「生きていても仕方がない」。そんな中高生の心の声を、学校の保健室に置いたタブレット端末で可視化する取り組みがある。見落とされがちな子どもの自殺リスクを把握し、教員をはじめ保護者、医療機関へと支援を広げていく。この試みから見えてきた、子どもの命を守るために大人にできることとは何か。リスクが高まる夏休み明けを控えた今、教育関係者や研究者に話を聞いた。(文・写真:ジャーナリスト・秋山千佳/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「聞けなかった」質問を尋ねるタブレット
夏休み中の関東のある公立高校。ひっそりとした校舎の1階にある保健室のドアを開けると、入ってすぐのテーブルにタブレットが置かれているのが目に入る。一般的に中学校や高校の保健室では、訪れた生徒は来室理由を「来室カード」というメモに記入する。ケガの内容や頭痛、腹痛、いつから具合が悪いかといった自身の不調を記すものだ。しかし、この高校では昨年度から来室カードではなく、タブレットに入力するようになった。タブレットには11の質問が順に表示され、生徒はだいたい2~3分で入力を終える。
この簡単なQ&Aが、自殺リスクや精神不調を評価する「RAMPS(ランプス)」というネットワークシステムだ(RAMPSとはRisk Assessment of Mental Physical Statusの略)。
「抵抗感を示した生徒は今のところまったくいません。先生たちが驚いたくらいです」
そう語るのは、この学校の「保健室の先生」である養護教諭だ。
なぜ教員が驚いたかというと、RAMPSには機微に触れる質問項目があったからだ。睡眠時間や食欲の有無という体調に関する質問以外に、<これまでに「生きていても仕方がない」と考えたことはありますか>といった精神状態について踏み込んだ項目がある。質問は自殺や自傷行為に触れるもので、そうした質問を生徒に直接尋ねるのは教員側にためらいがあったと養護教諭は言う。
「それだけではなく、来室者が複数重なったときにメンタルのことは口に出しにくく、ましてケガの子にまで『最近眠れている?』と心身の調子を尋ねることはできていませんでした。その点、RAMPSだと質問が表示されていくので、聞き漏らしがない。それが自殺リスクの見落としを防いでいる。現場としてはありがたい、の一言です」
たとえば、一見問題なく学校生活を送っていたある男子生徒は、テスト中に過呼吸を起こして来室した。RAMPSの<これまで、自分を傷つけたことはありますか>という項目に、「あった」と答えた。それを確認した養護教諭が生徒に問診したところ、勉強へのプレッシャーで中学時代から自傷行為をしていたことがわかった。服で隠れる部位だったため、周囲の誰もが彼の秘めた苦しさに気づいていなかったのだという。
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