東京都江東区立明治小学校統括校長、全国連合小学校長会顧問 喜名朝博
検討会議が報告書を公表
小学校高学年の教科担任制について検討してきた文科省の会議体「義務教育9年間を見通した指導体制の在り方等に関する検討会議」が、7月に報告書を公表した。この中で優先的に専科指導の対象とすべき教科として、外国語・理科・算数・体育の4教科が示された。
教科指導の専門性を持った教師によるきめ細かな指導と、中学校の学びにつながる系統的な指導の充実を図るという観点での検討結果であるが、外国語・理科・算数については、グローバル化の進展やSTEAM教育の充実という視点でも説明されている。また、中教審答申の例示にはなかった体育については、定年延長や再任用による人材確保といった、小学校の教員事情も見えてくる。
この報告書や中教審答申を根拠に文科省は概算要求を行い、教員定数の改善というハードルを越えていくことになる。小学校の35人学級が実現した勢いでこのハードルも越えてほしいものだが、今回の定数改善は、加配定数から基礎定数への振り分けによって措置されることになっており、教員定数の純増というわけではない。ハードルはさほど高くないかもしれない。
加配定数の維持・拡大が不可欠
教員定数は、学級数や児童生徒数などに基づいて算定される基礎定数と、予算折衝によって毎年その数が決まる加配定数で成り立っている。教科担任の教員数を基礎定数化することは、確実に教員が配置されることを意味している。基礎定数を増やす一方で、指導法の工夫改善やいじめ不登校対応などに当てられていた加配定数が削減されれば、学校運営に支障を来すことも予想される。
これまでも文科省は、通級による指導や外国人児童生徒の教育などのため、加配定数の基礎定数化を進めてきた。限られた予算の中でも、基礎定数化を図ることで教育の継続性を担保してきたことは評価できる。しかし、さまざまな課題に対応するために配置される加配教員も重要な役割を果たしており、加配定数の維持・拡大も不可欠である。
基礎定数の算定方法は「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」、いわゆる「義務標準法」に示されている。
例えば、少人数指導などの担当教員については、児童生徒数が「200人から299人までの学校数×0.25」とあり、同程度の規模の学校4校に1人の配置となる計算だ。300人から599人で「×0.5」、600人から799人で「×0.75」、800人から1199人でようやく「×1.00」となり、1人の配置がかなう。基礎定数とはいっても、ある程度の規模がなければ各学校への単独配置がなされないのが現実である。
教科担任制には働き方改革の側面も
教科担任制も同じような算定方法によって配置されるのだとすると、学校規模により教科担任制が実現できない学校が出てきてしまう。全ての子どもたちが、教科担任制のメリットを享受できなければ、教科担任制導入の趣旨に反することになる。
この基礎定数の穴を埋めるのが、各教育委員会の創意工夫である。中教審も「地域の実情に応じて多様な実践が行われている現状も考慮すべき」という指摘をしているが、独自予算や他の事業との組み合わせによって、全ての小学校で何らかの形で教科担任制が実現できるように準備していただきたい。
ただし、既に実践されている少人数学級を実現するための工夫(学級数を超えて配置される基礎定数内の教員や加配教員を、学級担任として活用することなど)と、教科担任制は切り離して考えるべきである。専科教員の定数を他に流用できないようにする制度設計も必要ではないかと考える。
それは、教科担任制の導入には、教員の持ち時数の削減による学校における働き方改革の推進という側面があるからである。少人数学級も教員の負担軽減にはつながるが、特定の教科を担当しないことで生まれる時間は貴重である。
義務教育免許の創設を
「義務教育9年間を見通した指導体制の在り方等に関する検討会議」の報告書では、学校規模や地理的条件に応じた教員配置として、小小・小中連携や義務教育学校化の促進を想定している。中教審でも議論されたが、教科の専門性が高いことと、小学校の子どもたちの学習意欲を喚起しながら授業ができることは別である。
その意味でも義務教育免許を創設し、同じ教員が中学校の特定教科と小学校での指導ができるような仕組みを作るべきである。小学校全科の指導だけでなく、中学校とつながる教科の高い専門性を持つことで、小学校の教科担任制や、今後増加が予想される義務教育学校にも対応できる。
子どもたちの成長を地域として見守り育てていくためにも、義務教育9年間という視点での学校教育が求められている。それをつなぐのが教科の系統的な学びである。高学年の教科担任制の導入は、そのはじめの一歩となる。
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