河野裕子短歌賞、入賞作決まる 10年の歴史に幕 – 産経ニュース

花のつくりとはたらき
歌人の河野裕子さん

身近な家族を題材に愛唱性の高い歌を数多く残した歌人、河野裕子さん(かわの・ゆうこ、1946~2010年)を顕彰する「第10回記念~家族を歌う~河野裕子短歌賞」(産経新聞社主催、富山常備薬グループ協賛)の選考が行われ、「家族の歌・愛の歌」部門で最優秀の河野裕子賞に兵庫県川西市、広瀬明子さん(69)と同県高砂市の鈴木裕子さん(58)の歌が選ばれた。

選ばれた歌は広瀬さんが「みたり子は妻を迎へてわが家族増えたるやうな減りたるやうな」、鈴木さんが「『さ』のしっぽ突然生えるちほちゃんさあのさそれでさ公園行ってさ」。

同部門と「自由題」、中高生部門「青春の歌」に計9337首が寄せられた。自由題の河野裕子賞は和歌山市の松田容典さん(84)の「仁王門阿形の鼻孔に泥蜂が巣を作りいて繁(しげ)く出入りす」、青春の歌は東京都立桜修館中等教育学校1年、小林杏珠さん(13)の「重要じゃないけど君と見たところ理科便覧の黄色い付箋」が選ばれた。

優秀作を多数投稿した最優秀校賞は、京都府立嵯峨野高校と静岡市立蒲原中学校に決まった。

同賞は今回で終了し、10年の歴史に幕を閉じる。歴代優秀歌からグランプリ選考も行われ、一般向け部門は岐阜県池田町の太田宣子さん(50)の「雨上がり世界を語るきみとゐてつづきは家族になつて聞かうか」、中高生部門は鳥取県立鳥取東高校(当時)の石名萌さん(19)の「干からびたカエルをよけてすすみゆくばいばい、わたしは夏をのりきる」が最優秀に輝いた。

選考経過

寄せられた作品は9337首。漫画家の池田理代子さん、歌人で河野さんの夫の永田和宏さんら5人の選者がオンラインで選考会に臨み、「家族の歌・愛の歌」「自由題」「青春の歌」の河野裕子賞(最優秀賞)に加え、今回で河野裕子短歌賞が終了するため、歴代の最優秀賞からグランプリ作品を選んだ。選考経過は次の通り。

俵万智(歌人) 「家族の歌・愛の歌」部門の<みたり子は妻を迎へてわが家族増えたるやうな減りたるやうな>は、3人兄弟がそれぞれ妻を迎えたけれど、男の子は結婚したらお嫁さんの方に取られちゃうから、最後の「減りたるやうな」が面白くて、実に言い得て妙だなと思います。

歌人の俵万智さん

永田和宏(歌人) 断言はしないで「やうな」で止めているのが非常にうまい。もう一つの歌<『さ』のしっぽ突然生えるちほちゃんさあのさそれでさ公園行ってさ>は、小さい子供には会話の全部に「さ」をつけるプロセスがあって、それを「『さ』のしっぽ」と言ったのもいい。両方とも甲乙つけがたい作品ですね。

歌人の永田和宏さん

東直子(歌人) 小さい子の特徴や癖をうまくつかんで、しっぽが生えるという工夫した表現が、とても生き生きとしている。口から出て消えていく会話が、しっぽを持つという新しい命を得たような感じもあって、とてもいい歌だと思います。

歌人の東直子さん

永田淳(歌人) 3歳とか4歳くらいかな。たどたどしい物のいい方で、この子の年齢がだんだん見えてくる。子供って突然、親が知らないような言葉を話し始めるものですからね。

歌人の永田淳さん

俵万智 子供には言葉のマイブームというか、伝えたくてたまらないといった一時期がある。それを捉えた、まぶしい、いい歌だと思いますね。

池田理代子(漫画家・声楽家) 私は子供を持っていなくて、人生や命の短さとか長さとか、そういうものに気持ちがいってしまう。<『さ』のしっぽ->より、家族の長い歴史が表現できている<みたり子は->の方が、どちらかといえばいいですね。

漫画家・声楽家の池田理代子さん

永田和宏 <みたり子は->は深みがあり、<『さ』のしっぽ->の方は元気があって面白い。河野裕子の子育ての歌には、子供の成長に驚く生き生きとしたものや、子供がどこかに行ってしまうような不思議な感じがするものがある。この賞は今回で最後になりますし、子育ての2つの特徴を表しているということで、2首の同時受賞でいかがでしょうか。

俵万智 それぞれ別の魅力があって、河野裕子の歌の魅力を補完し合っている歌の同時受賞は、意味があると思います。

入選者(敬称略)

【河野裕子賞】家族の歌・愛の歌=広瀬明子(兵庫県川西市)▽同=鈴木裕子(兵庫県高砂市)▽自由題=松田容典(和歌山市)▽青春の歌=小林杏珠(東京都立桜修館中等教育学校)

【選者賞】池田理代子選=野上卓(東京)▽俵万智選=福山航生(埼玉・慶應義塾志木高)▽永田和宏選=平野久美恵(大阪)▽東直子選=船田愛子(大阪府立三国丘高)▽永田淳選=藤原雪華(京都教育大学付京都小中)

【家族の歌・愛の歌】産経新聞社賞=長井洋子(大阪)▽京都府知事賞=西貝里美(静岡)▽京都市長賞=瀬戸内光(山口)▽湖南市長賞=高田時子(兵庫)▽『短歌』編集部賞=生田麻也子(鳥取)▽NHK出版賞=中村英俊(北海道)▽短歌研究社賞=石田正流(大阪)▽青磁社賞=布施木鮎子(神奈川)

【自由題】産経新聞社賞=滝本のぶを(和歌山)▽京都府知事賞=吉田美子(大阪)▽京都市長賞=北川養子(大阪)▽湖南市長賞=田中国博(東京)

【青春の歌】産経新聞社賞=堀田沙央(青森県三沢市立堀口中)▽京都府知事賞=佐々木悠人(京都府立嵯峨野高)▽京都市長賞=菅原詩衣花(京都・大谷高)▽湖南市長賞=金谷琴寧(埼玉・星野学園中)▽京都府教育長賞=水野恵吾(京都府福知山市立南陵中)▽京都市教育長賞=堀友月(静岡市立蒲原中)▽湖南市教育長賞=石崎陽佳(山口県岩国市立麻里布中)▽『短歌』編集部賞=松田宗大(大阪・初芝富田林高)▽NHK出版賞=石川胡桃(神奈川・慶應義塾湘南藤沢高)▽短歌研究社賞=杉本幹太(福岡県立明善高)▽青磁社賞=西川らら(神戸市立鷹匠中)

【健康の歌】健康の短歌賞=北原さとこ(東京)

主な受賞作

河野裕子賞 家族の歌・愛の歌

みたり子は妻を迎へてわが家族増えたるやうな減りたるやうな

兵庫県川西市 広瀬明子さん(69)

河野裕子賞 家族の歌・愛の歌

「さ」のしっぽ突然生えるちほちゃんさあのさそれでさ公園行ってさ

兵庫県高砂市 鈴木裕子さん(58)

河野裕子賞 自由題

仁王門阿形の鼻孔に泥蜂が巣を作りいて繁く出入りす

和歌山市 松田容典さん(84)

河野裕子賞 青春の歌

重要じゃないけど君と見たところ理科便覧の黄色い付箋

東京都立桜修館中等教育学校 小林杏珠(13)

選者賞 池田理代子選

取り壊す故郷の家にあのころの柱の傷を確かめにゆく

(家族の歌・愛の歌)野上卓さん(東京)

選者賞 俵万智選

嘘っぽくぼやけて見える波打ったビニールカーテン越しの未来は

(青春の歌)福山航生さん(埼玉)

選者賞 永田和宏選

水面揺れ黄櫨の葉揺れて山も揺れ吊橋揺れて私も揺れる

(自由題)平野久美恵さん(大阪)

選者賞 東直子選

君が吹くクラリネットにつつまれて体育館はみずうみのそこ

(青春の歌)船田愛子さん(大阪)

選者賞 永田淳選

伝えたい言葉打ち消しまた打ってやっと送れた「雪降ってるね」

(青春の歌)藤原雪華さん(京都)

健康の短歌賞

カピバラの柄の靴下ほめられて母が踏み出す小さな一歩

(家族の歌・愛の歌)北原さとこさん(東京)

一般部門 グランプリ

雨上がり世界を語るきみとゐてつづきは家族になつて聞かうか

(第1回河野裕子短歌賞 恋の歌・愛の歌)太田宣子さん(岐阜)

青春の歌 グランプリ

干からびたカエルをよけてすすみゆくばいばい、わたしは夏をのりきる

(第7回河野裕子短歌賞 青春の歌)石名萌さん(鳥取)

選者(敬称略)

池田理代子<いけだ・りよこ>漫画家、声楽家

俵万智<たわら・まち>歌人

永田和宏<ながた・かずひろ> 歌人

永田淳<ながた・じゅん> 歌人

東直子<ひがし・なおこ> 歌人

かわの・ゆうこ 昭和21年、熊本県生まれ。京都女子大学在学中の44年、「桜花の記憶」で角川短歌賞を受賞しデビュー。平成21年、『母系』で斎藤茂吉短歌文学賞と迢空(ちょうくう)賞を受賞。宮中歌会始の選者を務めた。乳がんを患いながら同年9月から産経新聞夕刊で、家族によるリレーエッセー「お茶にしようか」を連載(『家族の歌』として出版)。22年8月、64歳で死去。他の歌集に『ひるがほ』『歩く』『蟬声(せんせい)』など。

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