<連載・未来をつくる学校 #1>
激しさを増す社会の変化に対応できる人を育てるため、教育現場は変革を迫られている。画一的なイメージのある公立校も、従来の手法にとらわれず、大胆かつ魅力的な人づくりを掲げる学校が全国にある。そうした先導的な学校を4回にわたり紹介する。初回は、全寮制の中高一貫校、広島県立広島叡智学園。グローバルリーダーを育てる最先端の教育環境とは-。 (宮崎厚志)
【広島叡智学園】広島県大崎上島町に、2019年4月開校。21年度の生徒数は116人で、広島県外の小学校からは42人。定員は中学は各学年男女20人ずつで、高校からは外国人留学生など20人が加わる。授業料、教材など諸費用、寮費(食費を含む)を合わせ、学費の年間総額は中学校で約60万円、高校で約74万円。
瀬戸内海に浮かぶ人口約7800人の大崎上島。かつては造船業で栄えたこの島に、全国から子どもたちが集まってくる。北海道から沖縄まで、約3分の1が県外からの入学者だ。
その1人、愛知県内に実家がある中学1年の赤穂真菜さん。小学校では仲間と協力する授業が好きだった。ただ、発言の機会が限られ、議論が深まらない不満も。対照的にここでは、ほとんどの授業がグループワークで進む。「すごく楽しい。もっと自分から行動を起こして、成長したい」
開放的でゆるやかにつながる校舎
平屋の建築群が並ぶ校舎は、図書館棟を中心に、国語・英語を学ぶ言語棟など教科の系統ごとに分かれた教室が、開放的な学習スペースを介してゆるやかにつながる。そのスペースで放課後、多くの生徒がオンラインでの1対1の英会話に励んでいた。
国際バカロレア教育で海外進学へ
同校は、文部科学省も推進する国際的な教育プログラム「国際バカロレア(IB)」の認定校。高校3年時に外国語で受ける最終試験を通れば、海外大学の入学資格を取得できる。教員は3分の1が外国人。英語の学習時間は高校1年冬までに計約5000時間を計画。2022年度に開校する高校は、外国人留学生らが1学年に20人加わり、さらに国際色豊かになる。
英語は他の教科でも積極的に使う。例えば理科。細胞分裂の単元で、中学3年生らがグループに分かれ、「metaphase(分裂中期)」といった学術的な英単語も同時に覚えながら話し合った。
【国際バカロレア教育 中部9県の中学・高校では5校を認定】 国際バカロレア教育は、幼児教育の年齢から3種類あり、国内ではインターナショナルスクールを中心に広がっている。国は2022年度までに認定校・候補校を200校以上にすることを目標に掲げている。文科省が定める狭義の中学・高校では、21年12月現在、認定校は全国に41校。そのうち中部9県には5校(愛知2校、長野1校、静岡1校、滋賀1校)あり、公立は20年度に開始した滋賀県長浜市の虎姫高校のみ。同校では入学後に校内での選考を経て各学年最大20人が履修する。
人間力を育む授業と寮生活
一方で、単純な知識量を測る定期テストはない。「失敗こそ最高の学び」と考えるIBでは、プロジェクト型の学習が軸。同校の特徴的な教科「未来創造科」は、「幸せとは何か」をテーマに地域のお年寄りへのインタビューで幕を開ける。国内の外国籍の中学生を招いたサマースクールでは、「海外への平和の発信」という広島ならではのテーマで学びを深めた。寮での共同生活と自治も、生徒らの自立心を育てる。
多様性のなかでリーダーは育つ
県立校が県外や国外から積極的に生徒を受け入れることには異論もある。しかし福嶋一彦校長は、多様性あふれる環境こそが重要だと強調する。「新しい時代のリーダーは背景の異なる集団の中で育つ。世界に目を向けた子どもたちはいずれ、自らが学んだ広島にも目を向けるようになる」
Powered by the Echo RSS Plugin by CodeRevolution.