入試シーズンが始まります。コロナ下で頑張る受験生たちへ、校長からのメッセージをお届けします。

校長から受験生へ:灘中学・高校校長・和田孫博さん

 今年1月の中学入試では、コロナ禍の影響で関東からの志願者が大きく減りました。前年の入試では、志願者775人のうち200人以上が、東京・神奈川・千葉・埼玉・栃木・茨城の各県からの受験者でした。それが今年は約120人に。全体の志願者も約90人減りました。来年1月はワクチン接種も進んだので、また戻るかと予想しています。

 首都圏の中学入試前の「挑戦」として受験していただくことは、否定はしません。実際、毎年10人近くは関東から入学します。寮はないので、一家または母親と引っ越して来たり、1人で下宿したり。中1から一人暮らしはなかなか大変で、さみしくなって苦労する子もいます。よく家族で相談し、慎重に決断してください。

 コロナ禍で、受験生も大変な面はあるでしょう。本校もいろいろ変わりました。

 入試では、感染者や濃厚接触者向けの「追試」を、今年も来年も設けます。感染予防のため、答案用紙はそのまま採点せず、コピーして対応し、通常の定期試験でも、解答用紙をスキャンする自動採点システムを導入しました。

 昨秋には、国のGIGAスクール構想を受けて中学生全員に情報端末を貸与し、伝統的な「黒板とチョーク」の授業だけでなく、「端末とプロジェクター」の授業も導入するきっかけになりました。

 休校や分散登校時は、オンライン授業を行い、文化祭と体育祭もオンラインで配信。課題提出や美術のデザインの授業などでも端末を使い、学校全体のペーパーレス化も進みました。感染への不安やワクチン接種の副反応などで休む生徒も学習に遅れないよう、多くの学年が授業を随時配信しています。

 ただ、教育理念や教育内容は変わっていません。鉄道のことなら何でも知っている、プログラミングなら任せて、野球に夢中など、何か一つに「とがった」生徒は、大歓迎です。

 生徒同士で教え合う「ピア教育」も推進しています。「数学ならあいつ」「歴史ならあいつ」と、生徒同士が互いの力を理解して助け合う。職員室の前には数年前、三角形の机を並べたスペースを意識的に設け、生徒が勉強し、先生に質問する場としてにぎわっています。科学教室の廊下には黒板があって、そこに書きながら議論する。

 コロナ禍で、困難な状況から回復する力「レジリエンス」の大切さが話題になっていますが、受験生には、挫折してもあきらめずに立ち上がる力を身につけて来て欲しい。近年、気になるのは、失敗の経験がないまま入学し、ある日、ポキッと心が折れてしまう生徒が以前より増えたことです。社会に出てからも、千回やって失敗してもあきらめない姿勢が必要です。

 あと、入試問題は学校のメッセージです。入試の過去問を何年分か解いて、採点して「これでは不合格」「合格!」で終わらないでください。合格基準に達していても、いなくても、できなかった問題を理解することに力を注いで欲しい。

 中学受験高校受験も、人生の最後ではありません。志望校に合格できなくても、気持ちを切り替えて、地に足をつけて前へ進んでください。応援しています。(聞き手=編集委員・宮坂麻子

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〈わだ・まごひろ〉1952年、大阪市生まれ。灘中学・高校から京都大文学部へ。76年、灘中高の英語科教諭になり、野球部監督・部長も務める。2006年に教頭、07年から校長。著書に「未来への授業」(新星出版社)ほか。

★灘中学・高校

・所在地:神戸市東灘区魚崎北町

・創立:1927年

・生徒数:男子校 中学551人、高校663人

・合格実績:東京大97人、京都大34人、早稲田大22人、慶応大42人

・制服はなく服装は自由。各教科の教員数人で学年の担任団を組み、入学から卒業まで6年間を見通したカリキュラムで教える。

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