進む少子化で7つの学校を統廃合 愛知の小中一貫校「にじの丘学園」が目指すのはー – 中日新聞

花のつくりとはたらき

<連載・未来をつくる学校 #3>

 焼き物のまち、愛知県瀬戸市。中心市街地の少子化問題を解決するため、五つの小学校と二つの中学校を一つにする全国でも珍しい大規模な統合で、二〇二〇年春、小中一貫校「にじの丘学園」が誕生した。学び舎では、地域も学年も異なる児童や生徒、教員同士も、授業や休憩時間に自然と交ざり合う。そして、地域の人との交流も育みつつある。(加藤祥子)



さまざまな学年の児童生徒が交流する、昼休み時間の「登り窯ステップ」=愛知県瀬戸市の「にじの丘学園」で

9学年の交流で「あこがれ」の先輩像

 制服を着た「お姉さん」を小学生が囲む。「♪アーループースー 一万尺」。手遊びが始まり、おんぶしてもらう子も。二十分の休み時間。昇降口から続く幅六メートルの三つの大階段「登り窯ステップ」には、小学校の一年生から、中学三年にあたる九年生までが集まってくる。

 「(統合して最初は)人が多いと思ったけれど、もう当たり前」と八年生の柴田美綺さん。視線の先には一年生と遊ぶ最上級生の姿。「あんな先輩になりたいな」



おんぶやだっこで触れ合っている児童生徒=愛知県瀬戸市の「にじの丘学園」で

【にじの丘学園】 愛知県瀬戸市に2020年4月、小中学校7校が統合して小中一貫校「にじの丘学園」が開校。21年度は、にじの丘小学校が1学年3~4学級で計689人。にじの丘中学校が同2~4学級で計245人。都市公園に新設した校舎の総工費は約60億円で、7校を建て替える場合の半分ほどで済み、維持管理費は年間1000万円削減できたという。

 人口約13万人の同市には、統合前は小学校は20校、中学校は8校あった。廃校舎のうち一つは私立小学校に。残りは福祉や防災の拠点にするため、地域で活用法の検討が進む。


人と関わるスキルに課題を感じ…

 統合前の七校は一学年に一~二学級しかなく、小学校はクラス替えができずにいた。固定化された人間関係で過ごしてきた子どもらに、主幹教諭の深谷大輔さん(43)は、相手にかける言葉の選び方一つをとっても「人と関わるスキルが少し足りない」と感じた。

 開校半年後に始めた週一回の「レインボータイム」は、交流を大切にする策の一つ。掃除の時間を振り替え、クラス内で四人一組になって教員や子どもらが考えた「好きな芸能人は」などのお題に答えていく。アニメ好きの九年生、加藤ジュンイチさんはこの時間を通して、別の学校区の子と仲良くなった。「友達が増えて楽しい」

小中の教員も連携 きめ細かい授業に



中学校の栗原幸宏教諭(奥)と、小学校の箕浦梨恵教諭(手前)の2人で数学の授業が進められる7年生の教室=愛知県瀬戸市の「にじの丘学園」で

 教員の連携も進む。五~七年生の理科など七教科で、小中学校の教員が乗り入れる。七年生の数学の授業に入った六年の学年主任、箕浦梨恵さん(38)は、対称を学ぶ単元で手が止まった生徒にヒントを伝えていた。同時に、前年度に習ったが理解しきれていなかった用語もチェック。今の六年生を教える時に生かす。教員の数も増え、職員室では、教え方などを互いに聞き合うことも増えた。

路線バスで通学 新しい出会いも



登下校に使う路線バスに乗り込む子どもたち。地域のシルバー人材センターの会員(中)も見守る=愛知県瀬戸市で

 通学時も新しい交流が。児童生徒四百人以上が、半径三キロ圏内から路線バスで通う。年間六千円の運行協力金を負担する上、通学時間が長くなった子もいる。一方で、六年生の加藤海春さんは登校時、地域の見守りボランティアと学校生活の話をするようになった。「バス通学だからこそ」と、出会いを喜ぶ。バスにはシルバー人材センターの会員も付き添う。



正面玄関前の広場にはかつてあった小中学校の名前が方角とともに刻まれている=愛知県瀬戸市の「にじの丘学園」で

7校はなくなったけれど

 統合で旧校区から学校がなくなることに、反対の声もあった。開校から二年弱。にじの丘学園は「地域とともにある学校」を目指す。統合前の学校から移設したピアノを地域の人に弾いてもらったり、夏休みに地元の高校生や大学生に児童生徒らの宿題をみてもらったりと、次々と関わりを生み出している。

統合の背景には深刻な少子化

 小中学校の統廃合は、文部科学省によると、2016年からの5年間で全国では計928件に上った。同省の担当者は「事例も、自治体からの問い合わせも近年は増えていると感じる」と話す。中部地方では、岐阜県大垣市で24年度に中山間地の5小中学校が統合され、9年課程で校長1人の義務教育学校になる。

 統廃合の形態はさまざまだ。小学校同士、中学校同士、校長が2人体制の小中一貫校、義務教育学校。廃校せず休校のまま新しい学校をつくる場合も。山間部や沿岸部など、それぞれの地域の実情に合わせて進む。

 瀬戸市の場合は、中心市街地を含む半径3キロ圏という比較的狭い範囲にあった7校が、少子化でそれぞれ小規模化。12年間で児童が半減した学校もあった。校舎の老朽化も伴い、統合を進めた。市教育委員会によると、統合が大規模で、小中一貫校として建物を一体化した点などから、他自治体の視察が相次いでいる。

【渡辺康雄・小学校長からのメッセージ】

 目標の一つは地域の人から愛され、地域を愛する人を育てること。児童生徒を送り出した先の人たちに、「あなただから」と必要とされる人になってほしい。この先、たくさんの人と出会うとトラブルもあり、悩みもする。だから今、コミュニケーションを練習しているのです。

Powered by the Echo RSS Plugin by CodeRevolution.