人気アイドルやアーティストからアマチュアまで、幅広いジャンルの出演者が生配信を行うサイト「SHOWROOM」。視聴者は配信者へコメントを送ったり、ストリートミュージシャンを応援するように、「ギフティング(課金)」できたりするのが特徴だ。会員登録約450万人(9月末時点)を数える国内有数の規模に成長させてきた。
東京都出身。物心ついた頃には既に父は他界しており、小学2年生で母も亡くした。10歳離れた兄と親戚の家に引き取られたが、経済的に楽ではなく、少しでもお金を稼ごうと
夢諦め養ってくれた「兄を喜ばせたい」…難関大目指す
都立高校に進んだ当初は大学進学は考えていなかった。バスケ部をケガで引退後、力を入れたのは、幼い頃から洋楽に親しみ、好きだった英語でのディベート。学校代表として大会にも出場する腕前だった。ある時、指導してくれた早稲田大学に通う高校OBから「進路はどうするの?」と聞かれた。
浮かんだのは、医者の夢を諦めて高校卒業後、働きに出て養ってくれた兄のことだった。昔から良い成績の通知表を見せるとほめてくれた兄を「難関の大学に行って、喜ばせたい」と思った。進学を決めたのは、高校2年生の冬だった。
正しい方法でやるほど成果が…ゲーム感覚の勉強
家計を考えると浪人はできない。国公立大は大学入試センター試験で必要な科目も多いため、3教科で受験可能な私立大文系に絞った。予備校が作った偏差値の一覧表を見ると、早大政治経済学部が一番上に書いてあった。「せっかくやるならトップに行きたい」。私立でも大学で成績が良ければ、返済不要の奨学金を受けられる。「お前がよく考えて判断したことなら、応援する」。兄は背中を押してくれた。
ただ、当時の実力は合格圏内にはほど遠かった。合格というゴールと今の実力の差を知るには、入試の過去問題が鍵になると考えた。古本屋で過去問を15年近く前まで遡ってそろえ、「過去問を解いた量で早大受験者の上位1%に入る」と決意して何度も解いた。すると、どんな問題の比重が大きく、どのレベルが求められているのか、傾向がつかめるようになった。
また、「1日に英単語をこれだけ覚える」といった小さな目標を設定し、それを達成していくことでやる気を維持した。次第に模試の点数もアップし、「正しい方法でやればやるだけ必ず成果が出る」受験勉強は、ゲームのような感覚だった。「受験したところは全部合格します」と先生に宣言した通り、一般入試で早大政経学部を含めて全て合格。兄も喜んでくれた。
大学で学んだ一次情報の重要性…経営にも役立つ
大学では返済不要の奨学金を得たが、それでも足りない学費は、塾講師や居酒屋店員、日雇い労働など数え切れないほどアルバイトをして賄った。従兄たちと組んだバンドでライブにも熱中した。
ゼミで専攻したのは、マクロ経済学。日本の経済指標や国際通貨基金(IMF)の報告書を分析して議論を重ね、景気動向の予測などに取り組んだ。高校時代とは違い、向き合うのは明確な正解のない問いだ。教授に繰り返し言われたのは、元のデータとなる一次情報に当たることの重要性。その情報をもとに、自分の考えが正しいかを常に検証しながら、仮説を立てていく能力を徹底して鍛えられた。
社長となったいま、現場から日々、数字や意見が上がってくる。元データを確認しながら経営判断を下さなければならない場面もあり、大学での学びがとても役立っている。
目標を現状の2段階上に設定…未来を狭めず挑戦
常に心がけてきたのは、「目線を現状の2段階、上に設定すること」。いまの自分の実力が関東大会レベルなら、全国大会ではなく世界大会出場を目標にする。そうやって頑張っていると、全国レベルの力がコンスタントに発揮できるようになるという。受験の時も、仕事でも、未来を自ら狭めることなく挑戦してきたこれまでの人生を振り返り、受験生に伝えたい。「自分の可能性は自分が一番、信じてあげてほしい」
文・岡本裕輔
写真・岩佐譲
まえだ・ゆうじ 1987年生まれ。大学卒業後、外資系投資銀行に入行し、米国で勤務。2013年にIT大手「ディー・エヌ・エー(DeNA)」に転じ、エンターテインメントの世界に新たな価値を作ろうと、「SHOWROOM」を設立した。15年に事業を分離し、社長に就任。現在はテレビの情報番組のコメンテーターも務める。著書に「人生の勝算」「メモの魔力」。
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