プラスチックごみ “地層”のナゾに迫る – NHK NEWS WEB

花のつくりとはたらき

秋田県の海岸に出現した“地層”。

砂と砂の間にあるのは、大量のプラスチックごみです。

なぜ秋田に出現?そのメカニズムは?

全国的にも珍しいというこの状況。取材を進めて見えてきたのは、深刻なごみの問題でした。

(秋田放送局記者 伊藤久博)

海岸にできた「層」

「海岸で珍しい現象が起きている」

話を聞きつけ、訪れたのは秋田市の隣、潟上市にある出戸浜です。

海水浴のシーズンには多くの家族連れでにぎわう、この場所。

一見、普通の海岸ですが…。

近づいてみると、砂と砂の間に大量のプラスチックごみが挟まっていました。

中にはペットボトルのキャップや、さびついたライターも。

こうしたごみが、まるで“地層”のように、およそ10メートルにわたって広がっていました。

さらに、周辺には中国語や韓国語が書かれたペットボトルなどのごみもありました。

2000キロも離れた中国から秋田まで流れ着いたというのでしょうか?

いったいどんな旅をしてきたのか…。

深まるナゾ。

去年10月、このプラスチックごみの「層」を見つけたという地元の男性、渡部晟さんに話を聞きにいきました。

渡部さん

「初めて見たときは、なんでごみがたまっているんだろう、層をなしているんだろうと、びっくりしました。

とにかく海が汚れ放題ということだと思いますね」

近くの中学校で理科の教師をしていた渡部さん。

長年にわたって地質や化石についての研究も続けてきました。

このプラスチックごみの「層」は、まるで、恐竜や古生物の足跡や巣穴といった生活の跡が化石として残った「生痕化石」のようだと話します。

渡部さん

「もし、これが将来1000年、2000年、何億年と残れば、人間の暮らしの痕跡ということになるんでしょうね。

もうちょっといいものだったら残してもいいんだろうけど、捨てられたごみですからね。

未来の人が見たら、昔の人はひどいことしたもんだなと思うんじゃないでしょうか」

海洋汚染にもつながるプラスチックごみ。

海岸で、いったい何が起きたのでしょうか。

なぜ秋田に… そのメカニズムに迫る

プラスチックの海洋汚染に詳しい九州大学の磯辺篤彦教授に聞いてみると、出戸浜の状況は全国的にも珍しいことがわかりました。

九州大学 磯辺教授

「ごみが地層の中にサンドイッチのようになっているというのは、見る機会はないかもしれません」

磯辺教授は、こうした層ができた背景として、秋田の沖合特有の「海の流れ」と「強い風」があると推測しています。

まず「海の流れ」

秋田沖は、日本海でわかれた対馬暖流が再び合流する海域だということです。

このため、日本海を漂流しているプラスチックごみが秋田沖に集まりやすく、なかには遠く中国や韓国からのごみも流れ着くのではないかというのです。

九州大学 磯辺教授

「海岸に外国の文字があるものが流されてきて、それを見て海外から来たんだと思えるのは、30年前、40年前なら夢のある話でした。

でも、世界中でプラスチックを使いすぎて、ごみが増えすぎて、夢どころではなくなってしまった」

秋田県に聞いてみると、秋田の海岸では昨年度、460トンあまりの漂着ごみが回収されたそうです。

これは、およそ1500人が1年間に出すごみの量にあたります。

出戸浜周辺の海岸の調査では、漂流ごみの6割以上がプラスチックごみだったというデータもあります。

では、どのようにして、ごみの「層」が形成されたのか。

その要因の1つが、日本海側から吹きつける「強い風」だといいます。

秋田沖では平均風速が7メートルを超えていることから、風力発電の導入量が全国トップになるほどです。

磯辺教授によると、沖合に集まった大量のごみは、大潮や満潮の時期とも重なるタイミングで、海から陸に向かって「強い風」が発生すると、大きな波とともに一気に海岸に運ばれるということです。

そのごみの上に、海岸の砂が風などで運ばれ堆積することで「層」のようになったのではないかというのです。

そして、ある時、波などの浸食作用で砂浜が削られることで断面が露出し、私たちの前に姿をあらわしたようです。

いつごろできた?

こうしてできたプラスチックごみの「層」。

メカニズムがわかったことで、新たな疑問が生じました。

この「層」はいつごろできたものなのでしょうか?

現地を調査したことがある別の専門家によると、「層」の中から20年以上前に発売された飲料のペットボトルのキャップが見つかったということです。

さらに、地元に住む渡部さんは、およそ30年前に別の場所でも似たようなごみの「層」を見たことがあると話しています。

実は、「層」はかなり古くからあちこちにあり、今回見つかったのは「氷山の一角」ということなのでしょうか?

渡部さん

「断面が露出していないだけで、海岸の広い範囲にプラスチックごみが埋まっているかもしれませんね。

ほかにも無数の『層』があるのではないでしょうか」

磯辺教授は、砂が覆いかぶさっているとごみが見つけにくいとしたうえで、このまま放置すると海洋汚染だけではなく、鳥などの生き物がプラスチックごみを誤って食べてしまったり、植物が根を張れなくなってしまったりする可能性があり、海岸周辺の動植物への影響も懸念されるといいます。

九州大学 磯辺教授

「なるべく、もとになるプラスチックを減らさなければならない。

日本でも廃棄されるプラスチックごみの1%から2%は環境中に漏れるといわれています。

不要不急のプラスチックを使わないということを一人ひとりが認識するのが重要だと思っています」

私たちに何ができるのか

秋田県も海岸に流れ着くごみを問題視しています。

県は、出戸浜など22の海岸や漁港を「重点区域」に指定して、自治体や住民などと協力してごみの回収や処分に力を入れています。

また県は、小学生に海岸で漂着ごみの現状を見て学んでもらい、環境問題への意識を高める啓発活動も続けることにしています。

秋田県 温暖化対策課 檜山さん

「実際に海岸を見てもらって、ごみも見てもらって、自分たちが家に帰ってからできることを考える1つのきっかけにしてほしい。

一人ひとりの行動の積み上げが最も大事だと思っています。

自分1人だけポイ捨てしてもいいやという意識ではなくて、美しい秋田の海を守っていくためにも環境を意識した行動をお願いしたい」

今回の珍しい現象。

「層」になっているために通常よりも見つけにくく、ごみの回収も困難というやっかいな特徴もあるようです。

取材を進めるとともに、問題解決を訴える地球からのメッセージにも思えるようになってきました…。

ことし1月、プラスチックごみの「層」があった出戸浜に改めて行ってみたところ、雪が腰の高さほどまで積もっていて、近づけなくなっていました。

雪どけの季節を迎えたとき、海岸にはどのような光景が広がっているのでしょうか。

引き続き、注目していきたいと思います。

今回取材してみて、プラスチックごみの問題は一朝一夕に解決できるものではないと強く感じました。

ごみのポイ捨てをしないだけでなく、プラスチックを使う量そのものを減らしていくことが大切だと思います。

例えば、レジ袋の有料化でマイバッグを持ち歩く人が増えましたが、それと同じように、プラスチック製の商品を買うときには紙製のもので代替することができないかなどを検討してみてもいいかもしれません。

私も日々の生活を見直して、少しでも貢献していきたいと思いました。

秋田放送局記者

伊藤 久博

平成30年入局

福岡局を経て去年11月から秋田局

県政担当として環境問題などを取材

今回の取材をきっかけに、まずは「マイボトル」から始めました

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