啓明学園中学校高等学校(東京都昭島市)は6月19日、小学6年生を対象に中学校授業体験会を開催した。理科(生物)と社会(歴史)の授業が行われ、参加した13人の児童はそれぞれの教室で、学校敷地の雑木林で採取したカエデの種子、学校創設者に由来する都指定有形文化財の建築をテーマとした授業に好奇心を刺激されていた。両授業の様子を紹介し、担当教諭に教科教育についての考え方を聞いた。
校内の植物と建築物を題材とした体験授業
「本校では、実験やビジュアル資料を多用した体験型の授業を通し、生徒の興味や関心を引き出すことを心がけています。体験会でも、こうした本校の学びの魅力を受験生に知ってもらいたいと思っています」と、入試広報部主任の荘加公平教諭は、授業体験会の狙いを語る。
今回参加したのは、13人の小6生とその保護者たちだ。午前10時30分、大教室に集まった参加者に対し、下條隆史校長は「本校の素晴らしい教員の授業をぜひ楽しんでください」とあいさつし、児童は申し込みの際に選んだ理科、社会それぞれの教室へ向かった。保護者はそのまま残り、学園生活や入試についての説明を受けた。
理科の授業は生物科の菅原鮎実教諭が担当した。「旅するタネの秘密」というテーマで、羽のような部位を持つカエデの種子を素材に、植物が種子を遠くに運ぶ方法について考えていった。
まず、参加した10人の子供たちに、学校敷地の雑木林で拾ったカエデの種子が配られた。黒く丸い部分と「
」の部分からなる種子の形状を確認したあと、床に落としてみる実験が始まった。種子が途中からプロペラのように回転し、ゆっくり落ちる様子を見て子供たちの歓声が上がる。
次に縦7cm、横3cmの画用紙を折りたたんでクリップを付け、種子の約5倍の大きさの模型を作成した。菅原教諭は、それを投げ上げると、本物と同じようにらせんを描いて落ちてくることを子供たちに確認させ、「もっとゆっくり落ちるようにするにはどうしたらいいか」と問いかけた。今度は大きさをそれぞれ2倍、2分の1にした模型での実験が始まる。「結果を予想し、その理由を考える」「再現性を確かめるために何度か行う」などと、理科実験の基本的な心構えを話しながら実験していった結果、形が実物に近い最初の模型が最もゆっくり落ちることが分かった。
菅原教諭は「なぜ、カエデの種子はこの形なのでしょうか」と問いかけ、子供たちの答えをまとめながら「落ちている間に風を受け、離れた場所に落ちるようにするため」という答えを導くと、それがカエデの生き残り戦略になっていることを説明した。
社会の授業は高校日本史の佐藤
教諭が担当した。テーマは「日本建築の系譜と『北泉寮』」。学園敷地内にある和館「北泉寮」は、都の有形文化財に指定されている建築物だ。明治時代に、現首相官邸がある場所に旧鍋島藩主侯爵邸として建てられた。セットで建てられた洋館は関東大震災で倒壊したが、和館は損壊を免れたため、啓明学園の創立者・三井
の父、
が買い受け、その後、同家別荘として現在地に移築したという。
授業では、参加した3人の児童にノートパソコンを貸し与え、明治期からのさまざまな時期の市街地図を現在の地図と対照して閲覧できるサイト「今昔マップ on the web」を活用し、北泉寮の場所の変遷を確認した。その後、寝殿造、書院造、洋風建築といった日本の住居建築の写真をスライドで参照し、特に床や壁、天井などの装飾にどんな特色があるかを考えていった。さらにGoogleストリートビューに収録された北泉寮内部の画像も観察し、部屋の装飾が、使う人の身分によって異なることを確かめた。
授業体験後のアンケートでは、「普段の小学校の授業より面白かった」などの肯定的な感想が多かった。理科では、種子が回転しながら落下する様子が児童の興味を引き、模型作りや実験も「とても分かりやすかった」と書き込んでいた。社会の授業では、「天井を見ると身分の高い人の部屋が分かる」という知識が印象的だったようで、「文化財を見に行ったら試したい」という声もあった。
校内や周辺に数多い生きた教材を活用
授業を終えた両教諭に、授業の進め方や学校の特色について話を聞いた(以後、敬称略)。
――担当している授業で留意していることは何ですか。
菅原
実験の際は「結果の予想」と「その理由」を考え、思考することを習慣付けます。そうした時間や、準備・片付けの時間を確保するため、中学理科は1分野、2分野とも2時間連続で行っています。通常の授業でも今日のように、観察や実験を数多く行います。さまざまな現象の背景や法則を体感でき、興味にもつながるためです。今日の体験授業で、関心を持った子供たちには、家で実験の続きをやってほしいと期待しています。
佐藤
歴史の授業は、史実から導き出された概念や構造を他の事例にも適用できるように授業デザインを考えています。今日取り上げた「天井を見れば部屋の格が分かる」もそれです。こうした理解はやはり史料から始まるので、授業でも史料を読み取る力を育成するとともに、自分の観点を持たせるためにグループワークで議論させ、試験にも論述を取り入れています。
――今回、どちらの授業も学校敷地にあるものを活用していました。
菅原
校内の雑木林は自然観察によく使います。中3の生態系の単元では、落ち葉や腐植物の層などで形成される土壌の構造を調べ、生息する土壌生物などを観察します。また、学校から徒歩5分で行ける多摩川の河川敷も、水生生物や岩石の種類の観察、水質調査などでさまざまなことを学べます。こうした生きた教材が、本校周辺にはたくさんあります。
佐藤
歴史の観点からも、興味深い史料が近隣に数多くあります。学校敷地内にある縄文時代の遺跡のほか、戦国時代に北条氏の居城だった滝山城や、近代の養蚕業を支えた桑畑の名残などさまざまな時代のものです。こうした身近な史料を授業に積極的に取り入れたいと思っています。
生徒の興味や関心を大事にし、自由に発言できる空気をつくる
――生徒の意欲を引き出すコツはありますか。
菅原
生徒の興味や関心を出発点にすることです。中3で1年間行う自由テーマの課題研究では、テーマの設定に悩んでいる生徒には「興味があることを何でもいいから教えて」と話し、面談しながら科学的な観点を盛り込むよう提案していきます。ある生徒は「チーズづくり」をテーマにしましたが、料理リポートにならないよう、さまざまな材料を使って弾力を比較するなどのアドバイスをしました。
佐藤
考えたことをいつでも発言できる空気を大切にしています。授業でも、教員の言葉を踏まえて「それってこういうことですか」というような質問や発言が多く、活気につながっています。あとは褒めること。学びへのモチベーションを高めるには、「肯定された」という感情が最も効果的です。
――生徒にどのように育ってほしいですか。
佐藤
今日の授業でも参加児童に言いましたが、今後の歴史を作り、守るのは彼らです。歴史の学習を通じて自分なりの歴史観を持ち、人生の礎にしてほしい。昨年の高3生で、第2次世界大戦の降伏文書調印の際の写真を題材に、近代日本の政治体制について、1時間講義ができる程の見識を育てた生徒もいます。本校の授業ならそうした成長も可能だと思っています。
菅原
将来どんな方向に進んでも、出会った知識や情報を「科学的に正しいか」判断する力が必要です。新型コロナについての理解もそうですが、今後特に、この力は大事になっていくと思います。
(文:上田大朗 写真:中学受験サポート)
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