【特集】自然に向き合う理科授業で生涯の科学的リテラシーを身に付ける…明治学院 – 読売新聞

花のつくりとはたらき

 明治学院中学校・明治学院東村山高等学校(東京都東村山市)は、理科教育を重視し、実験や観察を数多く取り入れた授業を展開している。系列の明治学院大学に理系の学部がないことから、理系志望の生徒は少ないが、キリスト教に基づく人間教育、あるいは生涯にわたる教養の育成という観点から力を入れているという。充実した実験設備やビオトープを学びの場として行われる同校の理科教育を紹介する。

科学的リテラシーとキリスト教教育

「理科を通して自然と素直に向き合う精神を持ってほしい」と話す森教諭

 同校では高2で文理選択が行われ、例年、理系クラスは1学年6クラスのうち1クラスと多くはない。系列の明治学院大学に理系学部がないことが一つの理由だという。しかし、中学には分野別に二つの実験室が設けられており、物理・化学用の第1分野実験室には気体発生実験の安全のためにドラフトチャンバー(排気装置)があり、生物・地学用の第2分野実験室には1クラスの人数36人を超える40台の顕微鏡を備え、さまざまな生物や岩石などの標本も豊富にそろえている。カリキュラムも、教科書に載っている実験や実習をほぼ網羅するよう組まれており、必要に応じて発展的な実験をする時間もあるという。

 理科志望者の割合に比べ、手厚く理科教育を実践していることについて、募集入試主任の安達薫教諭は「現代人の生活は高度な科学技術と不可分なものになり、一般人にもある程度の科学的リテラシーが求められるようになっています。そうした社会に巣立っていく生徒には、本校で科学の面白さをたっぷりと体感し、論理的思考力を身に付けてほしいと願っているからです」と話す。

 また、同校のキリスト教教育も理科教育と関連があるという。中学と高校で理科を担当する森涼太郎教諭は、「自然科学とキリスト教は相反するように感じられるかもしれませんが、科学で解明されていない現象はまだ多く、『神秘』という言葉にもある通り『神のみが知る秘密』と捉えることができます。明治学院の理科授業では、そうした自然の不思議さに実際に触れ、人類が解明してきた知識を踏まえて自然現象に向き合う大切さを伝えたいと思っています」と言う。

 中1で主に行う植物の観察では、緑豊かな学校敷地内の植物が格好の教材となる。「花をつける植物はもちろん、裸子植物の代表であるマツやシダ類、コケ類などさまざまな植物が生育しています」と森教諭は話す。

 中2では動物の体の構造を学ぶ。実験室にはネコ、イヌ、ウサギなどの骨格標本があり、草食動物と肉食動物の歯の特色などを直に見て比較できる。解剖実習も数多く行われる。ニワトリの手羽を解剖して骨格と筋肉の関係を知り、煮沸したニワトリの頭部を解剖して脳や視神経の位置関係を学ぶ。人間の目と構造が似ているブタの眼球の解剖も毎年行っている。

 「最近は検体が手に入りにくいのですが、ウシガエルの解剖は命の尊さに触れる機会にもなります。生徒たちは初めのうちは検体におっかなびっくり触れ、騒がしいことも多いですが、鼓動する心臓を見ると表情が厳粛になります。『命をいただいて学ぶ』感覚を抱き、ここで見られる物を全て学ぼうという気持ちになるのでしょう」

中3の理科授業では、三浦海岸で海岸段丘や斜交層理の観察を行ってきた

 中3では岩石や地層について学ぶ。実験室の鉱物標本を使うほか、三浦海岸へ出向いて海岸段丘や斜交層理の観察を行ってきた。コロナ禍に見舞われた昨年度以降は、電車内での長時間の「密」を避けるため、生田緑地にある関東ローム層の観察に行っているそうだ。

 授業では手を動かす作業も重視している。「観察記録をグラフにする作業は、ノートに定規で軸を書き、プロットした点をそのままつなげず近似的な直線や曲線を引く。こうした研究の作法を自分の手で覚えることで、科学に向き合う姿勢も育つと考えます。バーナーの点火もあえてマッチを使い、気を付けて火を扱う感覚を覚えます」

 高校でも、受験対策に留まらない根本からの理解を狙い、授業は理科4教科それぞれに用意された実験室で行う。「講義を中心としながらも、中和滴定、生物の顕微鏡観察など重要な実験は極力行い、現象を体験的に学ぶよう配慮しています」。実験や観察をスムーズに進めるため、器具や標本などの用意、片付けをサポートする助手は中学校で2人、高校で1人常駐しているという。

校内の「ビオトープ」を学びの場とする自然科学部

ビオトープの植生調査をする自然科学部の生徒と顧問

 授業以外にも理科学習の場は広がっている。2013年の学校創立150周年を機に、同校が2年がかりで敷地内に整えたビオトープもその一つだ。以前からあったため池に小川を造り付けた水辺の環境に、狭山丘陵の植物を移植して地域の自然に近づけた。現在はさまざまな植物や昆虫、水生生物などが見られるようになり、授業に役立っているという。「カブトムシや、珍しいタマムシも来るようになりました。将来はホタルが生息できるよう、さらに環境を整えたい」と森教諭は話す。

 中心となってビオトープの管理にあたっている自然科学部は、明治学院東村山高等学校が創立された1963年からの歴史ある部で、現在は中・高合わせて20人ほどの部員が在籍している。ビオトープの生物種の調査や外来種の除去、植物の移植や栽培などを日常的に行い、年度末に成果発表を行っている。

合宿で化石掘りを体験する自然科学部の部員たち

 コロナ禍以前は、長期休暇中に年に1回、2、3泊の合宿を行い、恐竜の化石が発掘された福井県勝山市や三重県鳥羽市で化石掘りを体験したり、新潟県糸魚川市のフォッサマグナを観察しに行ったりもしていたという。

 中3の部員の一人は、ビオトープの調査活動のほか、採取した植物のクチクラ層の研究やキイチゴのジャム作りなど、多彩な活動を楽しんでいるという。「いろいろな実験や工作ができるし、学年に関係なくにぎやかに活動できるのが楽しい」

 今年度部長を務めている高2の部員は、「実験は面白いし、最初は失敗してもコツコツ努力して成功できることを学んだ」と話す。文系クラスに所属しているが、部の活動を通じて自然環境への関心を深め、「次の世代も安心して暮らせる環境をつくりたい」と、環境保護関連の進路を目指しているそうだ。

自然と素直に向き合う精神を育む

 理系を選択する生徒は同校では少数派だが、高い理科的素養が身に付いていると森教諭は感じている。「中学生の段階で理系進級を決めている生徒が数多くいます。中学の理科授業では高1の内容まで先取り学習するので、高校での理解も早く、他中学からの入学者をリードする存在になります」

 文系に進んだ生徒には地学を必修としている。「地学は教養としてベストの教科。何より私たちが住んでいる地球に関わる学問ですし、惑星の運動や古生物、岩石の成分や風化など、物理、生物、化学といった理科の各教科の融合でもあります。きちんと学んで社会に出れば、この世界を正しく理解する助けになるはずです」

 森教諭が今後の課題と考えているのが、来年度に生徒全員が持つようになるiPadの活用と、従来から重視してきた「手を動かす」学習とのバランスだ。「iPadを使えば、図表は鉛筆や定規なしですぐ作れます。便利ですが、まずは手による作図の大切さを知ってもらいたい。一方、外で見た植物を撮影して後で図鑑を見て調べ、生徒には難しい実験を教員が行って内容を録画して共有するなど、従来できなかった効果的な学習ができます。いずれにせよ生徒には、理科を通して自然と素直に向き合う精神を持ってほしい。この目的に合った方法を工夫していきたいと思っています」

 (文:上田大朗 写真:中学受験サポート 一部写真提供:明治学院中学校・明治学院東村山高等学校)

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