【特集】プロアスリート教員の「本物」指導で生徒が目覚める…聖望学園 – 読売新聞

基本問題

 「本物」に触れる教育を重視する聖望学園中学校高等学校(埼玉県飯能市)は、現役あるいは元プロスポーツ選手を教職員に迎えて、クラブ活動や保健体育の授業にあたらせている。スポーツの側面だけでなく、生徒たちへの全面的な指導を期待しており、昨年度から元プロのバレーボール選手と現役のバスケットボール選手を特任教諭に迎え、クラスの担任も任せている。関純彦校長とプロアスリートの先生に、この取り組みの狙いなどを聞いた。

中高の時期に「本物」から指導を受けさせたい

「『本物』」と継続的に関わりを持てる機会を作りたいと考えました」と話す関校長

 同校は、女子バレーボール部、女子バスケットボール部、サッカー部の顧問・監督に、元プロあるいは現役選手を迎え、特任教諭または職員として生徒を指導させている。

 「プロのアスリートを指導者に迎えるきっかけになったのは、5年前、本校の卒業生で、プロ野球選手だった鳥谷敬氏と懇談したことです」と、関純彦校長は話す。「鳥谷氏は公式戦で通算2000本安打を達成するなど、華々しい活躍をした選手であり、私生活はストイックで内面的にも素晴らしい人物です。学園の100周年記念式典でも講演をしてもらい、生徒たちは『本物』の語る言葉に刺激を受けたと思います。中高という多感な時期に、『本物』から指導を受けたり、直接話を聞いたりすることは大きく、できれば単発ではなく、継続的に関わりを持てる機会を作りたいと考えました」

 同校野球部は2008年、春の甲子園大会で準優勝に輝いている。当時、同行した関校長は、「ステージが上がると、今までにない景色を見られることが分かりました」と当時を振り返る。「そんな経験を生徒たちにさせてあげたいと思ったことも、実際に、努力して自らのステージが変わる経験をしたプロ選手を指導に起用した大きな理由です」

 もちろん、クラブ活動を強化するだけであれば、外部のプロスポーツ経験者に監督などを委任する方法もあるが、同校は教職員の立場で指導してもらうことにこだわりを持つ。「本校は野球やサッカーなど運動系の強化指定部を設けていますが、学業との両立を優先し、スポーツで培った精神力や統率力などを、この先の人生に生かすことを目標にしています。ですから、部活さえ頑張れば良いという指導は避けたく、本校の教育方針を理解し、部活も勉強も、また生徒の日頃の生活も全て知った上で指導をしてもらいたい」と関校長はその理由を話す。この意味でプロアスリートの先生にもクラス担任をしてもらっているそうだ。

 昨年度、特任教諭となったバレーボール部顧問の原田
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先生は、V・チャレンジリーグ・柏エンゼルクロス(現千葉エンゼルクロス)で、選手として2年間活躍し、スタッフとしても1年間、チーム運営に関わった。その間は介護士の仕事もフルタイムで行っていたという。19年に同校の保健体育科の非常勤講師となり、今年度は高2のクラス担任も務めている。

 バスケットボール部顧問の藤井美紀先生は、Wリーグ・トヨタ自動車アンテロープス、山梨クィーンビーズ、シャンソン化粧品シャンソンVマジックでプレーし、選手引退後の19年に同校の外部コーチに就任した。昨年度から特任教諭になり、今年度は保健体育の授業と高2のクラス担任を受け持つ。その傍ら、3人制バスケットのプロチーム「Tokyo Triple Threes」に所属し、現役選手としても活躍している。

 今年度から中学サッカー部監督、高校サッカー部コーチに就任した生方繁さんは、アルビレックス新潟、ザスパ草津(現・ザスパクサツ群馬)に所属していた元Jリーガーで、やはり同校の職員である。

クラブにもクラスにも影響力を広げる指導

女子バレーボール部監督とともにクラス担任を務める原田先生

 女子バレーボール部は、原田先生が監督を務めるまで、高校の大会で埼玉県西部地区のベスト8が最高だったが、就任1年目でインターハイ県大会のベスト8という成績を出した。「これができたら勝てるというゴールは見えているので、生徒には、『必ず勝たせるから、厳しい練習も頑張ろう』と声をかけ、自分にもプレッシャーを与えて、一緒に目標に向かいました」と原田先生は振り返る。「卒業した当時の部員が、先日遊びに来て、後輩たちに『今はしんどいかもしれないけれど、頑張って良かったと、卒業後に分かるよ』と、励ましている姿を見た時はうれしかったです」

 クラス担任でもある原田先生は、「バレー部の監督としても教師としても、私の役割は社会に出た時に通用する人を育てることです」と言い切る。「担任として、定期テストの1週間前に、『早く登校して朝学習をしよう』と声がけをしました。当然、私も早く出勤しました。初日は3人しか集まらなかったけれど、最終的には半分くらいまで増え、クラス全体の成績もが上がりました。生徒たちもやればできるということが分かり、自信が付いたと思います」

 藤井先生が指導する中学女子のバスケットボール部は、部員が今秋引退した3年生を含めて8人で初心者も1人いる。「私が手本を見せても、経験していないことをすぐに実践することはできません。目の前にいる生徒を見て、どう言葉をかけ、やってみせたら伝わるのか、どんな練習法が合っているのか、指導本や動画などを見て研究して、子供たちに合ったメニュー、少し上のレベルのメニューを組み立てています。一から教える難しさはありますが、彼女たちの3年間の成長を見ていくのが楽しみです」

 クラス担任として藤井先生は、「できるだけ同じ目線に立って生徒に接している」と言う。「私のクラスには、強化指定部の生徒もいますが、スポーツの目標だけで生きていけるのはほんのひと握りなので、学業も同じようにしっかりするように、声掛けをしています。また、どの生徒にも、先のことを考えて、やるべきことの選択と判断を自分でするように働きかけ、そのためにもコミュニケーションをたくさん取るようにしています」

プロ経験者のみが持つ価値観や考え方を

現役のプロバスケットボール選手でもある藤井先生

 原田先生と藤井先生の指導について、関校長は「成し遂げた人の言葉やたたずまいには重みがあります。それを生徒も感じ取り、指導も素直に受け入れています」と見ている。「やはりプロとそうでない人の間には、埋められない差があります。先生たちにはスポーツの技術はもちろん、我々が持ちえない価値観や考え方などを生徒たちに伝えてほしいですね。また、自分の能力でどのように社会に貢献をするのか、その後の人生が豊かになるヒントを示してもらいたいと思っています。それが心の成長につながっていくことを期待しています」

 プロスポーツ経験者による「本物」指導の取り組みが、スポーツの分野を超えて学校生活全体に好影響を広げていくことが期待される。

 (文:北野知美 写真:中学受験サポート 一部写真提供:聖望学園中学校高等学校)

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