伝統的な半付属の共学校…広野雅明<24> – 読売新聞

伝統的な半付属の共学校…広野雅明<24>-–-読売新聞 花のつくりとはたらき

 大学入試改革が不透明なうえ、首都圏難関私大の入学者抑制の影響もあり、ここ数年は付属校の人気が続いています。その一方で進路実現のため、さらなる難関大学や希望学部に挑戦したいという生徒もまた多いです。そこで今回は、系列大学があって推薦制度もありますが、他大学を受験する生徒も多い、半付属の共学校2校を紹介させていただきます。

文武両道の希少な別学校 國學院大學久我山中学校

男女一緒の「御岳合宿講習」。男女が一緒になるのは一部の学校行事や部活動だけ
男女一緒の「御岳合宿講習」。男女が一緒になるのは一部の学校行事や部活動だけ

 國學院大學久我山中学校は、京王井の頭線「久我山駅」から徒歩12分、玉川上水にも近い武蔵野の面影を残す静かな住宅地の中にあります。男子部、女子部の校舎のほか、強豪運動部が多い同校らしく、人工芝のグラウンドや体育館など運動施設も整っています。校地は緑にも恵まれ、23区の中にあるとは思えないほど充実しています。

 同校は1942年に開校した岩崎学園久我山電波工業専門学校が源流です。52年に國學院大學と合併し、現校名になりました。91年に中学校女子部を再開し、現在の通り、男子部・女子部の別学制となりました。

 同校の教育理念は、創立者の岩崎清一先生の思いをまとめた「学園
三箴(さんしん)
」です。開校時の時代背景もあり、「研学練能」「明朗剛健」「忠君孝親」の三つとなります。時代が進んでも変わらない部分と、時代とともに変化する部分がありますが、「世界に活躍する場を求める今こそ、人と人との関わりの中で、感謝の気持ち、人を思いやる心を大切にしながら、社会に貢献できる人材を育成することが久我山教育の大切な使命です」と、同校のホームページで國清英明学校長は語っています。

 同校では、この教育理念を現代的にアレンジして、「きちんと青春」と読み替えています。同校は、規則が厳しいとも言われますが、10代でこそ、社会人になって困らないよう「あいさつ」「身だしなみ」「時間を守る」を徹底して指導しています。同校の卒業生は「社会に出て久我山で学んだことの大切さが分かった」とよく言うそうです。「きちんと生活していこう、きちんと周囲とつながっていこう、きちんと勉強していこう」。このことが久我山の校風をよく表しています。

 同校の大きな特徴は、男女別学制であることです。同じキャンパスで男女が学びますが、授業は別です。男女が一緒になるのは一部の学校行事や部活動のみです。生徒には、「別学がよければ別学でいられるし、共学の空気を体験したければ体験することもできる」と好評のようです。男女の成長段階に差があるので特に中学は別学がいい、特に理数科目では男女別の方が理解しやすい、逆に男女共同参画社会である以上男女共学がいい、などさまざまな意見がありますが、同校はどちらも実現できる学校です。

 さて、同校のもう一つの特徴はコース制です。男子部はSTクラスと一般クラスに、女子部はSTクラスと「Cultural Communication(CC)」クラスの二つに分かれます。また高校からの入学者は完全に別クラスです。STクラスのコース名は、「summit、straight、spirit」の頭文字に由来します。高い志を持ち、頂上(目標)に向かってまっすぐ伸びるように、という願いが込められているそうです。STクラスは、一般クラス・CCクラスよりも学習の「進度」が速く、「深度」は深く、授業でも演習の割合が多くなっているそうです。そして、将来的には、東大・東工大・一橋大などの最難関国立大学や医学部の合格を目指す特進クラスです。

 男子部の一般クラスは、じっくり着実に学力を身に付け、難関大学への合格を目指すクラスです。一般クラスでも中高一貫校ならではのシラバスや、習熟度別の授業もあります。また高校1年生からは成績上位者のクラスも設置され、個々の生徒の学力に合わせた指導がなされています。

 女子部も当初はSTクラスと一般クラスの2本立てでしたが、女子の進路や志望の多様性に合わせ、CCクラスに再編しました。CCクラスでは、広くいろいろなことを経験できる機会を増やし、そこから興味を広げられるようにしているそうです。特に女子は進路の選択肢が広いので、シリーズ「働くということ」を通してキャリア教育に特に力を入れていて、海外大学を含め、多様な進路を目指すそうです。

 男子部では、武道も重視されます。中1は柔道、中2は剣道を学び、中3以後はどちらかを選択します。中3・高2の寒稽古は、同校の冬の風物詩となっています。中2では8回にわたる能楽教室も実施され、能面や能衣装に実際に触れながら、現役能楽師から舞を学び、自らも舞を体験するそうです。

 一方、女子部では、女子特別講座が設置され、日本文化の教養を身に付けます。中1では「ことば」、中2では華道、中3では茶道、高1では能楽、高2では日本舞踊、高3ではマナー、とプログラムは豊富です。またキャリア教育も非常に充実しています。

 野球部やサッカー部などの部活動も強豪で有名ですが、学習面も非常に充実しています。卒業生は例年、5%から7%程度が国学院大学へ、その他は他大学へ進学します。2月1日午前・午後、2日午前、3日午後、5日午前と入試回数が多いので、受験するチャンスも多いです。文武両道の校風、別学校と共学校の両面で過ごす6年間は非常に魅力的です。機会があればぜひ学校を訪問していただきたいと思います。

私立旧制高等学校に由来する共学校 成蹊中学校

大学教員による模擬講義
大学教員による模擬講義

 成蹊中学校の淵源は、1906年に中村
春二(はるじ)
先生が作った学生塾です。12年に「個性の尊重」「品性の
陶冶(とうや)
」「勤労の実践」を掲げ、成蹊実務学校を開校しました。17年には成蹊女学校も開校しています。24年に都内の池袋から現在地の吉祥寺に移転し、翌25年に旧制の7年生高等学校を創設しました。第2次世界大戦後は、小学校、中学校、高等学校、大学を開設し、小学校から大学までが同じキャンパスにある総合学園となりました。

 64年には小学・中学校に国際特別学級が設置されて、海外帰国子女の受け入れが始まり、70年にはオーストラリアの高校との交換留学も始まりました。21世紀に入ると新校舎が完成してグラウンドの整備も行われ、教育環境は年々充実しています。最寄りの「吉祥寺駅」から少し離れた閑静な住宅地内の通学路を通り、キャンパスのケヤキ並木を抜けると、その奥に中高の校舎があります。教育環境のよさは都内でも有数です。

 成蹊の校名は、古代中国のことわざの「桃李不言 下自成蹊」が由来です。桃やすももは話はしませんが、その花や実に引かれて人が集まり、道ができる。徳のある人を慕って、有為な人材が集まることのたとえです。

 成蹊には現在でも多彩な人材が集います。成蹊中高は男女共学校であり、併設小学校からの進学もあれば、中1からの国際学級で受け入れる帰国生もいます。高校からの入学もあれば、帰国生の編入試験もあります。さらに成蹊大学を目指す生徒も、他大学を受験する生徒もおりますので、生徒たちは非常に多様です。学習効率だけを考えれば非効率な部分もありますが、この多様性こそが今後の生徒には非常に大切な経験になると思います。一人一人の長所や個性を伸ばす教育が成蹊では特に大事にされます。

 中学校ではさまざまなバックグラウンドを持つ生徒が集まりますので、英語は入学前の経験でクラス分けをして、スタートでつまずかないような配慮をします。いわゆる主要教科に特化したカリキュラムではないので、芸術科目も含め、どの教科もしっかりと学びます。理科の授業は実験が多いのが特徴です。理科館があり、キャンパスも緑に恵まれていますので、机上の学問だけではなく、実物を目にして実感を得ながら本物の体験ができます。部活動や学校行事も盛んで、それぞれが生徒の興味を伸ばします。これから先の不透明な時代には、このようなさまざまな学びを通してこそ、新たなものを創造する人材が育成されることでしょう。 

 高校課程は、1年生はすべて必修授業ですが、2年生からは文理分け、3年生では文理合わせて18のコースに分かれ、内部進学、外部受験などさまざまな目的に対応できるようになっています。成蹊大学との高大連携も盛んで、学部ごとの説明会や、大学の教員による模擬授業があります。また、大学の正規の講義を高校生が聴講することも可能で、手続きを踏んで単位を修得した場合には、進学後に大学の単位として認められる制度が設けられているそうです。

 国際理解教育も充実しており、英語だけではなく、ドイツ語、フランス語、中国語の講座もあり、希望者は受講可能です。留学制度も非常に充実していますので、それらの制度を利用して実際に留学する生徒が多いのも同校の特徴です。イギリスの「St. Paul’s School」、アメリカの「Choate Rosemary Hall」「Phillips Exeter Academy」などのボーディングスクールと提携していて、世界のトップレベルの生徒との交流は大いに生徒を刺激すると思います。

 卒業生は例年、2割程度が内部推薦制度を利用して成蹊大学に進学します。成績上位者には内部推薦を留保しながら他大学受験が可能な併願制度もあります。成蹊大学以外に進学を希望する生徒が7割以上いますので、一般入試、AO、公募制推薦など、どのような入試形態でも学校が支援しているようです。また海外進学アドバイザーも常駐していますので、海外大学を希望する時も安心です。

 成蹊中学校の入試は、国際学級は1月上旬、一般入試は2月1日と4日にあります。志望順位の高い受験生は複数回受験することが多いです。また、女子の難度は例年、やや高めです。緑豊かな充実した施設のなか、目先ではなく長い人生に大きくプラスになる本物の教育があります。頑張ってチャレンジしていただきたいと思います。

プロフィル

広野 雅明(
ひろの・まさあき

 サピックス教育事業本部本部長。サピックス草創期から、一貫して算数を指導。算数科教科責任者・教務部長などを歴任。現在は、入試情報、広報活動、新規教育事業を担当。

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