価値ある仕事は「上位目標」から生まれる – ニュース・コラム – Y!ファイナンス – Yahoo!ファイナンス

価値ある仕事は「上位目標」から生まれる-–-ニュース・コラム-–-y!ファイナンス-–-yahoo!ファイナンス 花のつくりとはたらき

 「“正解からはみだそう” “表現するよろこびをはぐくむ” ために。」というコーポレートメッセージを発信しているぺんてる株式会社社長の小野裕之さんと、ベストセラーになった『13歳からのアート思考』の著者であり、美術教師の末永幸歩さんによる、「表現」をめぐる対談をお送りする。現代を生きる私たちにとって、なぜ自分の「興味のタネ」や「疑問・違和感」から目をそらさずに生きていくことが大切なのだろうか? 全3回にわたってお送りする(構成/高関進)。

● 新たな視点は「興味のタネ」から生まれる

 末永幸歩(以下、末永) 本日はありがとうございます。『13歳からのアート思考』をお読みいただいたとのことでうれしいです。最初に本の感想をお聞かせいただけないでしょうか?

 小野裕之(以下、小野) 正直なところ、アートの世界は、われわれ素人には別世界という気がして、なかなか親しみをもてない遠い存在だと思っていました。それが本書を拝読すると、いろいろなエクササイズを通じて素人でもアートを楽しめることがわかり、知識が広がるとともに認識が改まりましたね。

 私も若い頃、フランスに赴任した際には美術館に何度か足を運んだことがあります。といっても、お客様をお連れするだけの目的だったのですが……。当時、パブロ・ピカソやアンリ・マティスといった画家の名前は知っていたものの、ピカソの奇抜な絵などは「どうしてこういう作品が評価されるんだろう?」と素人ながら不思議に思っていました。

 『13歳からのアート思考』を読んでいくと、歴史的に評価されているアーティストたちは、それまでのアートの歴史では行われていなかったこと、われわれが気づかなかったところに目を向け、芸術活動をしていることがわかりました。つまり、単に奇抜な絵を描いているわけではなく、彼らなりの意図があって描いている。そうした芸術家の意図を、末永さんがくみとって教えてくださるのが面白いと感じました。

 末永 ありがとうございます! ピカソやマティスなど20世紀以降の近現代のアーティストのものであっても、自分とフィーリングが合えば、それ自体がすばらしいなと思える作品もあるかもしれません。でも実際のところ、「え? なんでこれが評価を得ているの?」って思ってしまう作品も多いですよね。

 それを説明するために、私はアートを「植物」にたとえています。アーティストがつくる作品はいわば「花」です。絵画を観るときには、ただ「花」だけに目を向けるのではなく、それがつくられた過程、つまり、作家が「興味のタネ」からどうやって「探究の根」を伸ばしていったのかというところに目を向けると、アートの見方がグッと広がって面白くなるんです。

 小野 アーティストたちの視点や考え方は、われわれのようなな会社を経営している企業人たちにも通じるものがありますね。当社は「“正解からはみだそう” “表現するよろこびをはぐくむ” ために。」というコーポレートメッセージを新たにつくったのですが、興味のタネを見つけるとか、今までにないものを探究しようとする発想は、われわれが目指しているところにもすごく近いと感じました。

 『13歳からのアート思考』を読んで以来、もう一度フランスの美術館にも足を運んで、「タネ」や「根」に目を向けながら作品をしっかり鑑賞してみたいなという気持ちになりましたね。

● 「無自覚の前提」に気づいて、 授業が変わった

 小野 アーティストでもあり教育者でもある末永さんが、大人が子どものように興味のタネを見つけていくことの大切さ、また、探究の根を広げていくことの重要性に着目したきっかけは、なんだったのでしょうか?

 末永 アーティストたちは、決して何か具体的な課題を解決しようとか斬新なものを生み出そうとかいった思いで制作活動を始めるわけでありません。それまでのアートの潮流とは違う「ものの見方」をし、新しい価値ある作品を生み出せたのは、アーティスト自身がもっていた「興味のタネ」から出発したからです。だからこそ、教育の場でも仕事の場でも生活の場でも、自分の関心や抱いている疑問こそが重要なんじゃないかとずっと考えていました。

 また、私自身が美術教師として体験したこともきっかけの1つですね。美術教師として中学校に勤務していた当初は、今のアート思考の授業とは正反対の授業をやっていました。

 私自身が絵を描いたりものをつくったりすることが大好きなので、作品中心、つまり「花」をつくること中心に授業をしていました。それが変わったきっかけは、あるアートワークショップです。そこで気づいたことが、1つの転機になっています。

 私が初めて学校外で行ったワークショップ「光のファッションショー」は、ブラックライトで光る素材を使って服をつくるというものでした。

 企画者だった私は、参加している子どもたちみんなが時間内で服を完成させられるように動きまわっていました。「学校ではできないことをやるぞ!」と意気込んでいて、最後に完成した服を着てファッションショーをやりたいと思っていたんですね。

 このとき印象的だったのが、ちょっと見づらいんですが、写真の奥の真ん中あたりで座っている女性スタッフです。参加している1人の女の子の隣に座って、その子だけを見ていました。何かアドバイスをするわけでもなく、ただずっと横に座っていたんです。

 その女の子の作業はほとんど進まず、時間内には結局終わらなかったので、「このスタッフは何をしようとしていたのだろう?」という疑問を感じました。当時の私の教育観からすると、強い違和感を覚えたんです。

 そのときの光景がひっかかりとなっていろいろ考えていくうちに、私が教育に対して「無自覚の前提」みたいなものを抱いていたことがわかってきました。「学校外のワークショップなのに、みんな同じ時間内に進める必要があったのか?」「そもそも作品を完成させることが目的でよかったんだろうか?」「それは私がちゃんと考えて決めた目的だったのか?」「『美術とはこうあるべき』という固定観念でゴールを設定してしまっていたのではないか?」など、美術や教育に対して疑問がたくさん湧いてきました。

 それ以来、「この授業で実現したい『本当に大事なこと』は何か?」という上位目標を1つひとつ考えて授業を行うようになりました。学校外のワークショップがきっかけで考えたことが、学校内で美術教師としての活動にも生きていったのです。

● 「表現するよろこび」の さまざまな形を追求する

 末永 学校の授業でも、きちんと作品をつくりあげようというこれまでの授業から離れてみました。作品の完成が目的ではなく、その過程にある自分の興味・関心は何か、あるいは自分がもっている疑問は何かを考えて根っこを伸ばしていくことに力点をおいた授業を展開するようになりました。それが現在行っている「アート思考の授業」の原型です。

 小野 そうした発想は非常に面白いですし、広がりもあってすばらしいですね。末永さんは、ぺんてるのコーポレートメッセージ「“正解からはみだそう” “表現するよろこびをはぐくむ” ために。」を、どうお感じでしょうか?

 末永 私も授業でつねに思っていることですし、素敵なビジョンだと思います。どんな思いでこのビジョンを設定されたのか、お聞きかせいただけますか?

 小野 われわれはメーカーですから、「表現のための道具をつくる」ところからスタートしました。ですが、2013年に「感じるままに、想いをかたちにできる道具をつくり、表現するよろこびをはぐくみます。」というビジョンにしたんです。

 たとえば、あるお客様からこんな手紙をいただいたことがあります。その方は昔から「大空」に対する憧れを持っていて、子どもの頃に「ぺんてるくれよん」で空を描いていたそうです。そして、その夢を実現して航空会社に就職されたので、「ぺんてるさんのまいたタネは、こんなところでも芽ばえていますよ」というメッセージをわざわざ送ってくださったんですよ。これはわれわれが目指している「表現するよろこび」を象徴する話だなと思いましたね。

 また、当社はアイライナーの生産も始めました。自分の顔をお化粧するということも「表現するよろこび」を違った角度でとらえたものだと思っています。今まで考えてきた「表現するよろこび」は当然追い求めていきますが、こんなふうにいろいろな形の「表現するよろこび」を発展させていきたいと考えています。

 末永 面白いですね! クレヨンというのは「表現するよろこび」を実現するための1つの手段でしかない。「クレヨンをつくること」それ自体が目的なのではなく、つねに大きな上位目標やビジョンに立ち返って、アイライナーのような商品が生まれてくるのは、とてもすばらしいことだと思います。

 (第2回に続く)

◆対談者プロフィール◆

小野裕之(おの・ひろゆき)

ぺんてる株式会社代表取締役社長

1958年生まれ。東京理科大学理工学部卒業。1982年、ぺんてる入社。1989年よりユーロぺんてるに出向し、1997には欧州統括本部財務統括管理部長に就任。その後、工場管理部次長、経営戦略室長、執行役員、取締役生産本部長などを経て、2020年より現職。

末永幸歩(すえなが・ゆきほ)

美術教師/浦和大学こども学部講師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト

東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、東京学芸大学附属国際中等教育学校や都内公立中学校で展開。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。

自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップや、出張授業・研修・講演など、大人に向けたアートの授業も行っている。初の著書『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)が16万部超のベストセラーに。オンラインで受講できるUdemy講座「大人こそ受けたい『アート思考』の授業──瀬戸内海に浮かぶアートの島・直島で3つの力を磨く」を2021年5月に開講。

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