学校の授業がICT(情報通信技術)の活用で大きく変わりつつある。文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」の一環で、福島県内でも多くの小中学校で4月からパソコンやタブレット端末が児童・生徒に1人1台ずつ配られた。試行錯誤が続く教育現場に迫った。
「みんなのところに資料を送りました。それを見て下さい」。小林勇二教諭(41)がタブレット端末で撮影したグラフを授業支援アプリを通じて送信すると、児童たちの手元の端末に一斉に映し出された。
郡山市立芳山小学校で6月7日にあった6年生30人の社会の授業。児童たちは「震災復興の願いを実現する政治」をテーマに、郡山市の未来について意見を互いに発表していた。
視察に来た品川万里市長が教壇に立ち、市内の子ども(0歳~18歳)の数が若いほど減っているA4判の紙に印刷したグラフを取り出した。そのグラフを小林教諭は撮影し、児童に「配布」したのだった。
この日の授業を迎えるにあたって小林教諭はイラスト図などの学習教材を準備。児童は「未来の郡山」を考えて端末に保存し、教諭に提出していた。
授業では全員の意見が一覧で映し出された中、一人ひとりが説明し、小林教諭は発言の要旨を黒板にまとめていった。終了後、端末のカメラでそれらを撮影する児童もいた。
タブレットを活用した授業について、小林教諭は「興味関心を引くよう工夫しています」とし、新たな気づきとして「デジタル時代の子どもなので自分の考えをノートに書くことに抵抗ある子でもタブレットなら打ち込める」と話す。また、「教材準備の時間は非常に短くなった」と、教師側のメリットも実感する。
斎藤煌太君(11)は「いろいろな授業でタブレットを思い通りに使えばもっと勉強ができる」。池田悠起君(11)も「いつも意見を言わない人の考えもタブレットを通じて分かったりして楽しい」と話していた。
ネット検索で疑問点などを調べるほか、国語では文書作成などができ、算数では図形やドリル演習。理科では植物の成長記録を写真で残せる。体育は運動の様子を互いに動画撮影して確認しあう。
「可能性は無限大」と小林教諭。その一方、「タブレットありきではなく、アナログ的な学習も併用しながら一番学習効果が高い形、学力を高められる授業に取り組んでいきたい」と話していた。
国の「GIGAスクール構想」の加速化に伴い、郡山市は昨年度末までに新たに約1万6400台のタブレット端末を調達。49小学校、25中学校、2義務教育学校の児童生徒約2万4400人に「1人1台」体制を整えた。全校のネット環境も整備し、4月からは毎時間のように授業で使えるようになっている。
各学校ではビデオ会議システムや授業支援アプリ、クラウド型教材ドリル、デジタル教科書などを活用して、「個別最適な学びと協働的な学びを日々実践し、最適な学習方法を試行錯誤している」(小山健幸学校教育部長)という。
コロナ禍の昨年、学年閉鎖した学校に対し端末を各校から集め、オンラインで授業を続けた。同市は現在、2校でタブレットの持ち帰りの実証研究を続ける。保護者との連携や使用ルール作りなど指針ができ次第、全校で導入する。
いわき市は62小学校、39中学校に約2万4千台のタブレット端末を配備。各学校で光回線の引き込み工事などを順次進め、「2学期中には全校で『1人1台』でタブレットを使えるようにしたい」(学校教育課)という。
46小学校、20中学校、1特別支援学校で約1万9千台のタブレットを配備し、4月から「福島型オンライン授業」を始めている福島市。通常授業に加え、自宅学習でも活用することを目標に掲げた。
小学生は「午前8時~午後8時」、中学生は「午前8時~午後9時」などのルールを決め、週1回程度の持ち帰りを試行する。同市教育委員会が5月に調査したところ、「学校の半数が週の半分以上の授業にタブレットを活用している」との回答があったという。
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タブレット端末をどう活用するかは一人ひとりの教諭に委ねられている。「先生によってデジタルリテラシーの個人差が大きい」とし、各市とも研修や学習会などにも力を注いでいる。
郡山市西田町の市教育研修センター。5月27日、小中学校の教諭19人が「ICT活用授業づくり学習会」に参加。タブレットで使える授業支援アプリの操作方法などを学んだ。
指導主事がアプリの仕組みや授業作りに役立つ基本操作を説明。その後、4人一組に分かれ、1人が先生役、3人が児童役で模擬授業を交代で繰り返した。
郡山ではこの学習会を昨年度は5回実施して96人が参加。今年度は12月まで計8回予定する。学校ごとの独自研修のほか、指導主事が学校を訪れる「出前講座」は昨年度のべ30回、624人の教諭が受講。今年度も継続している。
終了後、大槻小の星ゆかり教諭(56)は「支援アプリはハードルが高く今まで使ったことがなかったが、受講してぜひ子どもたちとやってみたい」。海老根小の吉田美郁教諭(43)も「アプリの機能を使いこなせていなかったので参加しました。研修でよく分かり、明日からの授業で使えそうです」と話していた。(見崎浩一)
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〈GIGAスクール構想〉 全ての小中学生に1人1台のパソコンやタブレット端末を配る国の事業。「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字で「すべての子どもたちに、グローバルで革新的な入り口を」という意味になる。2019年3月時点の配備状況の全国平均は5・4人に1台だった。国は19年末、23年度末に1人1台を実現する目標に掲げたが、コロナ禍の影響でオンライン学習が必要になったこともあり、20年度内に早めた。
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