中学校で理科を教える男が、アパートの自室で原爆を製造し、日本政府に孤独な戦いを挑む。1979年に公開された長谷川和彦監督の映画『太陽を盗んだ男』は、当時としてもかなりセンセーショナルな内容だった▼沢田研二さんが演じた主人公の男は液体プルトニウムを入手しようと原発の施設内に侵入する。厳戒態勢が敷かれているはずなのに、意外にあっさりと奪い取ることに成功する▼東京電力柏崎刈羽原発で、テロ目的などの不正侵入を検知する装置が計15カ所で故障していた。にわかには信じがたいニュースを聞いて、この映画のことが脳裏に浮かんだ▼故障した装置の代替措置はお粗末なもので、原子力規制委員会は安全重要度を4段階で最悪レベルに当たる「赤」と評価した。この問題以外にも、所員が同僚のIDカードを使って中央制御室に不正侵入していたことが明らかになっている。危機管理がこれほどずさんな会社に、原発を運転する資格はない。そう批判されても仕方がない▼男は刑事との死闘の末、かばんに入れた原爆を持って人混みに消えていく。起爆装置を作動させる時計の秒針を刻む音が続き、爆発音とともに画面は暗転する。この名作を、フィクションとして純粋に楽しむことができないのは、何とも薄ら寒い。(2021・3・27)
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