【特集】卒業生の仕事体験に耳を傾け、中学から将来の夢を描く…栄東 – 読売新聞

基本問題

 栄東中学・高等学校(さいたま市)は、中学1、2年生を対象に卒業生から職業について話を聞くキャリア教育「ジョブコンテンツ」を毎年行っている。先輩に仕事の現実ややりがい、苦労などを聞く中で、生徒たちは自らの職業観を養い、さらに4回分の受講リポートや中2での「20年後の履歴書」作成を通して、進学先や将来の志望を固めるようになるという。オンラインで開催された今年の「ジョブコンテンツ」をリポートする。

社会に出た先輩をロールモデルに将来を考える

ジョブコンテンツ担当の長崎政綱教諭(左)と時田香織教諭

 「これは約20年続いている行事で、毎年20~30人の卒業生が協力してくれます。卒業後も積極的に関わってくれるのがありがたいですね」と、ジョブコンテンツ担当の長崎政綱教諭は話す。

 「ジョブコンテンツ」は同校が、生徒の職業観を養う目的で毎年行っているキャリア教育のアクティブラーニングだ。さまざまな職業に就いている卒業生を講師として、実際の仕事の中身、苦労ややりがい、その仕事を志望したきっかけなどをつぶさに語ってもらう。

 「中1、中2くらいの時期は、知らない職業のほうが多く、知っているつもりの職業でも、ちゃんと分かっていない場合が多いのです。卒業生はいい点も悪い点も含めて話すので、現実的に将来を考えられるようになります」と、同じくジョブコンテンツ担当の時田香織教諭は話す。

 時田教諭によると、入学して最初のうちは、医師や弁護士になりたいと話す生徒が多いそうだ。しかし、実際は、その仕事をテーマにしたテレビドラマのイメージが頭にあるだけで、職業を漠然と思い描いていることが多い。そこで、卒業生の話を聞くと現実の厳しさが分かるという。

 「卒業生の医師から『何時間もトイレも行けずに立ちっ放しで手術するんだよ』などと、現実を聞かされるのです。なりたい職業について知らないことが多いと気付いて、探究心が出てきます。それに、同じ学校の先輩として中高時代をどう過ごすべきかも教えてもらえるので、身近なロールモデルになるのです」

 ちなみに同校は、卒業生とのつながりが強く、「ジョブコンテンツ」に参加するだけでなく卒業生が文化祭や体育祭に遊びに来ることも多いという。今年中止になってしまった体育祭では、共学になる以前の男子校時代から続く「マスゲーム」の伝統を絶やさないようにと、卒業生も参加して動画を制作し、オンラインで公開したそうだ。

卒業生による2講義をオンラインで受講

ジョブコンテンツに講師として参加したOGの湯澤実久さん

 今年は10月23日に「ジョブコンテンツ」が開催された。コロナ禍への配慮でオンラインでの開催となったが、弁護士、医師、歯科医師、公認会計士、商社・情報通信会社・自動車メーカー勤務、大学教授、企業経営者、カメラマン、シナリオライター、保健師、建設(エンジニア)、公務員、まちづくりコーディネーター、ファイナンシャルプランナーなど、多彩な職業に従事する25人の卒業生が、生徒たちのために参加した。

 生徒は1日で二つの職業について受講する。一つは生徒が興味のある職業で、もう一つは生徒の視野を広げる狙いで、あえて生徒の興味と全く違う分野の職業を割り当てる。開始時間の午前10時になると、講師の卒業生と生徒は、Google Classroomを使って、それぞれの自宅から選択したオンライン上の「部屋」に参加してきた。1部屋に集まる生徒は20人余りだ。司会の先生は校内のパソコンから参加して、生徒の出席を確認し、講師を務める卒業生を紹介した。

 多くの部屋の中から「テレビ局の部屋」を見てきた。講義をした湯澤実久さんは、2008年度の卒業生で現在31歳。地元の小中学校から同校の高校に入学し、アーチェリー部に所属していた。金沢大学の人間社会学域法学類を卒業し、テレビ埼玉に入社したという。

 「大学3年のとき東日本大震災が起こり、私は金沢にいたので、地元がとても心配でした。そのとき、実家の母から、『テレビ埼玉が計画停電の情報を細かく流していてとても役に立った』と聞き、地元に貢献できる仕事がしたいと考えていたので、入社を決めました」

 湯澤さんは現在、営業局で働き、広告収入を得るために企業へのコマーシャルの提案などに携わっているが、かつて報道局も4年経験したという。「休日に遊びに行こうと思っていたら、殺人事件が起きて警察署の記者会見に行かなければならなくなることもありました。大変だけどスリルのある仕事です」などと体験を交えて話し、生徒の興味を引いた。

 また、テレビ局の将来についても「テレビは動画配信とすみ分けができます。テレビは浅く広く雑多なものを伝えます。例えば、好きな俳優をテレビで見つけて、動画配信でその俳優のドラマや映画を探して見る。両方使ってみんなが楽しめれば良いと思います」と見通しを語るなどし、講義を締めくくった。

リポート作成から「20年後の履歴書」作りへ

当日はGoogle Classroomを使ってオンラインで実施された

 ジョブコンテンツが終わると、生徒はリポートと先輩へのお礼のメッセージを書く。リポートの中で生徒たちは、「知らないことの連続で驚きました。社会で役に立つ人になりたいという目標ができました」「ジョブコンテンツのお陰で、将来の夢を決めることができました」「理系を目指そうと思っていましたが、お話を聞いて、もっといろいろな分野に挑戦しようと思いました」などと感想を述べ、強い刺激を受けた様子だった。

 このリポート作成は、もう一つのキャリア教育である「20年後の履歴書」につながっている。「中1と中2で職業について聞いたら、中2で20年後の自分を想像して履歴書を作成します。仕事やそのために必要な免許、資格を考え、大学ではどのような学部でどのようなことを学んでいきたいか、と大学や学部も調べるようになっていきます」と、長崎教諭は説明する。

 実際に生徒が作成した履歴書を見せてもらうと、「東京大学経済学部卒業後、監査法人に就職、公認会計士試験にも合格して、監査法人のIPO部門でシニアパートナーとして働く」、あるいは「一橋大学経済学部卒業後、大手不動産デベロッパーに就職、ファイナンシャルプランナーの資格を取得して、現在はニューヨークで都市開発を担当」「北海道大学環境科学院博士課程修了後、国立極地研究所に入所、南極で生物の生態や行動について研究」など、どれも細部まで突き詰めて具体的に書かれていた。

 長崎教諭は「湯澤さんも話していましたが、最終的には、何のためにその仕事に就くのか、仕事を通してどう社会貢献するのか、生徒に考えてほしいと思っています」とジョブコンテンツの意義を語る。講義を終えた湯澤さんも「高校時代に経験したこと一つ一つが、今の仕事につながっていると思います。栄東で過ごした日々が、すてきな将来につながると思います」と請け合い、「先輩として、少しでも後輩たちの役に立てたらうれしいですね」と母校愛を添えた。

 (文・写真:小山美香 一部写真:中学受験サポート)

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