と意義を語る。
推進校の教員アンケートでも、負担軽減につながる授業準備の効率化のほか、同じ授業を複数回実施することによる授業の改善と、教材研究が充実できるといった授業の質の向上につながる効果を感じたという回答が多く、教科担任制導入には、期待される成果があることを示した。
その一方で――1学年2学級の場合は担当教科を決めやすいが、学級数が奇数の場合は工夫が必要。時間割の調整が難しくなる場面がある。学校行事や2時間続きで理科の実験を行う場合などは、時間割の変更が難しい。教科担任制に不安を感じる教員もいる。曜日によっては自分が担任する学級の児童に授業を実施しない時間が続き、関わる時間が減ることで担任する児童のことを把握しづらくなるのではないか。学級担任に憧れて、教職に熱い思いを持っている教員ほど児童理解に悩む傾向がある――といった課題も挙げられ、学年担任として児童を指導する意識を高めて児童理解に努める必要性も指摘された。
教科担任制で「効果があった」とされた5つの項目
1. 教師の担当教科の減・授業担当外の時間増に伴い教材研究の充実につながる
2. 同じ授業を複数回実施することによる授業改善が図られる。(教科の目標達成、見方・考え方、主体的・対話的で深い学びの実現等、学習指導要領の趣旨の実現)
3. 授業交換を実施する場合を含め授業準備の効率化につながる
4. 複数の教師が教科指導に当たることを通じて、多面的な指導・支援ができていると考えられるほか、従来は学級担任しか知らなかった児童の問題を学年間の教員で共有できるようになり生活指導がしやすくなる
5. 複数の学級の同一教科を指導することで、指導と評価の一体化、適正で信頼される評価について学級間の差がなくなり、より公正・公平な評価と評価に基づいた授業改善ができるようになる
出所:「令和3年度 目黒区小学校教科担任制推進校アンケート」
冊子では、時間内に授業を完結できる授業力の向上や、教員間での報告、連絡、相談、引き継ぎの徹底による、デメリットの最小化も必要だとしている。また、教員の専門性(得意分野)を生かして授業の質をより効果的に向上させることが期待される一方で、竹花氏は「小学校教員は、すべての教科に専門性を持つことが求められる。担当教科を決める際は、校長の人材育成方針の下、教員の指導力向上の観点を踏まえた人事構想を決定することも大事になる」と指摘する。
ロードマップと校長の経営方針策定で実施に向けて始動
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教科担任制の知識と実践についてまとめた冊子「目黒区立小学校教科担任制~チーム学校で児童の学びを最大化するために~」
こうしてまとめた冊子は、区立小学校22校の全教員に配布され、導入に向けた準備と心構えを促している。
さらに昨年12月、すべての小学校校長を対象に、明海大学の釼持勉客員教授を講師に迎えて教科担任制についての研修会を実施。教育委員会が作成した冊子で掲げる「ロードマップ」を示し、具体的な取り組みの目安と時期を確認した。
ロードマップは、21年度12月に「各校長が学校経営方針策定に基づき教科担任制のビジョンを確定させる」とした。1月には、そのビジョンを教職員に説明し、実施計画を策定。2月は、学校教育法施行規則に基づいて各校が編成する教育課程(カリキュラム)届について、目黒区教育委員会に教科担任制の計画について相談できるようにする。21年度3月~22年度4月にかけては、時間割編成など新年度体制の準備。4~5月には、新年度教職員への説明・周知、保護者会などでの説明といった流れでスタートし、その後も自己申告、管理職授業観察による指導、学校評価などの機会を使って改善していくとしている。
22年度は全国で教員950人の加配が決まっているが、竹花氏は「目黒区にどれだけの加配教員が配置されるかはわからない。また、学校の規模などによっても、どのように実施できるかは異なるだろう。まずは、各学校の状況に即した取り組みを可能として進めようというのが今の方針だ。これまで交換授業などをしたことがない学校では戸惑いもあり、慣れるまでは少し時間がかかるかもしれないが、各校長には1年前から導入を伝えてあるので、心づもりはできていると思う。ロードマップに沿って進めることで、教科担任制を始める準備は整うだろう」と手応えを口にした。
実際、教職員の人事異動が発表されないと、誰がどの学年の担任になるのか、どの教科を担当するのかなども決めることができない。もちろん時間割の作成なども、すぐに始めることはできないが、スムーズな導入を目指すためにも、学校ごとの特徴に合わせた実施方法について校長を中心にできるだけ早くから準備をしておくことが求められる。
(文:新木洋光、編集部 細川めぐみ、注記のない写真:YsPhoto/ PIXTA)
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