【入試ルポ】県外受験者の増加で過去2番目の1752人が出願…淑徳与野 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 埼玉県の私立中学校入試は1月10日解禁され、淑徳与野中学・高等学校(さいたま市)でも13日、第1回試験が実施された。東京など県外からの受験者の増加によってこの日の試験には、過去2番目の多さとなる1752人の出願者があり、同校は「密」を避けるため、初めて学校以外にも市内に試験会場を設けた。コロナ禍の中で2年目となった入試の様子をリポートする。

「密」対策のため初めて校外に別会場を設ける

受験生を迎え入れる「慈心門」

 晴天が広がったこの日、午前7時5分に教職員が通用門の「慈心門」に入学試験会場の看板を設置した。今年も自粛のため、応援する塾関係者の姿はなかったが、10分ほどすると門前の歩道に数十人の受験生・保護者の列ができたため、予定していた午前7時30分の開場を5分繰り上げて門を開いた。

 午前8時頃には、学校に到着する受験生の数がピークを迎えた。「慈心門」をくぐって校舎へと向かう途中、目についたのは保護者が受験生のリュックサックを開けて、受験票や筆記用具などを確認する姿だ。新型コロナウイルスの感染対策のため、昨年度から保護者控え室の設置が難しくなっており、試験直前まで控え室で受験生と一緒に最終確認することができないからだ。

 保護者たちは校舎前での別れ際、受験生に「頑張ってね」「いってらっしゃい」と声をかけたり、頭をなでたりし、後ろ姿を見送ると次々と校外へ退出していった。

校舎に入るまで受験生を見送る保護者たち

 今回、同校は「密」を回避するために、初めて校外にも試験会場を設けることとし、JR大宮駅に近い「ソニックシティ」の会議室を用意した。同会場で受け入れ可能な最大400人の枠は、ほぼいっぱいに埋まったという。本校の試験会場には一般教室とシアター(多目的室)が充てられた。一般教室は定員45人だが、入室者数を34、35人に限定し、最多120人が使用できるシアターも66人に限った。また、玄関や廊下には非接触型の検温センサーを設置し、各教室の入り口に消毒液を置くなどして、万全の感染予防を図った。

 出欠確認が行われる午前8時30分の少し前には、ほとんどの受験生が着席し、静かにテキストやノートに目を通していた。やがて注意事項の放送があり、問題用紙が配布されて、同8時50分に1時間目の国語の試験が始まった。この日の試験は国語(60分、100点)、算数(同)、社会・理科(合わせて60分、各50点)の4科。受験生たちは試験の終了する午後12時半まで、力を振り絞って答案に取り組んだ。

 なお、この日は、すでに大学進学が決まっている123人の高3生が、本校と「ソニックシティ」の会場で、受験生の案内などの手伝いに入り、29人の卒業生が試験監督の補助を行った。また、東北新幹線がポイント故障で一部運休となり、「ソニックシティ」の会場には、新幹線利用の受験生が4人いたため、時間をずらすなどきめ細かい対応も行われた。

コロナをきっかけに県外受験者の人気が高まる

席順と1日の予定を示した試験教室の黒板

 この日の出願者は過去最高だった20年度入試の1756人に次ぐ1752人に達した。受験者数は1679人で、875人が合格。実質倍率は1.92倍となった。

 今回、出願者数が過去2番目の多さとなったことについて、黒田貴副校長は、県外からの出願者の増加を指摘する。東京都からの出願者は、一昨年度から全体の半分以上を占めており、今回も約54%に達した。また、神奈川県からの出願者も10%を超えているという。「都内からは受験だけでなく、入学する生徒も増えていますね。本校は、東京からは下りで、最寄り駅からも近いため通いやすい。また、コロナ禍の休校期間に毎日、オンラインで授業を行うなどして、学びを止めなかったことが保護者の安心感につながったのだと思います」

 こうした傾向について、首都圏模試センター教育研究所長の北一成氏は、「コロナをきっかけに、生徒のメンタルケアに丁寧に取り組んできた学校に人気が集まっていて、宗教を教育理念の中心に据えるなど、教育のバックボーンがしっかりしている学校が選ばれる傾向にあります」と指摘する。「その点で、淑徳与野も仏教系の学校として、宗教教育に基いた指導に定評があります。また、2015年度に新校舎を建ててキャンパスを統一し、中高一貫教育を本格化させたことで上がった人気が続いていることもあるでしょう」

入試で問う思考力を6年間でさらに伸ばす

「思考力を育むには、土台となる知識を付けることが大前提」と話す黒田副校長

 この日の入試の内容について黒田副校長は、「どの教科も知識だけでなく思考力も重視しているのが特徴です。最近は大学入試も思考力や表現力を問うようになりましたが、それ以前に、これらの力は社会で生きていく上で非常に大事なものだと考えているからです」と話す。

 「国語であれば、正解のない問いに対して、自分の考えを記述し、表現力や、図や資料を読み解く力なども問います。算数も自分で解法を考えさせたり、答えが一つでない問題を出したりしています。入学後もアクティブラーニング型の授業などを通して、思考力や表現力、また協働する力の育成を図っています。勉強以外にも、本校は行事や海外研修など、多彩なプログラムを取りそろえています。生徒には自主的、積極的に参加してもらい、みんなで何か一つのことに取り組む時に、自分はどういう役割で関わるかを考える『全員参加型のリーダーシップ』を育てていきたいです」

 「思考力を育むには、土台となる知識を付けることが大前提です。『学問に王道なし』と言いますが、入試にも王道はなく、受験生たちには基礎をおろそかにせず、誠実に学んでほしいと思います。私たちは、思考力重視の中学入試から6年間を通じて、社会で必要な力を養い、生徒の希望する大学に送り出すため、一貫した教育を実践していきます」

 (文:北野知美 写真:中学受験サポート)

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