現在の中学3年生が進学する2022年春から、高校では新しい公民科目「公共」が必履修になります。生徒らが高校3年で受験する25年1月実施予定の大学入学共通テストから、「公共、政治・経済」や「公共、倫理」などが試験科目に加わります。今年3月には文部科学省が検定を終えた公共の教科書を、大学入試センターが共通テストの公共分野のサンプル問題を、それぞれ公表しました。公共とはどのような科目で、どう対応すればいいのでしょうか。駿台予備学校の公民科講師・高家弘行さんに聞きました。
【話を聞いた人】駿台予備学校公民科講師 高家弘行さん
(たかや・ひろゆき) 駿台の年間授業・季節講習授業を担当し、四半世紀以上にわたって政治・経済や現代社会の指導にあたる第一人者。包容力とユーモアを併せ持つ指導がモットーで、毎年多くの受験生を志望大学合格へと導いている。受験用参考書や問題集(駿台文庫「青本」など)の執筆、模擬試験の出題・監修にも長く携わる。
知識の範囲は現代社会と変わらず
――新しい科目「公共」はどのような科目なのでしょうか。
従来の「現代社会」と知識の範囲に大きな差はありません。公共の教科書の目次を見てみると、「政治・経済」に関する分野のほか、哲学や宗教といった「倫理」に関する分野など、教科書の項目立てはほとんど現代社会と変わっていないです。目新しいものが入ってくる可能性も考えていたのですが、実際には問題を解く上で使うべき知識は現代社会と変わっていないと思います。
ただ、現代社会に比べ、「幸福」「正義」「公正」という三つの言葉がより強調されています。加えて「主題・問い・探究」(多面的・多角的な考察)という、単なる知識の習得ではなく主題を見つけて自分で問いを作ってそれを探究していく、主体的・多面的な学習(アクティブラーニング)が教科書にもずいぶん反映されています。現代社会より、「調べてみよう」「話してみよう」「聞いてみよう」「書いてみよう」といった非常に能動的なアクションを入れています。例えばある教科書では、「アクティブ」というコーナー名で、男女共同参画社会、防犯カメラの設置とプライバシー、大きな政府と小さな政府といった内容を扱っていますが、こうした点は現代社会の時とニュアンスが異なっています。
ただし繰り返しになりますが、使うべき知識には変化がないので、高卒生も全く新しい科目として一から勉強する必要性はないでしょう。今までの現代社会の知識があれば十分に対応できるものです。
――公共を教える教員側には何が求められますか。
教科書の目次を見てもすごい分量ですが、これで2単位科目です。とても週2回の授業では教科書の最初から最後までを網羅できない量ですから、高校では何を教えるか取捨選択せざるを得ないでしょう。そうした状況で「教科書を教える」という視点しかないようでは、教員はただ早口で説明するだけになりかねませんし、生徒は消化不良になります。ですから「教科書で教える」という視点が欠かせなくなりますね。やはり高校でも予備校でも、特に重要な点を取捨選択して今日はこれがテーマだぞというふうに決めてやっていかないと難しいでしょう。その日の1コマの授業で何を学び考えるのか、目的を生徒としっかり共有して学んでいく姿勢が欠かせません。
他教科との連携も非常に重要で、ぜひ進めていきたい点です。公共という科目は公民の中にありますが、そこで扱う内容と重なることを地理歴史でも教えています。家庭科では、公民の経済分野で学ぶ育児や社会保障の問題などを教科書で扱っています。保健の教科書でも、環境と健康など公民で扱う内容と重なるものが見られます。やはり2単位科目ですから、他教科との連携を図らないと、なかなか公共単独で十分に学びを深めるのは難しいでしょう。私は高校での指導経験もありますが、職員室にはいろんな科目の先生が一緒にいるわけですから、他教科の先生と積極的に情報交換してほしいです。
――政治・経済や現代社会などの公民科目に苦手意識を持つ生徒に興味を持ってもらうために、どのような工夫が考えられますか。
政治・経済や現代社会でもそうですが、例えば公共の政治分野の授業を想定してみましょう。衆議院議員選挙に関して「小選挙区比例代表並立制」という言葉が教科書に出てきた時、その言葉を淡々と説明して生徒にマーカーを引かせて終わりがちです。ですが、それでは生きた知識にはならないでしょう。そこで先の衆院選について意見を出し合うなかで、生徒の側で「そういえばうちの選挙区のあの候補は小選挙区で落ちたけど、比例で復活当選していたな。これが並立制の意味なのか」といった形で理解が進み、興味が膨らんでいくと思うんです。18歳になればもう有権者なのですから、彼らが自分自身に引きつけた形で関心を持つような教え方を工夫する必要があります。
【関連記事】
Powered by the Echo RSS Plugin by CodeRevolution.