Getty Imagesより
「子どもの防犯のために性教育が必要」「日本の性教育は非常に遅れている」——保護者の方は、そんな話を一度は耳にしたことがありませんか。
とはいえ、「未就学の子どもにも生殖の仕組みを教えないといけないの?」「『赤ちゃんってどうやって生まれるの?』って聞かれたけれど、答えに戸惑ってしまった」「中高生の子どもに性に関する知識を教えてあげたい」など、色々な悩みがあると思います。
そのような保護者の悩みに寄り添ったサイトが「命育(https://meiiku.com/)」です。命育は2021年3月現在、日本で唯一の性教育に特化した保護者向けサイトで、幼児から思春期までの子どもを持つ保護者に向け、性教育のほか子どもの発達や性に関するさまざまな情報を提供しています。
保護者から聞こえてくる性教育に関する悩みや、「命育」の活用方法について、プロジェクト代表の宮原由紀さんと、イラストチーム監督の伊賀弓さんにお話を伺いました。
宮原由紀
大手のメディア・エンタメ企業を3社経験し、計10年以上メディアに携わるが、より多様な働き方を求めて、独立。3児(男2・女1)の母。 「長女の就学を機に、性について伝えようとするも苦戦。また、性教育に関して簡単に情報を得る方法がないことに気づきました。同じ悩みを持った親たちが多いことを知り、現メンバーとともに当プロジェクト発足を決意」
伊賀弓
中学校保健体育教師として、教育現場にて、1000人以上の中学生の恋愛相談・性教育を行ってきた。結婚を機に退職・上京するも、WEBデザインを学び、デザイナー・イラストレーターとして活躍中。1児(男)の母。 「学校の性教育の限界を痛感する一方、子供との性の対話を通じて、家庭での性教育の難しさを実感。大人に向けた性教育マニュアルの必要性を感じています」
保護者は子どもへの伝え方に悩んでいる
——近年、性教育への注目が高まっています。なぜ家庭での性教育が必要なのでしょうか。
宮原由紀さん(以下、宮原):学校だけでは、十分な性教育が難しいからです。現状、小学校4年生になると、学校で初経や精通などの話がされますが、子どもが自分ごととして捉えられない場合もありますし、一方で学校で習うよりも前に初経がきてしまう子どももいるでしょう。また、性教育の教え方を学んでいない先生も多く、「学習指導要綱」による制限もあり、授業の内容も十分とは言えないんです。
最近注目を集めている理由は、インターネットの影響が大きいのではないでしょうか。ネットを通じ、親が知らないうちに子どもが性的情報にアクセスすることが容易になったり、性のトラブルに巻き込まれたりする恐れが高まりました。子どもへのリスクが大きくなり、家庭で性教育をする必要性を感じる保護者が増えてきたのだと思います。また、子どもを狙う性犯罪への防犯意識の高まりも要因のひとつだと思います。
伊賀弓さん(以下、伊賀):私は10年ほど前まで中学校の保健・体育の教師だったのですが、教科書通りの授業をするのに精一杯で、現実的に子どもに必要であろう+αの内容を伝えるのは難しい状況でした。10年前ですら、子どもたちがインターネットで誤った情報も色々と得ていたので、学校では教えられない部分を家庭で伝えていける環境が必要だと思っています。
——性教育について、保護者からはどのような悩みが聞こえてきますか。
宮原:就学前から小学校低学年くらいまでの保護者からは「子どもからこんなこと聞かれたんだけど、どう答えたらいいか」や「防犯の視点からどう教えてあげればいいか」などが多いですね。思春期以降ですと回答に迷うものもあります。
例えば「自分の娘はまだ性的なことには興味がないと思っていたのに、スマホを見たら多数の人と性的な会話をしていた」や、男の子の保護者からは「LINEなどで女の子と性的な画像を送り合っていたのを発見してしまい、どうすればいいのかわからない」などの悩みをお伺いしたことがあります。
——思春期になると、子どもと親のコミュニケーションは減少する場合が多いですよね。親としては心配でも、子どもからしたらスマホというプライベートなものを見られるのは嫌だと思うのですが、保護者間では子どものスマホを見ることについて、どのようなお話をされているのでしょうか。
宮原:ご家庭によっても異なるのですが、スマホを買い与えるときに「見るからね」と言って渡しているケースや、特にルールを決めずに渡しているパターンもあると思います。「スマホを見る」と伝えていても、プライベートな連絡を見てもいいのかというのは別問題だと思うのですが……。
そのことについて専門家に回答を求めた際には、「(とくにルールを決めていない場合)子ども側はスマホを見られていると思っていないので、黙ってやりとりを見てしまった時点で信頼関係は崩れています。叱ったり聞いたりしても何も耳に入らないと思うので、まずは関係性作りからです」とおっしゃっていました。
——学校にしっかりとした性教育を望む保護者の方は増えてきているのでしょうか。
宮原:最近増えている感覚はあります。「命育」のサイトでは、性教育に関する講演の相談ページを作っているのですが「学校に性教育講演の要望を出したものの、『現場では難しい』と言われた」「保護者同士で有志を募って性教育講演をしたい」という声がありました。
学校に求めるだけでなく、保護者やPTAで積極的に性教育の情報を集めている印象があります。PTAで性教育の冊子を作ってご家庭に配ったり、オススメのサイトや本を紹介したり、「冊子に『命育』のことを載せてもいいですか?」とお問い合わせいただくこともあります。
——「性教育の大切さはわかるけれども、突然始めることのハードルが高い」と悩まれている保護者の方も多いと思いますが、何かおすすめの方法はありますか。
宮原:中高生になると、それまで性の会話をしてこなった場合、親から直接伝えるのはハードルが高いので、YouTubeや本などのツールに頼るのがおすすめです。「こんなのがあるみたいだよ」と直接伝えたり、中高生向けの性教育の本を子ども部屋に置いておいたり。親が言いにくいことを代わりに伝えてくれるので、「今更できない」とならず、ぜひ今からでも始めてみてください。
小学生までは比較的、直接子どもに話やすいのではないでしょうか。中高生になってしまうと親から子どもに教えるのは、かなりハードルが上がってしまうので、まずは小学生までの間でいかに性教育の話ができるかが大切です。
「『命育』にどんなコンテンツを求めますか」とアンケートを取ったところ、最も多かったのが「子どもへの伝え方が知りたい」といった声でした。「命育」ではお子さんに「これ読んでみてね」と渡せるコンテンツも増やしており、性教育本の紹介コーナーから中高生向けの本を「命育」経由で購入されている方も多いので、子どもが読むためのコンテンツも求められていると感じています。
——子どもに「これ読んでみてね」と渡せるものが増えれば、大分ハードルが下がりますよね。ただ、性教育に関心を持っていない保護者もいると思います。
宮原:関心のない人は「性教育=妊娠・出産」に関する話だと思っているため「まだうちの子には関係ない」と思っている方が多いですね。とはいえ、妊娠・出産だけでなく、体の仕組みやジェンダーの話、人との関係性や同意などひっくるめて性教育であり、防犯に関することもそこに含まれると話すと、「それだったら大切なことだね」と理解してもらえます。
気を付けなくてはいけないと思っているのが、「命育」も“性教育サイト”と謳ってはいるのですが、“性教育”という言葉で敬遠してしまう人がいるんです。なので、「命育」もぱっと見は性教育感が強くないデザインにしたり、「性教育」という言葉以外で伝えることも必要と感じています。
保護者って、すでに子育てを色んな側面で頑張っているので、「性教育」と聞いて「また何か新しいことを頑張らなくてはいけない」と捉えられるとそこで心を閉ざされてしまうんですよね。
「性教育」とひとことで言うのではなく、防犯についてや、プライベートゾーンについてなど、具体的にわかりやすく話したり、「子どもが大きくなったときに役立つ」といった情報発信のアプローチで、プラスの印象を伝えていく伝え方の工夫も重要だと感じています。
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