「性産業先進国」の日本で、性教育がまともに行われないワケ – ニュース・コラム – Y!ファイナンス – Yahoo!ファイナンス

「性産業先進国」の日本で、性教育がまともに行われないワケ-–-ニュース・コラム-–-y!ファイナンス-–-yahoo!ファイナンス 基本問題

6:01 配信

ダイヤモンド・オンライン

● ジェンダーギャップ指数が最低レベルの日本で 性教育が注目されているワケ

精液を「汚いもの」と思っていないか?

初めての生理(初経)があったとき、「怖い」とか「恥ずかしい」と思わなかったか?

マスターベーションのことを、「いけないこと」「後ろめたいこと」と思い込んでいないか?

「好き」だから、「愛している」から、「セックスする」「セックスしなくてはいけない」と考えていないか?

生理前後に体調を崩す人を「甘えている」「サボっている」と感じたことはないか?

ピル(経口避妊薬)が医師の処方箋なしで買えるようになると、女性が性に奔放になると思っていないか?

子どもに「赤ちゃんってどこから来たの?」と聞かれて、焦ったことはないか?

インサート(挿入)やオーガズムがないと、「セックスをする意味がない」と考えていないか?

 世界経済フォーラム(WEF)が国別に男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ指数2021」は、調査対象となった156カ国中、日本は120位だった。その一方近年、性教育が注目されている。性教育に関する書籍が数多く出版、ネットではSNSやYouTubeなどを中心に性教育が取り上げられ、リアル・ネット双方で見聞きする機会が増えている。

 おそらく、「このままではまずい」「性教育は必要だ」と考える人が増えているからだろう。しかし、未成年の子どもならともかく、成人している大人であれば、「今さら性教育なんて」と思う人もいるかもしれない。そんな人は、冒頭の文章を読み返してほしい。1つでも当てはまったなら、今からでも性教育を受けておいて損はない。なぜなら、知っておいたほうが絶対「おトク」だからだ。

 だが、私たち大人には、性教育を受ける機会がない。そんな大人たちに向けて、性の分野に詳しいさまざまな専門家から、性に関する正しい知識を学ぶ。

 それがこの連載、「100倍明るい家族計画」のテーマだ。

● 日本の性教育不足は 「不幸」を招く

 私は約2年前、若年性更年期障害を疑い、婦人科を受診。ホルモン検査を受けた結果、「PMDD」と診断され、心療内科の受診を勧められた。

 PMS(PreMenstrual Syndorome:月経前症候群)・PMDD(PreMenstrual Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害)とは、月経開始の3~10日前から始まる精神的・身体的症状で、月経開始とともに減退、消失するのが特徴だ。

 現在月経のある女性の7~8割が、月経前に落ち込みやイライラ、不安や緊張感、頭痛や腹痛、不眠や過眠などの症状、約1割が社会生活に影響があるほどの症状を持っているといわれ、また約1割がPMDDとの報告もあり、治療の対象となる。

 私は診断されるまで、PMDDという病気を知らなかった。当時はネットで調べても、PMSに関する情報は複数あったが、PMDDはほとんど見つからなかった。そこで私は、PMDDという病気の認知度の低さを問題視し、「まずは知ってもらうことが大事だ」と考え、PMS・PMDDに苦しむ女性やその周辺の人に話を聞き、記事を発信し始めた。また、昨年は当事者同士が情報交換し、悩みを共有し合う場が必要と考え、「月経前の悩みに寄り添う会」を立ち上げた。

 約2年にわたるその活動の中で、私は日本の性教育の不足が、PMS・PMDDに悩む女性やその周囲の人たちを苦しめている要因のひとつなのではないかと考えるようになっていった。

 なぜなら、小学校高学年の頃に月経に関する授業を受けた記憶はあるが、「月経前後に精神的・身体的にしばしば不調になることがある」ということを学んだ記憶はないからだ。もちろん、月経前後に不調になった場合に、「治療できる」ということも教えられてはいない。ただ、ある日突然男女別にされ、女子は女性の体の仕組みや月経が起こるメカニズムを教わり、男子はその間、校庭で遊んでいたという記憶が残っているに過ぎない。

 もしもこのとき、「月経前後に精神的・身体的にしばしば不調になることがある」ということや、「治療できる」ということを教わっていれば、長い間不調の原因が分からず、1人で苦しまなくて済んだのではないか。また、男子もこのとき、女子の月経について一緒に学んでいれば、彼女や妻、職場の女性などが月経で辛そうなとき、対応の仕方や受け取り方が違っていただろうと思うのだ。

● 日本の大人たちが 性教育を受けられなかった背景

 実際に、小・中学校・高校などで性教育を行っている元養護教諭で性教育講師の「にじいろ」さんによると、「1992年以前の小学校には保健の教科書自体が存在せず、1992年頃にようやく教科書ができた。そのため、それまでは高学年の女子を中心に行われてきた月経教育が、授業として男女共修で行われるようになっていったのではないか」という。

 つまり、1992年以前に小学校の高学年だった現在30代後半以上の大人たちは、女子はともかく、男子は性教育を受けていない可能性が高いということだ。

 ただし、1992年以降、ただちに性教育の男女共修が始まったかといえばそうではない。20年以上前から性教育に携わってきた助産師の百名奈保さんによれば、「月経教育や性教育は、自治体や学校によって内容や実施の仕方に違いがあり、現在も学校によって、『男女別』『男女共修』『女子のみ』と、行われ方はさまざま」なようだ。

 「男女別」で行えば、男子・女子それぞれの込み入った悩みや質問が出やすく、答えやすい。「男女共修」で行えば、男子・女子それぞれの心身の違いを知り、お互いをいたわり合うことを期待できるなど、行われ方にはそれぞれ、長所と短所があるため、どのような形で実施するのかは、学校に任されているという。

 大人たちの中には、「生理や性の話を、男女一緒に聞くのは気まずい」と思う人もいるだろう。では、実際に男女共修で性教育・月経教育を受けた子どもたちから「にじいろ」さんに寄せられた声を紹介したい。

「聞く前は、男女一緒にこういう話を聞くのは嫌だったけど、聞いてみたら、一緒に聞くことに意味があると感じた」

「自分とは違う性を知ったことがきっかけで、他の人のことを想像することや、思いやることができるのだと気づいた」

 大人の男性でも女性でも、「知らなかった」「勘違いしていた」が悪気なく誰かを傷つけていることは少なくない。しかし、知っていれば防げる。私は、男女平等に月経や性教育を受けるメリットは大きいと感じている。

● 性教育を遠ざけたがる大人たちが生み出す 「性教育=ポルノ、セックス」という誤解

 昨年出版された『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』(KADOKAWA)の著者の1人である村瀬幸浩氏は、「1992年以降も以前も大して変わらない。日本の大人は男性も女性もまともに性教育を受けていない。だから性について子どもに教えられないのは仕方ない」と話す。

 日本の学校の教科書は、文部科学省が制定した学習指導要領に沿って作られているが、教科書での性教育の内容は、現在でも「月経」や「射精」という言葉の意味は教え、「赤ちゃんは、女性のお腹の中で育つ」としながら、受精や性交の仕組みは記されていないなど、大きな疑問点が残されたままだからだ。

 結果、子どもは友人や交際相手、アダルトビデオやインターネットのアダルトサイトなどから性の知識を得る。しかし、そういったものは男性の興奮をかき立てる目的で作られた「妄想」や「ファンタジー」が多く、暴力や支配によって相手を従わせる表現が少なくない。

 一方、性教育を行うことについて、「寝た子を起こすな」と反対する大人がいる。だが、自分たちが10代前後の頃、性への興味・関心は全くなかった(寝ていた)だろうか…?

 村瀬氏は、「正しい知識がない状態で性への好奇心が膨らむことこそ、とても危険なことだ」と警鐘を鳴らす。

 例えば、子どもに「川に入ってはいけない」と禁止するだけでは、子どもはなぜだめなのかが分からず、逆に川が気になって近寄りたくなってしまう。しかし、「川は浅く見えても、急に深くなっているところや、流れが早いところがあって、溺れやすいから危ないんだよ」と丁寧に教えれば、子どもでも理解できる。

 幼児期から性教育に力を入れているオランダでは、15歳までの性交渉経験率や妊娠率が低いという。このことからも、性について正しい知識を得れば、慎重に行動できるようになることがうかがえるだろう。

● 大人と子ども、両方への 性教育がもたらす2つのメリット

 村瀬氏は、高校の保健体育教師を務めていた頃、日本の性教育の遅れや不足に危機感を持ち、独自に性を学び、生徒たちに教えるようになった。高校を退職してからは、一橋大学や津田塾大学で「セクソロジー」を講義し、性に関する書籍を数多く執筆してきた。

 「性について理解が深まるにつれて、もっと早くから学んでいれば、もっと早く自分に自信が持てたし、もっと早く心地よい関係づくりができたと思う」と村瀬氏は語る。

 村瀬氏によれば、日本の性教育は世界の中でもかなり遅れており、アジアの中でも中国や韓国のほうが意欲的に取り組んでいるという。その半面、世界のポルノの約6割が日本で作られており、「性産業先進国」とやゆされてきた。こうした状況の中で、「性教育=ポルノ」「性教育=セックス」という誤解が生じ、性教育の必要性が理解できない大人が跡を絶たない。

 そこでまず大人は、以下の2点を肝に銘じるべきだという。

 (1)「性教育」と「ポルノ」は、全く違うものだと認識をアップデートすること

(2)セックスは、性教育のたくさんあるテーマのひとつにすぎないこと

 性教育とは本来、「いのち・からだ・健康」の学問。そして人格を育てるのに必須の「教養・知性」だと村瀬氏は言う。

 つまり、性を学ぶことで、以下のような2つのメリットがあるという。

 (1)性的トラブルを避けられ、万が一トラブルに遭っても解決に向かって適切に対処できる人間になる

(2)自分の性や身体に対して肯定的に捉えられるようになり、自己肯定感の高い人間になる

 自己肯定感の高い人は、自分だけでなく、相手も尊重できる。そのため、性の正しい知識は、幸せな人間関係を築くための土台となる。

 人々が男女の性の違いや多様な性のあり方などを理解できるようになれば、社会は、家庭は、会社は、学校は、もっと過ごしやすく、楽しく、明るくなるのではないだろうか。

 次回から、みなさんとともに、性について学んでいきたいと思う。

 (ライター・グラフィックデザイナー 旦木瑞穂)

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最終更新:7/2(金) 6:01

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