【特集】北海道から沖縄まで広く海洋プラスチック問題を探究…駒場東邦 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 駒場東邦中学校・高等学校(東京都世田谷区)は昨年10月から、中1で「海洋プラスチック問題」についての探究学習を行っている。環境保全活動を行うNGOや北海道、沖縄県の学校などと協力した広域的な探究プログラムで、半年間かけて漂着プラスチックごみやマイクロプラスチックを調査・分析してリポートにまとめる。各地で採集した試料を使って行われた実験・観察を取材し、担当教諭に今後の展望などを聞いた。

外部団体や他校と協力した学習プログラム

海洋プラスチック問題の探究学習を指導する石原教諭

 同校は毎年7月、中1生を対象に長野県の霧ヶ峰で林間学校を行い、現地の植物や植生、地形、地質などの観察と研究リポートの作成を行ってきた。しかし、昨年度と今年度は、コロナ禍を考慮して中止せざるを得なかった。そのため、代わりとなる学習行事として今年、初めて設定したのが「海洋プラスチック問題」の探究学習だ。

 「昨年度は昭和記念公園と高尾山に出向いて地衣類などの生態調査を行いました。今年度は林間学校の実施いかんにかかわらず、理科の学習行事を別途行うこととし、以前から理科授業で触れてきた海洋プラスチック問題をテーマに取り上げました」と、理科主任の石原修一教諭は経緯を説明する。石原教諭は大学院時代にマングローブの生態学的研究で博士の学位を取得しており、研究を通じて各地の研究者や環境NGOとの人脈を培ってきた。「そのネットワークを生かし、学習に広がりを持たせたいと思いました」

 石原教諭はまず、国際環境NGO「バードライフ・インターナショナル東京」や、北海道サロベツ原野の環境保全活動に携わるNPO法人「サロベツ・エコ・ネットワーク」、沖縄県の西表島で活動するNPO法人「西表島エコツーリズム協会」に協力を求めた。さらに、それぞれの地元にある北海道豊富町の「なまら!!サロベツ∞クラブ」と、沖縄県の竹富町立船浮小中学校と協力し、「海洋プラスチック問題~私たちにできることを考える」という全体テーマで、講演や校外での試料収集などを含む約半年間の学習プログラムを作った。

片瀬東浜で漂着プラスチックごみやマイクロプラスチックを採取した

 まず昨年10月、理科の授業で四つの研究テーマを提示し、生徒たちに取り組みたいものを選ばせた。「A 海塩に含まれているマイクロプラスチック」「B プラスチックごみが海洋生物に及ぼす影響」「C 日本各地の海洋プラスチックごみの現況」「D 漂着物からみる砂浜海岸の生物多様性」の四つだ。

 11月16日と30日には、バードライフ・インターナショナル東京による講演を聴き、海の生物に対するプラスチックごみの影響を学んだ。また、11月22日には中1生全員で神奈川県藤沢市の片瀬東浜へ行き、研究Cの試料となる漂着プラスチックごみや、大きさ5mm以下のマイクロプラスチックを砂の中から採取した。同時に研究Dのためのビーチコーミングも行った。

海塩や漂着ごみに含まれるプラスチックを分析

 2学期の期末試験明けの12月13~17日の試験休みには、これらの採取物を基にした実験活動が実施された。生徒たちはA~Dの研究テーマごとに20人ほどのグループに分かれ、期間中の1日、自分たちの実験に取り組んだ。

海塩に含まれているマイクロプラスチックを調べる

 取材に訪れた12月17日、研究Aのグループは、市販されている国内外の食用の海塩を試料に、含まれているマイクロプラスチックの種類や量を調べた。3、4人の班に分かれ、日本、韓国、中国、ベトナム、オーストラリア、フランス、イタリアの海塩を2gずつ測って湯に溶かした。溶け残った物を顕微鏡で観察し、外観や比重などからプラスチックの種類を判定して形状や材質、大きさを表にまとめていった。

 この実験は理科授業でも実施しており、「その時は、塩の中のマイクロプラスチックを見てショックを受ける生徒も見られました」と石原教諭は話す。

 研究Cのグループは、4人1組の6班に分かれ、サロベツ、西表島、片瀬東浜で収集された漂着プラスチックごみやマイクロプラスチックを調査、分類した。

 漂着プラスチックごみは目視でプラスチックの用途や製造国を判定し、分類していく。漁網やパッケージの一部など一目で判定できるものもある一方、元の形が分かりづらい破片も多く、「これは浮き?」「いや、フォークの持ち手じゃない」など意見を出し合いながら分類を進めた。

 また、マイクロプラスチックについては、蒸留水、50%エタノール水溶液、飽和食塩水の3種類の液体を用いてプラスチックの種類を判定していた。

 海塩のマイクロプラスチックを調べた生徒は、事前の実験で塩にプラスチックが含まれていることに驚き、テーマに選んだという。講演会では鳥のひなの胃からプラスチックごみが出てきた映像が印象に残ったといい、「プラスチックの消費を抑えるため、マイバッグの使用やリサイクルを積極的にやりたい」と話した。

漂着プラスチックごみを目視で分類する

 西表島のマイクロプラスチックの分析を担当した生徒は、「自然豊かなイメージのある場所にも意外とあることが分かった。深刻に考えないといけない」と結果への驚きを口にした。

 片瀬東浜の漂着プラスチックを担当した生徒は、講演会で、食物連鎖によりマイクロプラスチックが人体にも取り込まれることを知って危機感を持ったという。「家族がマイクロプラスチックのことを知らなかったので、今回の経験を話したい」

 このほか、研究Bのグループは市販の鮮魚や静岡県の戸田漁港から取り寄せた深海魚を解剖し、消化管内に入ったマイクロプラスチックを観察した。研究Dのグループは11月に片瀬東浜で収集した貝類の種類を調べるなどし、生物多様性を調べた。

 これらの実験で得られたデータはテーマごとに共有し、それを基に個人で研究リポートをまとめて提出する。その中から代表者を選出し、2月11日にオンラインで行われる第9回「全国海洋教育サミット」で発表する。また翌日には、「なまら!!サロベツ∞クラブ」、船浮小中学校とオンラインで結んでパネルディスカッションを行う予定だ。

今後も「実体験」の機会を数多く用意したい

 この授業の進め方について石原教諭は「試料収集や実験に際し、基本的な手順は指示しますが、細かい方法や思考には介入しません」と話す。「本校は理科好きの生徒が多い上、さまざまな授業でESD(持続可能な開発のための教育)に関連した問題提起を常に行っているので、基本的な意識が高く、『勝手に伸びていく』のを見守っています」

 また、今年度も見送りとなった林間学校については、「林間学校は『自然を大事にしよう』という意識付けの色合いが強いのですが、今後はもっと総合的、学際的な環境教育を充実させたい」と展望を話す。「海洋教育についても取り組みたいテーマはたくさんあり、現在、外部の人々の協力を得る仕組みを構築中です」

 ベトナムにマングローブを植林するNGOの副代表でもあることから、石原教諭はそのつながりを活用した海外研修も構想しているそうだ。「本校は『自主独立の精神と科学的精神』を教育方針としています。その際に大事なのが実体験です。今回も実体験ならではの環境問題に対する危機感が持てたと思います。こうした機会を今後も数多く用意したい」

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート)

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