新型コロナウイルスの感染急拡大が続く中、中学・高校や大学の入試が続々と始まっている。受験生の家庭は、感染や濃厚接触のリスクを最小限にとどめようと懸命だ。家族ぐるみで正念場に臨む、当事者たちの思いを聞いた。
「無症状でも感染者、濃厚接触者と判断されたら、息子の努力が台無しになってしまう」。東京都千代田区の男性（46）は25日、オンライン取材に緊張感をにじませた。小学6年生の長男（12）は私立中の受験を2月に控え、冬休み明けから学校を休んでいる。感染を避けるためだ。千葉県や埼玉県で既に実施された試験日以外は自宅にこもり、勉強の日々。家族そろっての散歩やランニングを日課にし、心身両面で長男の努力をサポートしてきた。
男性は、追試験や別室受験など、受験生が感染者や濃厚接触者となった場合の対応は受験校ごとに異なることを知り、戸惑ったという。「息子は学校に行きたいと言っているが、この状況では……。感染の可能性を限りなく小さくするしか方法がない」
さらに踏み込んだ感染対策を取る世帯もある。長女（12）が中学受験に挑む中野区の会社員の女性（45）は、受験が終わるまで母子は自宅、夫は勤務先に近いビジネスホテルに滞在する「別居生活」を1月中旬から続けている。夫はテレワークが難しく、電車通勤などで感染や濃厚接触のリスクがあるためだ。「オミクロン株の感染力の強さを考えなければ。受験は一発勝負」と力を込める。
先が見えない感染状況。長女（11）が2月に都内と神奈川県内の私立中を受験する川崎市の40代女性は「無事に試験本番を迎えられるか、不安な気持ちを抱えたまま過ごすのは、精神的につらい」と吐露する。
コロナ下でも、首都圏の今年の中学受験者は微増の昨年よりもさらに増えると予想されている。首都圏模試センターによると、首都圏の中学受験者数（推定）は2014年に下げ止まって以降、前回の21年まで7年連続で増加。20年は4万9400人、21年は5万50人だった。同センター教育研究所の北一成所長は「感染拡大を受けて速やかにオンライン授業に切り替えるといった、私立校の柔軟なコロナ対応が保護者の期待を集めている」とみる。
大学受験では長距離移動が悩みの種だ。松山市に住む高3の男子生徒（18）は都内の国立大と私立大を併願するため、愛媛との間を2度往復する予定だ。「往復となると感染リスクはひときわ高まる。第1志望の国立大が受けられなくなるのは怖い」。感染急拡大で1月半ばから塾の自習室が利用できなくなり、オンライン個別指導サービスで講師から学習計画のアドバイスを受けるなどして本番に備えている。
26日夕、東京都世田谷区の「学習塾 寺子屋」では中高生が黙々と問題集に向かっていた。中3の女子生徒（15）は都立高入試を2月に控える。受験は初めての経験で、感染の不安がよぎることもある。それでも「落ち着いてやればいいよ」という父の言葉が支えだ。「私が勉強に集中できる環境を整えてくれた。本番では、苦手な理系教科を得意な国語などの点数でカバーしたい」と目標を語る。
中3の岡勇太郎さん（15）も都立高が第1志望。20年春の一斉休校後、ペースが速まった授業についていくのは大変だった。3年生になって成績が上向き、母親の望さん（43）らが「頑張ったね」とねぎらってくれた。「励まされ、成長を感じることができた」と家族への感謝を口にする勇太郎さん。気分転換に友人とキャッチボールをする時もマスクをして、体調管理に気を付けている。
一斉休校は望さんとっても悩ましい出来事だった。学校行事の中止で保護者同士が顔を合わせる機会が減り「受験に関する情報交換がしにくくなった」という。看護師として多忙な日々を送る中、勉強に励む息子を見守ってきた。今はただ、こう思う。「最後の1カ月、無事にいくことを祈るだけです」【遠藤大志、内橋寿明、椋田佳代、千脇康平】
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