病気を通じて学び、感じ、気付いたことを伝えたい―。2年前にがんの診断を受け、今も病気と闘う大分県中津市緑ケ丘中の中野純一教諭(41)が、自らの体験を基にした“命の授業”を始めた。「教師として、生徒に限らず一人でも多くの人に生きることの貴さを語るのは使命。千回を目指したい」。前を見据え、大きな一歩を踏み出した。
担当教科は保健体育。学生時代から続ける卓球を生徒に指導し、自らも現役選手としてラケットを握る。
2019年10月、胃腸の不調で市内の病院を受診したところ、膵臓(すいぞう)に影が見つかった。福岡市の専門病院で膵臓がんの診断を受け、入院して抗がん剤治療と手術を受けた。20年1月に退院。昨年4月に仕事復帰したが、間もなく肝臓への転移が分かった。現在も闘病の傍ら、仕事を続けている。
病で生活は一変した。家族と泣き、悩み、自分の体は自分で守ろうと食事や生活習慣を改めて心身と向き合ううち、体験を伝えたいという気持ちが強まった。職場や教員仲間に相談。教職同期の吉田耕平教諭(42)がいる中津市今津中で初回をすることで話がまとまり、昨年12月、2年生33人への道徳の授業が実現した。
中野教諭は、がんの基礎知識や病気が分かるまでの経緯、治療について紹介。心身をいたわることの大切さ、ストレス軽減のこつ、勉強の大切さなどを説き、「朝起きて『生きちょる』と感じるだけでありがたいと思うようになった。誰にでも良いところはある。人と比べず、前向きに考えて自分を好きになれば幸せに生きやすくなる」と語り掛けた。
生徒は集中して聞き入り、「告知を受けたらどんな気持ちになるか」などを議論した。北健人さん(13)は「運動や食生活の大切さが分かった」、今田愛里さん(14)は「ストレスへの考え方を聞いて、心が楽になった」と話した。
初めての授業を終えた中野教諭は「生徒の目がキラキラしていた。何か心に残る部分があればうれしい。次に向けて内容をさらに磨きたい」。意欲に満ちた表情を見せた。
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