数学オリンピックメダリストに聞く、数学の壁の乗り越え方と面白さとは? 小・中・高のステップも紹介|ベネッセ教育情報サイト – Benesse 教育情報サイト

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国際数学オリンピックを知っていますか? 数学好きの高校生を対象に、毎年行われている国際大会です。1国あたり6名までの代表を派遣し、日本はここ最近、毎年のように全員がメダルを獲得する活躍を見せています。


そんなメダリストたちは、どのようにして数学が得意になったのでしょうか。また、彼らが考える数学の魅力とは? 2020年大会の銀メダリスト、銅メダリストで、ともに現在東京大学理科一類で学ぶお二人とお母さまにお話を伺いました。

国際数学オリンピックへの挑戦で得たものと、数学の魅力

国際数学オリンピック代表の選ばれ方

国際数学オリンピックは1959年に第1回大会が開催され、現在は100を超える国と地域が参加。日本は1990年から毎年参加しており、2023年には日本での開催が決定しています。大会では、高校範囲内とはいえ大人でも歯が立たない難問を4時間半で3問解くコンテストが2日間行われ、合計6問の結果を競います。

代表の6人は、国内での予選と本選、代表選考合宿を経て選ばれるそう。1週間にわたる代表選考合宿では、本番さながらの試験を繰り返し、講義を受け、問題の解法を語り合うという、まさに数学漬けの日々を送ります。

「数学の力をお互いに高め合う環境に身を置けて、本当に楽しかったです」と感想を語る平山楓馬さん(東京大学理科一類1年生、2020年銅メダリスト)と宿田彩斗さん(東京大学理科一類1年生、2019年・2020年銀メダリスト)。

二人とも、国際数学オリンピックへの挑戦を通して、数学を楽しみ、切磋琢磨する仲間と出会えたことが一番の財産、と力強く答えてくれました。

オリンピック直前学習会で、議論を重ねる代表選手たち

数学好きが知っている、数学の面白さとは

では、数学の楽しさ、面白さとは、一体どんなところなのでしょうか。

平山さんは、「しいて言うなら、厳密さです。数学は、何かベースになるものから論理を構築していくと、誰がやっても必ず同じ結論が出てくる。ある種パズルみたいな、その堅牢さが面白い」と言います。

宿田さんは、「いろんな解き方があるけれど、どの解き方をしても、1つの結論にたどりつけるところです。また、1つ方法を見つけても、他の方法を考えることでよりよいものが見つかったり、それが新しい問題の解決法になったり、と発展があるところが楽しい」


と答えてくれました。

論理的に導かれる結論は1つですが、いろいろな角度から深く考え、探求することができることが、数学の魅力なのかもしれません。

メダリストはどうやって生まれた? 幼少期から小・中・高のステップ

幼児期は楽しく遊びながら

お二人はどのように算数・数学の力を伸ばしてきたのか、お母さまたちに伺うと、幼児期のエピソードが数多く出てきました。

「数字やアルファベットが取り外せるパズルマットでずっと遊んでいました。迷路が好きで、自分でも書いて。リビングに専用の机、自由帳や工作の材料を用意して、何か作ったり書いたりしたくなったら、すぐできるようにしていました」(宿田さん)

2歳ごろに数字や文字に興味を持ち、パズルマットを敷いたらお気に入りに

「おやつやおもちゃなどを使って、生活の中で数をかぞえることを意識していました。木のレールをつなげて電車を走らせることが大好きで、そのあと『キュボロ』(木のパーツを立体的に組み立ててビー玉を転がすおもちゃ)に移って。折り紙も、図形感覚につながったと思います」(平山さん)

『キュボロ』は小学生の間もずっと遊んでいたそう

のびのびと遊べる環境をつくり、子どもの興味を観察しながら、楽しく算数に触れてきたことがうかがえます。

小学生時代は算数オリンピックに挑戦

小学生のときはどのように取り組まれてきたのか伺うと、宿田さんは就学前、おうちで与えたプリントやドリルがあっという間に終わってしまうので、たまらず幼児教室に通うことにしたそうです。その教室では個人の理解度に応じて進めていくことができたため、自宅学習も通して、小学生のときは自分のペースで先取り学習をしていきました。

一方、平山さんは先取り学習に対して慎重な姿勢を取ったそうです。じっくり考えさせることを重視し、抽象的思考ができるようになってくるといわれる10歳まで先取り学習はしませんでした。本人は、学校で既に知識を持っている子がいるため悔しい思いをしたこともあったようですが、焦らずに、思考力を重視した算数オリンピックの問題に挑戦するという学習方針を貫きました。

先取り学習にはさまざまな考え方がありますが、もし行う場合は、子どもの理解度をきちんと把握しながら進めていくことが重要です。算数・数学は先の長い道のり。便利な公式やテクニックを丸覚えしてそのとき解けても、根本的な意味を理解していなければ、早晩つまずいてしまいます。


宿田さんは「できないときは、戻ることも大切。マルバツを把握して、間違えた問題を集めた手作りの問題プリントを作って」いたそうです。子どもは先に進みたがる反面、戻ることを嫌がる場合もあります。本質をちゃんと理解しているのか、親もしっかりと確認するようにしたいものです。

中高では本人の「好き」に任せ、応援する

二人とも小学生のときは算数オリンピックで腕を磨き、中学受験を経て、難関校に進学。それぞれの学校で数学研究部に所属し、数学オリンピックを目指しました。中学、高校のときは「親にできることはほとんどなかったです。応援するだけ」と口を揃えるお母さま方ですが、もう1つ一致したことがありました。それは、「ほめて伸ばす」こと。

できなくても、怒ったりはしません。中学受験も算数オリンピックも、楽しめれば、と」と宿田さん。

平山さんも「パズルでも何でも『できなくてもいいよ、つづきは明日やろうか』とはげますことで、正解しなくても大丈夫だと安心し、粘り強く考え続けるチャレンジ精神が育てば、と思っていました」と語ります。

そのおかげか、彩斗さんは「勉強を嫌なものと思ったことがないです。面白いものととらえてきました」、楓馬さんも「気付いたら算数が好きで、得意になっていた、という感じです」とのこと。好きで得意だと子どもが思えば、自分から伸びていくことがわかります。

数学の壁にぶつかったときの乗り越え方、大切なのは「意味理解」

数学の天才集団のようなメダリストたちですが、壁にぶつかったことはないのでしょうか。

宿田さんは「どうやっても解けないときは……つらいです」と、正直な一言。


平山さんは、中学校の数学研究部で初めて大学数学に触れたとき「抽象度が高くて、なかなかなじめなかったです」。大学数学というレベルの高さはさておき、中学校に上がって算数が数学に変わるときや、高校数学になるときも、それぞれ内容が抽象的になり、つまずく人が増えるタイミングです。

いま算数・数学に苦戦している小中高生へのアドバイスを伺うと、


宿田さんは「1つ1つの操作が何をやっているか、意味を理解して進めることが大事です」と答えてくれました。


平山さんも「目先の問題を解くことだけにとらわれず、なぜなのか、意味を理解すると面白く感じます」と、同じく意味理解の重要性を指摘。一方で、「大学数学でははじめ、霧の中を進んでいるような感じでしたが、とにかく進んでいってふと振り返ると意味が分かっていた、という伏線回収の瞬間がありました」とも。


一歩一歩理解しながら進むようにするけれど、分からなくてもひとまず前に進んでみる、ということもポイントかもしれません。

まとめ & 実践 TIPS

数学が好きで得意になるためには、本人の素質もありますが、おうちのかたの接し方がカギを握っていそうです。子どもが楽しんで取り組めるように、親はポジティブな言葉かけや態度を心がけたいですね。

(取材・文 荻原幸恵)

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