文部科学省の検討会議が、小学校の高学年でも本格的に「教科担任制」を導入するよう求める報告をまとめました。ただ、これで来年度から一気に導入が進む、というわけではありません。まだまだ幾段ものハードルが待ち受けています。
近年では英語の専科を配置
小学校は、伝統的に、学級に1人ずつ配置された教師が全教科を教える「学級担任制」が原則とされてきました。
教科担任制については、音楽や家庭などで「専科教員」が配置される場合もある他、クラス担任の間で授業を交換し、理科や社会などの得意分野を受け持つような運用で、一部に取り入れられてきました。
近年では、高学年で英語が教科化されたことに伴い、2018~20年度の3年間で、全国の公立小学校に3000人の専科教員が配置されています。
外国語、算数、理科に体育も
そうした中、文科省の諮問機関である中央教育審議会は、2019年12月の「論点取りまとめ」で、2022年度から小学校でも本格的に教科担任制を導入するよう提言しました。今回の検討会議は、この提言を受けて、2020年10月から専門的な検討を行ってきました。
中教審の段階では、外国語、算数、理科を想定していたのですが、今回の報告では、これに体育を加えるよう提言しました。子どもの体力向上を図る必要がある他、教員の多くを占める50代の教員の定年延長が見込まれることに配慮したものです。
焦点はどれだけ予算化できるか
ただ、これはまだ検討会議の提言にとどまります。文科省は提言を基に、2022年度予算の概算要求を行い、それが財務省に認められてはじめて、政府の予算案に盛り込まれ、国会での審議に掛けられます。国の財政が厳しい折、最終的にどのくらいの数が盛り込まれるかが焦点です。
文科省では、地域によっては中学校の教師を小学校の教科担任に回すことも想定しています。しかし、中学校教師が小学校の免許を持っているとは限りません。
さらに小学校をめぐっては、近年、教員採用試験の倍率が低下している上に、2025年度までに全学年を35人学級にすることから、より多くの教師を採用しなければならなくなっており、質の確保も課題です。
大学の教職課程の段階から優秀な学生を集るとともに、これまで以上に小中学校の免許を両方取得するよう促すことも必要になります。
まとめ & 実践 TIPS
小学校の高学年に教科担任制が導入されれば、授業の質が向上し、学習内容の理解度や定着度を向上させるだけでなく、複数の教師の目で見ることにより、児童の多面的な理解にもつながります。
教師にとっても、担当する教科の授業以外は空き時間ができれば、十分な授業の準備に充てられるとともに、働き方改革にもなるという、一石二鳥も期待されます。
教育の質は、教師の量と質に掛かっているとも言えます。教師の養成から採用、その後の研修までを広く視野に入れた、手厚い施策が求められます。
義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について(報告)
プロフィール
渡辺敦司
1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代~模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。
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