近年、大学入試改革や私大定員厳格化をうけて、大学受験に少しでも有利になるようにと、中学受験人気が再燃しています。
中学受験を考えていない小学生にとっても、効果的に学力を伸ばすための「頭の使い方」を身につけておくことは重要でしょう。
『学習の作法 中学受験・中学入学準備編 (小学校4年生~6年生向け)』では、中学受験、そして中学入学後に一歩リードするために、「何ができるようになればいいのか」「どういう勉強をすればそれが身につくのか」を具体的に紹介しています。
本稿では同書より一部を抜粋しお届けします。
■中学受験をしない子の「基礎力アップ勉強法」
近年、長距離の通学を避けるトレンドから、無理に難関中学を目指さないというご家庭が増えています。また、地方在住のためそもそも目標となるような中学校がないというご家庭も多いかと思います。
その場合、本気で難関中学を目指して進学塾に通っている子たちとまったく同じ勉強をするのは現実的ではありません。難問の解き方を教えてくれる先生も、その難問を当たり前のように解く子も周囲にいないからです。
だからといって、まったく何の対策もしないのでは、進学塾組の優等生とは差が開く一方。将来的に東大・京大や医学部を目指すのなら、彼ら・彼女ら「2月の勝者」こそが、競争相手の多くを占める存在になるのです。
そこで、難関中学を目指す環境にない場合、どうすれば「2月の勝者」に対抗できる学力を身につけられるのかを考えてみます。
思考力や判断力を重視する新しい大学入試傾向でも、それ以前と同等以上に重視されるのが「読解力」です。
最難関レベルの進学校では、そのまま大学入試に使われてもおかしくない国語の問題が出題されることも珍しくありません。国語にかぎらずすべての科目において、読解力は難関大学受験に向けた学習の前提となる非常に重要な能力だからでしょう。
もちろん、これは中学受験をしない場合でも同様です。読解力が不十分だと、いずれ数学や英語の学習でつまずいてしまうことになります。これが、読解力については、難関中学に受かるような子たちに近いレベルでの学習をしておくべきだと考える理由です。
目標としては、「文章読解・作成能力検定」(文章検、日本漢字能力検定協会)がおすすめです。公立中高一貫校の入試だけでなく、新傾向の高校入試問題にもぴったり傾向が合っています。
また、一口に読解力といっても、いくつかの要素があります。
一つは語彙力や話題に関するものなどの知識面。知らない言葉だらけだと、文章そのものが何を言っているのかよくわからないでしょうし、「自然・環境」や「文化の違い」など、頻出のテーマに関してのいわゆる「背景知識」が足りないと、読むのに時間がかかりすぎて、国語のテストを最後まで解けないということになりがちです。
■中学受験「しない」メリットも
もう一つ大きいのが、文章の読み方。学習に必要となる、客観的に「文章の構造」をつかむような読み方は、日常生活ではありがちな感情移入して物語を読むような読み方、あるいは必要な情報だけを探してざっと見るような読み方とは大きく性質が異なります。
そのため、文章全体をしっかり理解するための練習も、ぜひしておいたほうがいいでしょう。
そのための素材としておすすめなのが、中学生向けの理科・社会の参考書や、『岩波ジュニア新書』『ちくまプリマー新書』といった読み物です。
難関中学を目指す場合、算数や理科・社会にも多大な時間と労力を割かなければならないので、なかなか読む時間をとるのは難しいでしょうから、これらを扱えるのは中学受験を選択しない組の大きなメリットとも言えると思います。
一般的に、高校入試に必要な知識は難関中学入試に比べるとかなり少ないので、中学生向けの参考書の中には理屈の理解を重視したものもけっこうあります。
もちろん、中学受験向けの良書もありますが、それらにはやはり多くの用語知識が詰め込まれています。用語知識に圧倒されて、肝心の構造がつかめないのでは、元も子もなくなってしまうでしょう。
ともあれ、理科・社会の学習や興味がある分野の読書を通して読解力を伸ばすことができれば、国語の読解問題集は数冊で済みます。もちろん、エンターテインメント性の高いものを多く扱うこともできますし、難関中学の問題に挑戦してみることもできるでしょう。
私が中学受験組以外には難関中学受験の参考書をあまり勧めない理由の一つは、収録されている知識量が多いということ。もう一つは、そもそもその知識の中には中学受験以外では活用されにくいものが多いことです。
たとえば、動植物の名前とその生態、細かい山や川の名前、あるいは数学なら簡単に解ける問題の算数独特の解き方など。もちろん、これらの知識もその分野が大好きな子なら大いに身につければいいと思いますが、趣味として楽しむ以上の効果はたいして見込めません。
一方で、進学塾が扱うような学習内容の中には、受験するしないにかかわらず、身につけてほしい知識もたくさん含まれています。特に、算数で数の性質をテーマにする問題や、理科の実験内容とグラフを検討させるような問題は新傾向の大学入試にも直結します。
日本の細かい地名や作物名はともかく、「なぜその地域にその産業が発達しているのか」といった理解は読解力につながりますし、高校入試・大学入試で主流の世界地理の問題でもそのまま使えることが多いものです。
■英語:「読む、聞く」( + 話す)を仕上げる
次に、情報が錯綜している英語について。
まず、大学入学共通テストにおいて「4技能」(読む、書く、聞く、話す)の必須化は見送られたのですが、これは改革がまったくなされなかったということではありません。文法などの知識問題が姿を消した一方で、リスニングの配点は大幅に引き上げられてリーディングと同等になっています。おそらく、難易度も上がってくるでしょう。
文法ドリルが中心の従来型の英語学習では、今後の共通テストのリスニングに対応するのは難しいと思います。なぜかと言えば、日本人が英語をネイティブのスピードで理解したり流暢に話したりするには、3つの大きな壁(発音、リズム、後置修飾)があるからです。
そして、これらの壁の高さは小学生時代に行った英語学習によって大きく変わってくる可能性があります。
現在の小学校英語は、「聞く・話す」に重きが置かれています。このうち、「話す」については、以前から中学校で行われているようなパターンプラクティスが中心であり、内容も簡単なものばかりです。
ところが、今の小学生が授業で聞いている音声の中には、かなりレベルが高いものも少なくないのです。
これが、「一部の単語さえ聞き取れれば」いいではなく、「だいたい理解できるように」なっていたら、卒業する頃には、英語の聞き取りがかなりできるようになっているのではないでしょうか。英語の音とリズム、日本語にはない構造に慣れていれば、十分可能なレベルだと思います。
さらに、文法や単語も勉強する際の目標として「英検」がよくあげられます。ただ、今の英検では3級からライティングが必須になっていて負担が重いので、「TOEIC Bridge」や「JET(ジュニアイングリッシュテスト)」、「TOEFL Primary」のほうが現実的かもしれません。
特に英検3級のレベルは、ネイティブの小学1~2年生、つまり読んだり話したりするのはともかく、文を書くのはまだまだおぼつかない段階に相当します。無理にライティングの対策までするよりは、「読む、聞く」(+話す)を仕上げるほうが自然なようにも思えます。
■算数: 図や表を書いて、分析する
算数については、難関私立を受験するのでなければ、無理に受験算数を学習する必要はないというのが私の見解です。
その一方で、数の性質をテーマにした問題で表を書く練習や、図形の移動の問題でいくつもの図を自力で作成する練習は、大学入試を見据えればぜひ早いうちからやっておいてほしいものです。
ただし、それを算数でやるか数学でやるかは問いません。たしかに、書き出したり表を書いたりする問題については、算数のほうがまとめて扱ってくれる教材が充実していてやりやすいと思います。公立一貫校の適性検査にも、よい問題がたくさんあります。
その一方で、図に書き込んだり図を作成したりする問題は、座標平面上で行うことが多い数学から入るほうがやりやすいのではないかとも思います。
いずれにしても、大切なのは自力で図や表を書いての分析をやり続けること。
■塾に頼らずともできる勉強法はある
実は、教科書をしっかり活用すれば自然にそうした学習ができるようになっているのですが、現実的にはできていない子が圧倒的に多いようです。
もし、特殊算の文章題をやるとしたら、式を丸暗記するのではなく、必ず自力で図を作成してから式を立てることが大切です。
その図の中にxや文字式を書き込んで方程式にするというところまでやるほうが、後々スムーズだと思いますが、きちんと図を書いてさえいれば、さほど障害はないでしょう。
数学を進めるなら「数学検定」を目標にしていくのもよいと思いますが、より入試改革に対応している「思考力検定」(国際算数・数学能力検定協会)もおすすめです。
塾に頼らずに簡単な公立一貫校対策と同等の学習ができますし、公式テキストの解説には正答率も示されて使いやすくなっているからです。
◆中学受験「しない子」の勉強のポイント
■ 国語は受験組と同じレベルで学習できていないと厳しい。頻出分野を複数の視点から
■ ただし、素材には中学生向けの理科・社会の参考書が使える
■ 難しすぎる算数や細かすぎる動植物の知識、地名は好きな子だけがやればいい
■ 限定的に、中学入試対策も取り入れる
■ 英語の3つの壁(発音、リズム、後置修飾)を越えて、授業を100%理解する
■ 算数・数学の一貫した作法を身につける
東洋経済オンライン
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最終更新:6/23(水) 14:01
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