永守重信「高学歴と仕事の良しあしは全然関係ない」 – ニュース・コラム – Y!ファイナンス – Yahoo!ファイナンス

花のつくりとはたらき

7:31 配信

1973年に自宅の六畳間で、たった4人で立ち上げた会社を「〝兆円企業〟をめざす」「精密小型モーターの分野で世界一になる」との宣言どおりに発展させた日本電産の創業者・永守重信氏が大学運営に乗り出したのが2018年。京都学園大学の経営を引き継いで理事長に就任し、翌2019年には京都先端科学大学に改称して、本格的に大学教育の改革を進めている。

永守氏は教育や人材育成についてどのような考えを持っているのか。「永守重信『理想と夢なくしては成しとげられない』」(12月7日配信)に続いて、11月に23年ぶりの書き下ろし著書である『成しとげる力』を上梓した永守氏にインタビューした。

■「有名大学・企業に入ることありき」への疑問

 ――京都先端科学大学の運営をはじめ、「人を育てること」や「教育改革」を訴えています。

 経営者は孤独で、最後は自分が全部決めないといけない。そのなかで後継者問題はなかなかうまくいかず失敗してきた。いい人はなかなかいない。名だたるブランド大学の出身者を採用してきたが、全部ダメだった。

 結局は自分のところで辛抱して、教育して、育てていかなければいけなかった。大事なのは理想と夢と希望だが、多くの人は夢もないし、理想もないというのが多い。例えば大学卒業にあたり、10社から内定をもらっているという学生の内定先を聞くと新聞社から小売・製造業など全部業界が違っているケースがある。何をやりたいか定まっていないと感じる。

 日本はブランド主義だから、自分のやりたいことと本当に合致しているかわからない学部を選んででも、ブランド大学に入ることを重視する教育をしている。

 両親から「とりあえず有名な会社に行けば」と言われ、TVCMでよく見かけるような有名な会社に入ったものの、結局は辞めてしまう。一流大学に入っても自分が何をしたいのかわからない。職業観や人生観を作り上げる教育がなくなり、塾や家庭教師で大学に合格するためだけに受験のテクニックを学んでいる。そして合格するとあとは遊んでいる。どのように社会を生きるか学んでおらず、そんな人たちが社会に出ても全然ダメだ。

 ――何を重視した教育が必要だとお考えですか。

 私は京都先端科学大学で人間としての総合的な知性と感性の豊かさを示すEQ(感情指数)を高める教育を目指している。IQ(知能指数)は生まれ持ったもので簡単にあがらないし、高い人と低い人の差はせいぜい5倍ぐらいしかない。EQは頑張ればあがるし、100倍の差が生まれると思う。EQが高い人は仕事ができるし、顧客にも好かれる。貢献できる仕事をして、社会生活も安定している。

 今の教育は世の中で必要な礼儀作法などを全部教えない。大学でも体育や音楽の講義はやめているところが多い。京都先端科学大学では体育の講義を復活させている。基本になる人間づくりや最低限の礼儀作法やマナーが社会に出たときに必要だ。全部自分中心で、たとえば目の前で人が倒れていても知らぬ顔して通り過ぎる人もいる。

 心や人間力は勉強以外のことをやらないと身につかない。だから、私は偏差値とブランド主義に反対し、今の大学教育は間違っていると主張している。偏差値の高いブランド大学を卒業したからといっても、それだけでは製品開発はできない。

■「とんがり人材」を求める意味

 ――京都先端科学大学では、本当にこの大学、学部でこれを学びたいと思う学生を受け入れるためにどのような手法を? 

 型にはまらない「とんがり人材」を求めている。例えば一般的に国立大学に入ろうとおもうと、5教科全部できないといけない。東京芸術大学に入るにも社会または理科ができていないと入れない。それはおかしいと思う。

 やはり絵を描きたい、楽器をやりたい、そういう強い思いをもった人を選抜して教育するのがいいのではないか。そこからとんでもない天才が出てくる。東京芸術大学には落ちたけど、ほかの大学に行って、ものすごい音楽家になるケースもある。

 京都先端科学大学ではちょっと変わっていて、でも自分の進むべき道がはっきりしていて、何をやりたいか明確なそういう人たちを一生懸命集めている。勉強だけではない。だから、面接も行ってちゃんと学生を選抜する。

 ――大学の体制にも特徴がありますか。

 学生のことを真剣に考える先生を集めている。「教育」(きょういく)は「教」(おし)えるだけじゃなくて、「育」(そだ)てることも必要だが、今の先生は「教」(おし)えるだけだ。学生が寝ていようが、私語しようが関係ない。そうではなく、寝ていたら起こし、私語していたら注意するなどちゃんとやる。

 重視しているのはグローバルな人間を育成したいということだ。日本は小さい国だから、グローバルに活躍できる人をつくりたい。日本電産でも一般的に高学歴とよばれる大学出身者を採用しているが、英語を話せるようになるまで入社後5年くらいかかる。これでは海外に行けない。したがって、京都先端科学大学では英語教育にものすごく注力している。卒業時にTOEIC650点以上を求めるが、それは運転免許みたいなものだ。

■勉強ができて医師になったとしても

 ――京都先端科学大学には附属中学校と高校があります。

 求めている人材を育てるには大学4年だけでは足りない。小学校まで必要とは思っていないが、やはり中学、高校からが大事だ。一流大学を出たが社会や職場で順応できない人がいる。受験の勉強で先生に教えてもらったとおりに勉強して自分で考えたことがないからだ。

 中学や高校から美術や体育などもやって、同級生との関係をつくる、そういうことから始めていく。つい先日も高校2年生を前にして世の中の変化を踏まえて話をした。附属高校になったわけだし、優秀な生徒が京都先端科学大学に来てほしい。京都大学を目指すとかそんなことに意味はないと私は言っている。日本電産はあらゆる大学から社員を採用しているが、出身大学と仕事ができることは全然関係ない。

 例えば、よく勉強ができる人は医師になろうとするケースが多い。そして勉強ができて試験を通過すれば医者になれる。ただ、患者の前に座ったときにいちばん大事なことはコミュニケーション能力だ。ところが、コミュニケーションができない人は、何も話をしないで、結局全検査に頼って、早く薬を出すという感じになる。昔の医師はまず話をすることから始めて、「どうされましたか、心配いりませんよ」「ちゃんと治りますから」と心のケアから始めていた。

 ――永守さんの言う「とんがり人材」と社会や組織に順応できない人は紙一重ではないでしょうか。

 多くの人は自分の興味があることに対して一生懸命やる。「本当は美術大学に行きたかった」と絵を描くのが好きな人が、親から「有名国立大学に行け」と言われて、そうした道を選ぶケースは少なくない。これからの人生100年時代でどうやって生きていくのか、これからの社会でどうすればいいかわからない人が多い。

 とんがり人材は自ら考えて行動する。型にはまらない。だから親の言うことは聞かないし、先生の言うことに対しても「どこが悪いのか」という感じだ。変な格好しても、それはそれで目的がはっきりしているからそれでいいんだという人たちだ。

 私には2人の息子がいるが、私も妻も「勉強しろ」とは言わなかった。中学や高校を出たら働いてもいいよと、「一生懸命勉強して、一流大学出ても、社会に出たら変わらない」と言っていた。自分の子どものことをあまり褒めないが、非常に自然体に学んできて、コミュニケーション能力があって、今は会社の社長をやっているが経営も上手だ。

■経営者は孤独、だんだん心の世界に入っていく

 ――著書『成しとげる力』に出てくるエピソードとして、日本電産の入社を迷っている学生が、もう1社検討していた会社があり、そこの社長が「日本電産はいずれ当社が買収する」と言っていたという話がありました。その会社の経営者がご子息の1人だったそうですね。

 その息子に「お前、ほらを吹きすぎじゃないか」と言ったら、妻は「あなたも私と付き合っていたころは、もっとほら吹きだった」と言われた。実現するかは別にして、夢が大きい青春時代、そういう気持ちで毎日生きているのは楽しい。最近はこういうことを言う人も少なくなった。

 私は50年間、京都の九頭竜大社に通っている。「これが成功しますように」と神様に頼みに行くのではなく、「私はこういうことをやります。必ず成功させます」と決意を聞いてもらう。この歳になって、誰かに決意を述べることもないし、経営者は孤独だ。だんだん心の世界に入っていくようになる。

 若い人は偉そうなことを言えないが、私もこの業界で最年長になってきた。偉そうなことを言うわけじゃないが、長く働いて、生きてきて、経営してきて、そこにはやはり「心」というものがある。

前回:「永守重信『理想と夢なくしては成しとげられない』」(12月7日配信)

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最終更新:12/10(金) 7:31

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