ちなみに、包皮を引いて亀頭を露出させることができる場合は「仮性包茎」。包皮を引いて亀頭を露出しようとすると痛みを伴って露出が困難な場合は、「真性包茎」という。真性包茎の場合、そのままにしておくとペニスの発育が阻害されたり、尿の出が悪くなったり、時には尿が逆流して腎臓に障害を及ぼすこともあるという。そうなる前に病院を受診しよう。
「オシッコのときも、包皮を少し体の方に引いてすると、ペニスの先にオシッコがつきにくくなります。包皮とペニスの間にアカがたまると炎症を起こしやすくなるので、入浴時には包皮を下げて優しく丁寧に洗い、洗った後は包皮を戻しておく習慣をつけることをオススメします」(村瀬氏)
私は10歳になったばかりの女児の母親だが、ふと、「男児の母親たちはどこでこの知識を得るのだろうか」と疑問に思った。しかし次の瞬間、「男性自身はどこでこの知識を得るのだろうか」という疑問に変わった。
夫に聞いてみると、包茎の対処法や洗い方などは、学校では学ばないという。そういえば、子どもの頃、弟が読んでいた少年漫画雑誌に、包茎の治療に関する広告が載っていた記憶がある。もしかしたら、思春期に人知れず包茎に悩んだ男性は少なくないかもしれない。
前回の記事で紹介したように、現状の性教育の教科書には性的接触や性交についての記載はない。また、「女性のお腹の中で赤ちゃんは育つ」としながらも、受精のしくみについては扱わないなど、重要な部分が抜け落ちている。そのため、「何となく言葉の意味は分かるが詳しく説明できない」という大人は少なくないだろう。続いて、2位の「射精」についても、村瀬氏に伺った。
● 「射精のしくみ」を子どもに いつ・どのように教えるか
男子は思春期になると、精巣で精子が作られるようになる。その数、1秒に約1000個。1日に約7000万個以上といわれる。精子の大きさは0.05ミリで、頭部にその人の遺伝子(染色体)が入っている。男子が性器に外的な刺激を受けたり、性的に興奮したりすると、ペニスの中の海綿体に大量の血液が送り込まれ、ペニスは大きく硬くなる。これを勃起という。
一方、精子は精管を通って精嚢(せいのう)や前立腺でできた液体と混ざって精液となる。精液とは別に、カウパー腺という部分から出るアルカリ性の分泌液があるが、これは「先走り」ともいわれ、普段酸性環境である尿道を中和し、後から来る精液を通りやすくする役割がある。性的刺激が持続すると、ペニスがリズミカルに強い収縮と弛緩(しかん)を繰り返し始める。これによって精液が押し出され、ペニスの先から数回にわたって射出される。これが射精だ。
一度の射精で射出される精液の量は一般的には3~5mlで、その中には約3億の精子が含まれているといわれている。
初めての射精は精通と呼ばれ、11歳~13歳頃に経験する人が多いが、かなり個人差があり、早い人は9歳、遅い人は20歳近くになってからというケースもある。眠っている間に起こる射精を夢精というが、精通が夢精で起こることもある。
「思春期には体全体の変化に伴い、内性器、外性器が発達し、生殖器としての機能が備わってきます。女子は排卵・月経が始まり、男子は射精が始まりますが、何も知らずに精通を夢精で経験すると、びっくりして一人で悩んでしまう人もいます。前もって知識があれば、『ああ、これがそうか!』で済むので、学校や家庭で事前に知っておくことは大切です。もしも自分の子どもに射精のことを教える場合は、思春期が近づいたら、父親からの方が良いでしょう。自分の経験を思い出せる人は、そのことも話したらいいですね」
村瀬氏は、親から子どもに教える際、「絶対に性器や精液を『汚いもの』として扱わないこと」と注意する。親が「汚いもの」として扱ってしまうと、子どもは自分の体を肯定的に受け止められず、性行為に対してネガティブなイメージを持ったり、性や女性に対する見方や考え方がゆがんでしまうことがあるという。そうならないためにも、精液を「不潔視」してしまう原因を知ることが重要だ。村瀬氏は、射精を汚いと感じる原因を、以下の3つにまとめている。
【精液を「不潔視」する3つの原因】
(1)白っぽくてネバネバしているから
→精液が白っぽくてネバネバしているのは、果糖の結晶・抗炎症物質・酵素などが含まれているから
(2)オシッコと出口が同じだから
→オシッコと出口が同じだが、射精のときには膀胱の出口が閉じるため、精液とオシッコが混ざることはない
(3)射精するときの快感を後ろめたく感じるから
→性器や性を不潔視する言葉を繰り返し耳にして、「不潔なもの」と意識してしまっている
村瀬氏はこの「不潔視」を「百害あって一利なし!」と断じ、「自分の性器の快い感覚を受け入れることは、自己肯定感を高めることにつながる」と話す。
「おまた触ったらばっちいよ!」「精液がついたパンツは汚いからそのまま洗濯機に入れないで!」などと子どもに言っていないだろうか。性や性器に関しては、「きれい・汚い」ばかりでなく「素晴らしい」「特別な」など、価値観に関わる言葉やからかいの言葉は使わないよう注意したい。
2014年、東京都中学校性教育研究会が行った「東京都中学生の性実態調査」によると、「初めての射精・月経があったのはいつですか」という問いに対し、女子は95%が中学3年生までに初経を迎えている一方、中学3年生までに精通を迎えた男子は49.2%だった。そしてこの問いに対し、「質問の意味が分からない」と答えた女子は1割に満たなかったが、男子は3割に上った。
中学3年生であれば、保健体育の授業で学んでいるはずだ。これは、中学3年生までに精通を迎えた男子が半数以下だったことを差し引いても、男子への性教育の不足や仕方の問題を浮き彫りにした結果だといえる。
● 女性だけが持つ 「クリトリス」の存在意義とは?
私は一応、女性の体の一般的な部分については名前も役割も知っているつもりだが、一点だけ、クリトリスの役割についてはよく分からない。村瀬氏に尋ねると、「クリトリスは性感帯です。そもそも性器のもとは男女同じもの。妊娠6週目くらいまでは男女の違いはなく、12週目頃から男性の場合は精巣上体や精管、精嚢ができ、女性は卵管や子宮、内性器が形成され、16週目頃からは、男性はペニスや陰嚢(いんのう)の形成が始まり、女性は大陰唇、小陰唇、クリトリス(陰茎)などの形成が進みます。つまり、女性のクリトリスは男性のペニスにあたるのです」と説明する。
ペニスは、海綿体というふわふわのスポンジのようなものでできており、そこに血液が集まると硬くなり、勃起するが、女性のクリトリスも海綿体でできているという。クリトリスにも亀頭があり、男性の陰嚢は、女性の大陰唇にあたり、ペニスの茎部は、女性の小陰唇。前立腺の下の方にあり、男性が性的興奮を感じたときにアルカリ性の液を分泌する男性のカウパー腺は、性行為を滑らかにする粘液を分泌する役割を持つ女性のバルトリン腺にあたるというのだ。
村瀬氏に紹介された本、スウェーデンのリーヴ・ストロームクヴィストによる『禁断の果実 女性の身体と性のタブー』(花伝社)によれば、これまで1cm足らずだと考えられてきたクリトリスが、1998年には、全長7~10cmで、2本の根と膣の両側を包み込む2つの海綿体球を備えており、女性の性的興奮によってこれらの器官全体が膨張するということが、オーストラリアのヘレン・オコンネル医師により研究発表されたが、「いまだに女性性器にクリトリスを明示せず、その存在と役割について記述していない性関連の医学書や教科書がある」と指摘している。
「現在も女性の性に対し、その快楽や快楽性を隠蔽(いんぺい)する傾向が根強くあることは、人間の性のあり方を学ぶ上で、大きな課題といえるでしょう」と、村瀬氏は話す。
クリトリスは、性感帯以外の何ものでもないことが分かった。だからこそ、多くの国の医学書や教科書が、クリトリスの存在と役割に目をそむけてきた。その理由には、これまで長い間、女性が男性の存在抜きで性的快感を味わうことが肯定されず、むしろ卑しいことと否定されてきた歴史がある。
次回もみなさんとともに、大人にも子どもにも有益な「性」について学んでいきたいと思う。
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