続・iPadではじめる!先生のためのICT入門講座 【第10回】iPadでオリジナルのAR教材を! – ICT教育ニュース

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【第10回】矢野 充博先生(和歌山大学教育学部附属中学校)


iPadでオリジナルのAR教材を!生徒の心に刺さる授業づくり

「わが校でも今年から1人1台のタブレット端末を導入します」突然の発表に驚いたのもつかの間、教員用ということで1台のiPadが配布されました。「急に言われても、いったい何からはじめていいのかさっぱり・・・」。本連載では、そんな困った状況におかれた先生たちのために、学校でタブレット端末を使うためのポイントを解説。iPadを活用した学びを実践している先生たちの活用事例をもとに、ICTが苦手な先生でも取り組める具体的な活用方法をご紹介します。

子どもの頃に受けた記憶に残る授業は?

色紙をハサミで切って三角形をつくり、3つの角を手でちぎる。ちぎった角を並べてみると・・・小学校の算数(三角形の内角の和)の授業でやった方も多いと思います。かくいう私も、一直線に並んだ色紙を見て衝撃を受けた一人。まるで手品でも見せられたかのようにワクワクしたのを覚えています。

AR技術を使った生徒に刺さる授業を紹介

「子どもの頃に受けた授業で記憶に残っているのは?」と聞かれて、どんな授業を思い起こすでしょうか。中には、「あの授業がきっかけで教師を志すようになった」なんて先生もいるかもしれません。きっと自分でもそんな授業をしようと、日々の授業研究に励んでいることと思います。

今回は和歌山大学教育学部附属中学校の矢野充博先生にお話しをうかがいました。矢野先生のご専門は理科、各地でサイエンスショーに参加するなど多岐にわたって活躍している先生です。矢野先生が実際に行った授業実践から「刺さる授業」をつくる上でのポイントを探っていきたいと思います。

1人1台のiPad環境を実現!YouTubeでも情報発信

和歌山大学教育学部附属中学校では、2016年の新入生から1人1台のiPadが導入されました。教室にはプロジェクターが常設されていて、Apple TVを使ってすぐにミラーリングできます。また学校内のどこからでもiPadが使えるようWi-Fiが整備されており、理科室にある電子黒板もフル稼働しているそうです。

そんなICT環境整備を中心となって推し進めたのが矢野充博先生。授業では、「ロイロノート・スクール」や「Apple Books」の活用をはじめ、AR(拡張現実)・VR(仮想現実)、3Dプリンタの活用など、さまざまな実践を行っています。また、Appleが認定する教育者「ADE」の一人でもあります。

さらに「やのセミナー」と題して、Zoomを利用したオンラインセミナーを開催したり、実験の動画配信を中心とした「Yanoteaチャンネル」というYouTubeチャンネルを運営するなど、学校以外でも積極的に情報発信をされています。今回はそんな矢野先生の理科の授業実践をご紹介いただきました。

・Yanoteaチャンネル – YouTube

凸レンズの像はどこにできる?ARで刺さるポイントを配置!

生徒たちはまず、3本の光線が出る装置を使って虫メガネの「焦点距離」を測定します。次に三角定規などを使って大きな模造紙に「光の道筋」を作図。スクリーンを置いて、本当にその位置に像ができているか確認します。このとき撮影した写真は「ロイロノート・スクール」を使ってクラスで共有されます。

光線が出る装置で虫メガネの焦点距離を測定

続いて、凸レンズによる像の向きの観察です。ここでは立体的なものを立体的に観察するため、AR(拡張現実)を活用します。「Keynote」で「F」という文字を作成し、それを「Reality Composer」というアプリに取り込みます。虫メガネのパーツと組み合わせれば、立体的な像をARで観察することができます。

凸レンズによる像の向きをARを使って観察

・「Reality Composer」:App Store

・AR虫眼鏡 凸レンズによる実像 – YouTube

授業中、あらかじめ用意したYouTubeの動画を電子黒板で再生します。途中で動画を一時停止して、「F」がどんな向きで映るかをクイズ形式で出題。生徒たちは各々予想を立てて、自分の考えを「ロイロノート・スクール」で回答します。回答が揃ったら動画の続きを再生して答え合わせを行います。

YouTube動画を使ってクイズ番組のように出題

・スクリーンにどう映る? – YouTube

「中学校理科の光の単元は、とてもカラフルで魅力的な単元ですが、その反面、中学生にとっては少し難しい単元でもあります」と語る矢野先生。今回の「凸レンズによる像」の実践は、像のでき方を生徒が理解する上で「どこかのポイントで心に刺さってくれれば」との思いから行った授業だそうです。

【本日のワーク】「Tinkercad」で3Dモデリングをお手軽体験!

「立体的なオブジェクトをレゴブロックのような感じで作成できる優秀なアプリ。小学生から大人まで楽しめます」と矢野先生がおすすめするのが「Tinkercad」。無料で使える3Dモデリングソフトで、iPadアプリ版も無料ながら本格的な3Dモデリングの世界を体験することができます。

無料で3Dモデリングができる「Tinkercad」

・「Tinkercad」:App Store

アプリを起動すると機能紹介が表示されますので、ざっと目を通して進めていきましょう。「Start tinkering」というボタンを押すと、Tinkercadアカウントを作成する画面になります。先生であれば、教員向けアカウントを作成しておくと、後々授業で使うときに便利です。

サインインするとダッシュボードが表示されます。「新規デザインを作成」をタップすると、いよいよ3Dモデリングの作業画面です。作業スペースの何もないところを1本指でスワイプすると「作業平面」が回転、2本指だと画面が移動します。またピンチアウト・ピンチインで拡大・縮小できます。

ツールボックスの図形を作業スペースに配置

続いて、画面右側のツールボックスから、使用したい図形をドラッグして作業スペースに配置します。図形をタップするとサイン(黒四角■、白四角□、黒三角▲、両矢印↔︎)が表示されます。これをスワイプすると、図形のサイズを変更したり、回転させたりすることができます。

今回は「基本シェイプ」の中にある「Text」というオブジェクトを配置してみましょう。作業スペース右上の「Text」の左にある下三角形(▼)をタップすると詳細設定ウインドウが開きますので、文字の部分に好きな言葉を入れてください。図形の色や高さもここで設定することが可能です。

iPad上で作成した図形をARで表示できる

作成した文字をARで表示してみましょう。画面右上の「エクスポート」をタップして「.USDZ」を選択してください。共有先を聞かれたら「Quick Lock」を選びます。iPadを動かすよう指示が出たら、平らな面に向けてiPadを動かしてみてください。まるで現実にあるように文字が配置されます。

さらに、「STL形式」でエクスポートすれば、作成した図形を3Dプリンタで出力することもできます。「iPadで作ったものが目の前に実際に現れるとワクワク度がアップしますよ」と矢野先生。学校に1台、3Dプリンタがあれば、iPadと組み合わせていろいろなものが作れそうですね。

ICTでつくる子どもたちへの“プレゼント”

「刺さるポイント」は子どもたち一人ひとりでちがいます。大切なのは、授業の中に「刺さるポイント」をいくつも用意してあげることです。子どもの頃に体験した驚きや興味関心は、人生を形作る上での大きな材料となります。授業を通じて、そんな原体験を子どもたちにプレゼントする。そのためのツールとして、ICTを活用してみてはいかがでしょうか。

【実践者プロフィール】


和歌山大学教育学部附属中学校


ICT教育主任


矢野 充博 先生

2006年より和歌山大学教育学部附属中学校に勤務。同校の1人1台iPad導入の整備、やのセミナー(オンラインセミナー)、Yanotea チャンネル(YouTube)、各地でのサイエンスショーへの参加など多岐にわたり活躍している。授業では、ロイロノートや電子黒板、Apple Books、AR、VR、3Dプリンタを活用。iPhoneやドローンを使った写真撮影に興味がある。Apple Distinguished Educators, Class of 2015、日本理科教育学会員

【筆者プロフィール】


教育ICTコンサルタント


小池 幸司

教育現場におけるICTの導入・活用を推進すべく、講演や執筆活動を通じて導入事例やノウハウを発信している。2013年3月にiPad×教育をテーマにした国内初の実践的書籍「iPad教育活用 7つの秘訣」を出版。2020年10月より、YouTubeチャンネル「TDXラジオ(https://www.youtube.com/c/TDXRadio)」を開設し、「Teacher’s [Shift]〜新しい学びと先生の働き方改革〜」のメインパーソナリティを務める。NPO法人 iTeachers Academy 理事・事務局長。

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