【特集】中高の教育改革で見えてきた難関大学への道筋…八王子実践 – 読売新聞

【特集】中高の教育改革で見えてきた難関大学への道筋…八王子実践-–-読売新聞 花のつくりとはたらき

 八王子実践中学校(東京都八王子市)は、多様な生徒の入学を狙った新入試導入から3年目を迎えた。4種類の新入試を突破して入学してきた生徒たちは期待通りの個性を発揮して学校全体に新風を吹き込んでいる。新入試1期生が高校入試学年を迎えた現在、教育改革で先行してきた高校とも連携の機運を迎え、中高6年を見通した難関大学チャレンジへの道筋が見えてきた。

「多様性」を目指して入試方式を大幅変更

入試改革の方針について話す入試広報部長の伊藤教諭
入試改革の方針について話す入試広報部長の伊藤教諭

 同校は2019年度、従来の2科・4科型入試を廃止して、大胆な入試改革に踏み切った。その方針を、入試広報部長の伊藤栄一郎教諭はこう語る。「改革のスローガンは『Diversity(多様性)』です。さまざまな才能や得意分野を持つ生徒を集め、彼らの個性をのびのびと育てる一方で、学力もしっかり育てる方針としました」

 初年度は、エントリーシートと面接で自分の得意分野をアピールする「自己表現型入試」、実用英語技能検定3級以上の取得者を対象とする「英語入試」、都立中高一貫校に準ずる「適性検査型入試」を導入した。2年目となる昨年度はさらに、ジュニア・プログラミング検定3級以上取得者を対象とする「プログラミング入試」を開始した。

 新入試の導入は一定の成果を上げている。従来10人台だった新入生が新入試導入以降は20人に届き、今年度は23人と過去最多の新1年生を迎え入れた。内訳は「自己表現型入試」が17人、「英語入試」が1人、「適性検査型入試」が2人、「プログラミング入試」が3人となっている。

 特に入学者が多い「自己表現入試」では、従来から同校の強みである女子バレー部の入部希望者を中心に、野球やバスケットボールなどのスポーツや、バレエや八王子伝統の「ひょっとこ踊り」などの芸能に取り組む生徒、社会問題に関心を持つ生徒などが集まり、自分が取り組んでいることを実演も交えて堂々とプレゼンテーションしたという。「医療用ウィッグ製作の材料として自らの髪の毛を寄付する『ヘアドネーション』を普及させたいと語る生徒もいました。毎年驚くほど多彩な生徒が来てくれて、面接官としても毎回勉強になります」

多様な個性を後押しする授業の仕組み作り

 同校は新入試の開始に合わせて、授業の見直しも行った。従来は理解度の低い生徒にレベルを合わせた授業を行っていたが、現在は理解度の高い生徒に合わせることを基本としている。成績の格差が広がるという懸念もあったが、多様な個性が集まったことがプラスに働いて順調だという。

 「得意分野を持っている生徒たちは、互いの才能を尊敬、尊重する気持ちがあります。授業にもそれが表れており、科目ごとに得意な生徒が主導して教え合う協働学習の姿勢が自然に生まれているのです。4年前から導入した1人1台のiPadやロイロノートなどの学習支援アプリも活用し、効果を上げています」

 少人数の教育環境を生かした学年間交流でも、新入試生はさまざまな影響を与えている。「鎌倉や高尾山、東京グローバルゲートウェイなどへの校外学習は3学年合同で行います。もともと新入試生は堂々と自己表現する子が多いため、学年の異なる生徒にも物おじせず話しかけ、交流が生まれています。積極的にコミュニケーションする習慣はプレゼンテーション力にもつながっており、現在入学説明会では司会や学校紹介、案内役など、多くの役割を生徒が担っています」

 初年度に適性検査入試で入学した2人の生徒は中3生となり、都立最難関の高校を目指す意思を固めているという。また、昨年度英語入試で入学した生徒は、入学時の英検2級から準1級へ進み、英語の授業ではネイティブの教員による取り出し授業を受けている。同じく昨年度ジュニア・プログラミング検定1級で入学した生徒は校外の教室に通って技能の鍛錬に余念がないそうだ。自己表現型入試で入った生徒たちも、以前から続けている技能を引き続き外部の教室などで磨いている。

東京グローバルゲートウェイでの校外学習
東京グローバルゲートウェイでの校外学習

 同校は、そうした積極的な生徒たちの進路志望を後押しするため、さらなる学力強化の仕組み作りにも取り組んでいる。昨年度は、生徒個々の学力に応じて向上を図る放課後自習システム「J-Piece(ジェイ・ピース)」を開講し、専用の自習ルームや各教科の教員が常駐する仕組みを作った。「残念ながら今年度前半は、新型コロナの影響で休眠状態でした。今後早急に通常の運営に戻す予定です」と伊藤教諭は話す。また、併せて難関校を目指す志を持つ生徒のサポート体制も整えていくという。

 プログラミングの授業作りも進んでいる。今年度は技術家庭の時間の一部を利用し、専門企業の指導を受けて、前期2回、後期4回の授業を行った。来年度は、その知見を踏まえて、週1時間の正規授業を開始する予定だ。「現在の不定期授業はジュニア・プログラミング1級の生徒にサポートしてもらっていますが、学校だけできちんとした技能を身に付けられるようにしたい」と伊藤教諭は話す。

中高の連携強化でさらに上を目指せる学校へ

 伊藤教諭は今後の展望として、系列校の八王子実践高等学校との連携強化を考えている。同高は中学の入試改革に先駆けて教育改革を実施し、国公立大学や難関私大を目指す「特進コース」、GMARCHなどの私大を視野にいれた「選抜コース」、さらに2020年度には「先進科学」「国際教養」「総合教養」の3クラスからなる「総合進学コース」を新設した。それぞれ生徒の特性や志望に応じたカリキュラムを充実させ、幅広い進路を実現するための仕組みを整えている。

 現在、同校は中学からの内部進学にも試験を課しているため、進学意識の高い生徒は外部の高校へ進むケースが少なくないという。しかし、同高の教育改革の結果、内部進学して希望の大学などへ進むための仕組みが整ってきたと伊藤教諭はみている。「実際、高校の進学実績は上がっています。今年度は都立大、横浜国大、東京外語大などへの進学者を出したほか、東大、京大などトップレベルの大学への挑戦者も出てきました」

 今後は、中高6年間で難関大学を目指す道筋をより強化したい考えだ。「現在の中学生は、相当なポテンシャルがあるとみています。このまま高校に進学してくれれば、進学実績もより高く、幅広くなるでしょう。こうした生徒を、今後も数多く招きたい」

 すでに、来年度の適性検査型入試で、その布石となる改革に着手している。難関中高一貫校として知られる都立南多摩中等教育学校の元入試担当教員を招き、国語の文章題及び理科・社会科のデータを読み込む力を問う問題を作成する予定だ。

 「本校は今年度創立95年を迎えました。1世紀を前にしての思い切った改革となりましたが、正しい道を歩んでいるという自負はあります。今後も迷いなく進みたい。その気持ちで今年度の学校案内の表紙には『果断』の言葉を入れました。この言葉に恥じないよう、生徒の個性や能力を一層磨く方法を大胆に取り入れたいと思います」

 (文・写真:上田大朗 一部写真提供:八王子実践中学校)

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