2022年4月から高校の国語教育が変わる。新学習指導要領にのっとって、文学よりも実用的文章を重視する傾向が強まるのだ。この問題に、「江戸時代への逆戻り」「他者の気持ちがわからない人が育つ」と怒りの声を上げるのは、文献学者、山口謠司・大東文化大学教授だ。AERA dot.の人気連載「子育ての悩みを『論語』で解決!」の著者で、NHK教養バラエティー「チコちゃんに叱られる!」の解説者としても人気の山口教授に、話を聞いた。
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まず、高校国語がどう変わるのか説明しておきましょう。これまであった2年次からの「現代文」は、実社会で役立つに文章に特化した「論理国語」と、小説・詩を扱う「文学国語」という新しい選択科目に解体されます。問題は、大学入試を見すえて、多くの高校が「論理国語」を選択することです。これにより、多くの生徒が文学作品に触れることなく卒業する事態となります。
――今回の高校国語科教育の改革についてどう思われますか。
契約書や取扱説明書を読めるように「論理」を重視した結果、「文学」を軽視することになっていて、この流れは明らかにおかしい。「文学は論理的でなく、実社会に役立たない」という改革の背後にある考え方がまったく理解できません。
「悪貨は良貨を駆逐す」と言いますが、かつて入試で古文・漢文を除く大学が普通になってから、高校の授業で漢文を教える機会が少なくなっていったように、一度傾斜配点にしてしまうと、文学もなしくずしに教えなくなっていくでしょうね。
――実学重視にひた走る教育にはさまざまな批判があります。
室町~江戸時代で使われた庶民の教科書『庭訓往来(ていきんおうらい)』を知っていますか。年始のあいさつの文例や、農民と町人が契約を交わす際の定型文といった「これさえ覚えていれば生活に困らないよ」という教養の基本をひな型にまとめたものです。
今回の高校国語の「改悪」は「『庭訓往来』のように定型文を覚えればそれでいいという時代に逆戻りしろ」、と言っているのと同じ。
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