同志社国際高等学校(京都府京田辺市)は昨年度、文部科学省から「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」のカリキュラム開発拠点校に指定された。これを受けて同校は、持続可能な社会をテーマに、年次を追って進化するカリキュラムを設計し、「住み続けられるまちづくりを」をテーマとする探究学習に取り組んでいる。地元・京田辺市の市長を招いての特別講義をリポートし、WWLの学びを紹介する。
SGH指定校からWWL拠点校へ
同校は2014年に、SGH(スーパーグローバルハイスクール)の指定を受け、以後、生徒にグローバルな諸課題に対する関心と、論理的・批判的思考力、問題解決能力、コミュニケーション能力などを身に付けさせることを目指す教育に取り組んできた。これらの取り組みが評価され、2020年度にSGHの後継事業であるWWLのカリキュラム開発拠点校として指定を受けた。
同校はWWLのカリキュラムとして、高1で「Sustainable Society Study(SSS)」、高2で「Sustainable Society Research(SSR)」、高3で「Sustainable Society Design(SSD)」を設計。SDGs(持続可能な開発目標)の11「住み続けられるまちづくりを」をテーマに、「調査」「研究」「デザイン」と、年次を追って進化していく学びを展開する。
高1では、まず「まちづくり」とは何かを学び、持続可能なまちづくりを目標とする国内外の先進事例について学習するとともに、基本的なアカデミックスキルの習得を目指す。高2では、まちづくりの取り組み事例のリサーチや考察を進め、より高次のアカデミックスキルを習得する。最後に高3では、これまでの経験を踏まえ、実際に地方行政の担当者と接点を設けて、どんな施策を実施すれば、よりよい地域を築くことができるのかを考え、学校での学びを実社会での実践につなげていく内容になるという。
なお、これらの学習では、コロナ禍の収束状況次第で、SGHの時代から続く海外の先進的な都市への訪問も視野に入れているという。SSSを担当する帖佐香織先生は、こう話す。「過去の訪問では卒業生たちが個人で、あるいはグループでリサーチブック、卒業論文集などの成果を残しました。ペーパーテストでは測れない力も伸ばしていって、世界の中で何かができる、貢献できる人になっていってほしい。そんな思いがありますね」
京田辺市長を講師に「まちづくり」を考える
SGHの指定以後、同校は外部から講師を招いて現実の社会を学ぶ授業を展開してきた。「『本物』を見せることで、生徒たちの反応、社会への意識は格段に上昇します」と、帖佐先生はこの授業の意義を語る。
SSSの授業でも昨年11月20日、同校の立つ京田辺市について、市の現状や政策課題などを学ぼうと、
市長を招き、講演と、事前に送付した生徒たちの質問に市長が答える形での授業を行った。高1の6クラスのうち4クラスがホールに集まって対面形式で受講し、残り2クラスは教室でリアルタイム配信を視聴した。
上村市長は京田辺市の出身で、市内にもキャンパスがある同志社大学の卒業生だ。生徒たちに対して、複数の町村合併による京田辺市の成り立ちや地区ごとの地域特性の違いなど京田辺市の現況を分かりやすく語ったほか、生産年齢人口の減少による高齢化問題、移転者の増加が生む地域住民の交流の減少など、行政を進める上で発生する諸課題、市政にかける思いや考えについて平易に語った。
講義のあと、生徒たちからは「面白かった」「京田辺市の実際の状況や将来の展望を聞いて、この市のことに興味を持った」などの声が上がった。なかには「私は帰国生なので政治家そのものに会うことが初めてで、アンビリーバブルな体験でした」など、新鮮な感動を口にする生徒もいた。
上村市長も「非常に楽しい、かつ実のある時間となりました」と語り、「同志社の同窓として、皆さんが将来、地域社会の発展に貢献できる立派な人になってほしいと感じました」と、期待をあらわにした。
多角的な視点からの議論で磨かれる生徒の資質
帖佐先生によると、通常のSSSの授業では「まちづくり」をテーマに先生が講義し、生徒は個人、またはグループで考えをまとめ、意見を交換するというのが基本の学習スタイルになるという。生徒たちはさまざまな資料にあたり、多くの人の意見を聞く中で、ものの本質を見る力や、批判的にものを見る力を養うことができるという。また、数多いグループワークを通して、正確な知識に基づいた議論を展開できる力や、多様性を認める意識を伸ばしていきたいと考えているそうだ。
「グループワークを行う上で、役割分担を考える、締め切りを守るなどの姿勢、さらに計画性も重要となります。作業を続ける中でその重要度を強く認識するはずです」
さらに、大きな特徴となるのは、複数の教員がこの授業を担当するということだという。「本校の先生方のバックグラウンドが多様なことは特筆できます。生まれた国を始め、学んできた環境、専門の教科も数学、情報、理科、英語、社会、国語など多様です。これだけ異なった背景を持つ先生が一つの授業を行うのはほかに例を見ないのではないでしょうか」と帖佐先生は話す。
多角的な視点で構成される授業のため、先生同士でも意見の相違が生まれることがあるという。「まちづくりについて、例えば社会の先生が政治や経済、住民の意識という観点から考えるところを、理科の先生は数値的・論理的に捉え、生徒の前で討論になることもあります。そこへ生徒も『それは違うのではないか』と自分の意見をぶつけ、議論に参戦していきます。周りの生徒も、これら多様な視点からの発言を一緒に考える中で、自分の知見を広げ、他人の意見を取り入れながら新しい見解を構築していく力を養えると思います」
今後のWWLの授業展開について、帖佐先生はこう語る。「本校のある京田辺市などを対象に、地域社会と協働して何らかの成果を残すことが最終目標です。そのやりとりだけでも、生徒たちには十分な価値があると思います。SGH時代から意識していることですが、自分たちが社会を変える力があるということを、生徒たちに経験、体感させる。これが重要なテーマです。社会の傍観者ではなく、主体的に関わる一員であることに気付いてもらう、そのために自分ができることや得意なこと、学ぶべきことは何かを考えていく、これが可能な授業だと考えています」
(文・写真:度會亨)
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