「失うのはお金だけではない」千葉真一さんもハマっていた – Yahoo!ファイナンス

「失うのはお金だけではない」千葉真一さんもハマっていた-–-yahoo!ファイナンス 花のつくりとはたらき

俳優の千葉真一さんが亡くなった。死因は新型コロナによる肺炎で、ワクチンは未接種だったという。高齢にもかかわらず、なぜワクチンを打っていなかったのか。東京大学非常勤講師の左巻健男さんは「千葉真一さんはニセ科学商品にハマっていたようだ。そういう人は大きな病気をした際に致命的な判断ミスをする恐れがある」という――。

■「俺は水素を飲んでるからコロナには罹らない」

 2021年8月19日、俳優の千葉真一さんが新型コロナウイルス感染症による肺炎で死去というニュースが報じられました。所属事務所によれば千葉さんは、ワクチンを接種していなかったといいます。

 これについてマンガ家の小林よしのり氏は、8月20日のブログで「千葉真一は凄い人間だった」と書いています。

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千葉真一は自分の意志でワクチンを拒否したらしい。

さすがだ! 千葉真一は美学を貫いた。

(中略)

ヒステリック臆病のコロナ脳の連中には、絶対、理解

できない価値観なのだろうが。

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 生前、千葉さんは表だって反ワクチン活動に加わっていたということはないようですが、『週刊新潮』9月21日号によると身近な人には「ワクチンを打つな」と言っていたようです。

 千葉さんがワクチン接種をしなかった原因として、怪しい健康商品の存在が指摘されています。

 『週刊新潮』2021年9月2日号の記事には、ワクチン接種を拒否し、「“水素サプリメント”を1日30錠、病院に運ばれる直前まで飲んでいました」(20年来の友人)、「“俺は水素を飲んでるからコロナには罹らない”と豪語していた」(友人の俳優・岡崎二郎氏)という証言が紹介されています。

 千葉さんは非喫煙者で、持病がなかったといわれていますが、2007年の俳優引退会見では喘息の持病もちだと自ら公表しており、引退の理由の一つが、「喘息の持病を持っていて、大河ドラマ(の収録)で息切れした」という体力面の衰えでした。

 喘息のような慢性呼吸器疾患は、新型コロナウイルス感染による肺炎の重症化のリスクが高くなります。

■過去に「怪しい水」の宣伝もしていた

 亡くなる直前まで怪しい水素サプリメントを飲んでいた千葉さんですが、過去には「創生水」という健康効果を謳った飲料水を愛用していたことがわかっています。

 この動画の中で、千葉さんは、次のように語っています。

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「創生水という水素水を長い間飲んでいます。ものすごく活性化されて、若返っているんですよ。この水のおかげ。だったら皆に飲んでもらおうと。これは是非、皆に配って元気になってほしいですね」

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 この後も飲んでいたかどうかは定かではないものの、創生水を販売していた創生ワールド(現在は倒産)の代表者であった深井利春氏が、2019年12月に開催された「千葉真一芸能生活60周年記念祝賀会」の発起人の一人でもあるため、創生水との関係性が深かったことは間違いないでしょう。

■万能の“宇宙エネルギー効果”を謳っていた創生水

 私が創生水を知ったのは1998年のことです。私は、パソコン通信ニフティサーブに設けられた「化学の広場」(日本化学会運営)のスタッフをしていました。

 そこにガソリンスタンドを経営している方からこんな相談が寄せられたのです。

 「この水で洗車をすると、ワックスがいらず、汚れが落ちてピカピカになるそうなのです。アトピーなど病気も治る。この水、すごいですよね?  本当に、水にこんな力があるのならうちのスタンドでも使ってみてもいいと思うのですがこんな魔法のような水、本当にできるんでしょうか?」

 創生水を作る機械の値段は当時195万円。電気石(トルマリン)、黒曜石、イオン交換樹脂を通して創生水をつくります。創生水のパンフレットには、創生水の“宇宙エネルギー効果”として以下の効果が並んでいました。

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1.洗浄効果 2.汚水浄化効果 3.環境保全効果 4.病気治療効果 5.健康増進効果 6.痛み止め効果 7.食品加工効果 8.食物の味向上、鮮度保持効果 9.植物育成効果 10.動物育成効果 11.スタミナ効果 12.運動能力向上効果 13.記憶能力向上効果 14.美容効果 15.消臭効果 16.害虫駆除効果 17.土壌改良効果 18.地震予知効果 19.電磁波吸収効果 20.低次元意識向上効果 21.潜在能力発現効果

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 これらの効果が“宇宙エネルギー効果”というのも怪しさいっぱいですが、一部の人たちには「すごい!」と思わせるのでしょう。

 「化学の広場」会議室参加者には、この会社に直接電話していくつか内容の説明を求めた人がいます。その一つに「この創生水を車のラジエーターに入れると燃費が20%アップ」というセールス言葉があり、データの開示を求めたら、その回答がなんと、「当社の社員が乗った感じ」ということでした。

■3.11後に大量に現れた「怪しい水」

 その後、私は、2000年8月に『入門ビジュアルエコロジー おいしい水 安全な水』(日本実業出版社。現在絶版)を出しましたが、その本で「筆者が水をもとにした商売で一番悪質だと考えているのは、電気石(トルマリン)という鉱物を使った水です」としました。その後出した『水はなんにも知らないよ』(ディスカヴァー携書)では「『創生水』はニセ科学の典型」としました。

 本を出した当時(2000年代)、ガソリンスタンドに「洗剤を使わない洗車」などののぼりを見ると、「創生水を導入してしまったんだ」と思ったものです。

 創生水の名は、2011年3月の福島第一原子力発電所事故後にも見かけました。

 福島第一原発から北西約40キロメートルに位置する福島県飯舘村に放射性物質を消し去るという「創生水」の生成器が置かれたことが話題になりました。

 3.11の事故後、福島には放射能を消せるという有象無象の業者が入り込みました。例えば、やはり万能性を謳うEM菌も微生物が放射能元素を生体内元素変換するという主張で福島県に入り込みました。

 日本ホメオパシー医学協会(代表:由井寅子氏)は、福島県内で採取した土を希釈したレメディをペットボトルに入れ、河川に投入して放射能を消すとするパフォーマンスをしたものでした。

 なお、創生水・EM菌・水素水の3つについて、放射能除去作用を検証した調査があります。結果は、水道水で除染したものと何の差も無いというものでした。

 2021年2月に創生水を製造、販売していた創生ワールド株式会社は、創業者で社長の深井利春氏が死去したことと生成器の販売不振により業績が悪化した結果、事業継続が困難となったため破産しました。負債総額は約10億円です。

 現在は、aquavivi(アクアヴィヴィ)という商品名で別の会社が販売しています。

■生活しているだけで人体は水素を多量に摂取している

 私が『入門ビジュアルエコロジー おいしい水 安全な水』『水はなんにも知らないよ』を書いたときに扱った水ビジネスの商品は、アルカリイオン水、π(パイ)ウオーター、磁化水(磁石を使って磁化処理した水)、電気石による水(創生水)、波動水でした。

 現在入手できる拙著で代表的なものを『暮らしのなかのニセ科学』(平凡社新書)で扱っています。

 分子状水素医学の研究から派生した“水素水”もいまのところ同類です。

 実は、大腸には水素産生菌がいて、水素を多量に産生しています。おならの1~2割は水素なのです。大腸内の腸内細菌によって発生するガスは毎日7~10リットルもあります。その成分でもっとも多いのは水素です。

 一部はおならとして外部に出ますが大部分は体内に吸収されて血液循環に乗って体内をめぐります。その中の水素は水素水から摂取する水素量と比べてはるかに多量です。

 もし分子状水素医学の研究で健康人が水素を摂取してより健康になるという研究結果が出ても、水素水から微量の水素を摂取するより、水素産生が多くなる食べ物を摂取したほうがいいのではないでしょうか。

■水ビジネス商品の「3つの特徴」

 最後に、ここでは世にあふれる水ビジネス商品の特徴を述べておきましょう。

 水ビジネス商品には、アルカリイオン水、π(パイ)ウオーター、磁化水(磁石を使って磁化処理した水)、電気石による水(創生水)、波動水、酸素水、水素水、シリカ水、宝石水、電子水、微生物の発酵生成物から成分を抽出した水などがあります。

 水を売る場合も、水に入れる物質を売る場合もあれば、整水器、活水器などの製造器を売る場合、「波動カウンセリング」と称することをして波動水(波動共鳴水)を売る場合など多様です。

 ニセ科学商品の中の水ビジネス商品は、次のような特徴があると考えています。

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・「水を飲む選択肢」以外に、十分な根拠のある効果効能をもったものがない

・中身のほとんど大部分は水道水や地下水なので、ほかの健康食品・サプリと比べるとずっと副作用が少ない (だから問題になりにくい)

・原価は非常に低いが販売価格を高額にしやすい

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■もっとも安全性が高いのは水道水

 健康によいとする水の販売側は、水道水の危険をいいます。

 しかし、飲み水でもっとも安全性がしっかりと調べられているのは水道水なのです。いわゆるミネラルウオーターというボトル水は、水道水と比べると調べられている成分数はずっと少ないです。

 基本的に飲んで害がなければよいというだけです。水道水は毎日飲むものに対して、ボトル水はたまに飲むものということで、調べ方が違うのです。ただし、水道水も原水の水質と処理方法によってレベルの違いがあります。

 かつて、大都会の水道水はまずかったです。家庭排水などがたくさん流れ込んだ川の水を原水にして、塩素を使って汚れを分解する急速ろ過法でした。そのとき汚れの成分と塩素が結びついて独特なにおい物質がふくまれていたのです。

 そこで、塩素ではなくオゾンを使って汚れを分解する高度な処理方法に変更しました。そのようにしてつくられた水道水とミネラルウオーターを、同じ温度に冷やして飲み比べるともう差がないものになりました。

■ニセ科学にハマる人は、ほかのニセ科学にもハマりやすい

 健康食品・サプリには時に健康障害を起こすものも多々ありますが、水商品は「副作用が少ない」のは、いい面です。

 多くは、届出には最終製品を用いた臨床試験または機能性関与成分に関する論文や文献調査が必要ですが、割と容易に受理しやすい「機能性表示食品」にもなっていません。単なる清涼飲料水で、薬機法や景表法ぎりぎりで、曖昧に効能らしきことを述べるだけです。

 微生物の発酵生成物から成分を抽出したという清涼飲料水は、公表成分が「ナトリウム」だけでした。そういうものが500ミリリットル4500円程度もする価格で売られていたりします。

 私が見るところ、多くの水ビジネス商品は水道水を飲んでいるのと変わりません。ただ、お金は失われていきます。

 一番怖いのは、千葉真一さんのようにあるニセ科学にハマる人は、ほかのニセ科学にもハマりやすいということがいえることです。本当にきちんと多方面から考えなくてはいけない大きな病気になったときに、選択を間違えやすくなります。

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左巻 健男(さまき・たけお)

東京大学非常勤講師

東京大学教育学部附属中・高等学校、京都工芸繊維大学、同志社女子大学、法政大学生命科学部環境応用化学科教授、同教職課程センター教授などを経て現職。東京学芸大学大学院教育学研究科理科教育専攻物理化学講座を修了。『RikaTan(理科の探検)』誌編集長、中学校理科教科書(新しい科学)編集委員。法政大学を定年後、精力的に執筆活動や講演会の講師を務める。『面白くて眠れなくなる物理』『面白くて眠れなくなる化学』『面白くて眠れなくなる地学』『怖くて眠れなくなる化学』(PHP研究所)、『身近にあふれる「科学」が3時間でわかる本』『身近にあふれる「微生物」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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