大阪の高校入試の特徴
–全国でも複雑で独特な大阪の高校入試ですが、あらためてその特徴を教えてください。
まず大阪の公立高校の入試は、2月に特別選抜、3月に一般選抜があります。特別選抜は美術系や体育系、音楽系などの特色あるコースの学校が多く、文理学科も含めた普通科は、ほぼ一般選抜に集中しています。それでは公立高校入試の特徴を5つ紹介します。
1.公立の入試問題はレベル別に3種類が用意される
公立高校の入試は1科目90点満点、5科目450点満点で実施され、理科・社会の問題はどの学校を受けても共通ですが、英語・数学・国語では入試問題は難易度に基づきAからCまでの3タイプあります。「A(基礎的問題)」「B(標準的問題)」「C(発展的問題)」となっていて、Cが一番難しく、文理学科などの難関校はすべてC問題を採用しています。ただ、その問題も例年細かな変化が起こっています。たとえば、数学だけB問題で英語と国語はC問題にする高校もあれば、昨年までC問題を使っていたが、今年からはB問題にするなどの高校もあります。CからBに変更した公立高校の場合、難度の高い問題演習での判定ができないため入学者の実力レベルが懸念されます。2年後、3年後の進学実績に影響が出るかもしれません。
2.調査書と入試の得点配分の比率は5タイプ
調査書と入試の得点配分は学校によって異なります。IタイプからVタイプまであり、たとえば、Iタイプが7:3で、7が当日の入試の点数、3が調査書です。Vタイプはその逆の3:7で、当日の入試の点数は3割で、7割が調査書で決まります。
先ほどのA、B、Cの3パターンの問題が各科目にあるので、英・数・国では9パターンあるわけです。そこに点数配分でIからVタイプまであるので、45通りの入試パターンが理論上成立します。中学3年生がそれだけのパターンに対応するのはかなり難しいことでしょう。私たち塾では「今年からはB問題に変わったので、その対応をしよう」といった形で、個別にアドバイスをします。また公立高校の模擬試験「大阪府公立対策模試」では、C問題を使う高校用とC問題を使わない高校用の2種類に分けて細かな対応をします。
3.文理学科を狙う場合は調査書よりも当日の入試を重視
大阪の公立高校入試では、調査書は5段階評価で9科目45点満点です。1年生と2年生は2倍、3年生は6倍になるので、中3の調査書のウェイトが圧倒的に高く、それは生徒も理解しています。ですので文理学科を狙う生徒はオール5を狙って、中3になると一生懸命に定期テストの勉強をする生徒が多いと思います。ただ通知表の評価が1つ上がっても実質6点分。文理学科の得点配分は7:3で、調査書は10分の3となり、6点よりもさらに圧縮されます。その分は、入試当日の計算ミスがなくなれば十分にカバーできる範囲です。真面目な生徒ほどオール5を狙う傾向がありますが、入試の実力重視で考えた方が良いでしょう。
4.文理学科上位校で英検2級取得意欲が過熱
英語に関してはさらに過酷な状況です。英検2級を取得している生徒は、C問題の対策をせずに入試当日の8割の点数が保障されます。今年の春のデータでは、英検2級以上取得者で、C問題を受験して80%以上の得点を獲得できた生徒は15%程度。ですので、残りの85%の生徒は2級を取得しておいて良かったと安堵することになるわけです。
たとえば文理学科トップの北野高校は定員320名ですが、受験者のうち336名が2級を取得しています。定員を超えていますので、北野高校を受験する生徒は基本的に高校1、2年生レベルの英語力がすでにある状態で入学している状況です。北野高校の生徒にとっては実質4科目入試になっているのです。
文理学科を設置する残り9校も英検2級取得者の人数を発表しています。取得者数が300名を超えているのは北野高校だけですが、大阪府のナンバー2である天王寺高校は250~300名。ほぼ同規模で茨木高校が続き、150~200名で大手前高校、豊中高校、三国丘高校と並びます。100~150名には四條畷高校。つまり英検2級取得者の人数が、文理学科のランキングと同じになっています。
5.アドミッション・ポリシーを重視するボーダーゾーン制度
大阪の公立入試では「ボーダーゾーン」制度があります。たとえば定員300名で、300番目を合格ラインとすると、330番目と270番目の生徒、つまり合格ラインの上下1割の生徒は基本的に実力差がないとされます。受験生は出願書類と一緒に「自己申告書」を事前に書いて提出しており、それをもとにゾーン内の生徒の合格可否を決定できるという校長裁量があります。毎年10人前後がこの制度により繰り上げ合格になっています。このため中学校の先生は自己申告書の指導に注力されています。大学入試と同様、アドミッション・ポリシーを読み、自身がいかに志望校の望む生徒像と合致しているかを書くことが問われるのです。
文理学科上位校の人気は継続、西大和学園の躍進、付属校人気も顕著
–大阪府の難関校の動向を教えてください。
文理学科の上位校を軸にした動向はあまり変動がないと考えています。大阪北部では、トップ校の北野高校を目指すことが難しい場合、茨木高校と豊中高校に流れていきます。他の文理学科は交通の便などの物理的な制約もあり、北部から受験する生徒は少なく、同じ地域の普通科である春日丘高校に集まります。その結果、昨年度は1.7倍の高倍率となりました。大阪南部では、天王寺高校が難しい場合、三国丘高校や高津高校に集中する図式です。これらの傾向は変わらないでしょう。
ただ大阪南部では人口減少の影響でそもそも生徒が少ないため、倍率は上がりようがない状況になりつつあります。どうしても文理学科に行きたいならば、岸和田高校は狙いやすいかもしれません。
文理学科を目指す生徒たちの心がぐらつくのは、私立の西大和学園の大躍進でしょう。大学合格実績では昨年度、東大と京大合わせて爆発的な実績を出しました。西大和学園は2014年度より男女共学の併設型中高一貫校となりました。中高一貫で教育を受けてきた女子一期生が昨年度卒業を迎え、旧帝大への合格者数が増加。トップ層ならば文理学科ではなく、西大和学園に専願で勝負を賭けた方が良いのではと揺れると思います。
–私立の併願校の傾向はいかがでしょうか。
北野高校や天王寺高校の併願先は、先ほどの西大和学園の存在が大きくなるでしょう。また私立伝統校の東大寺学園が2024年度から高校募集を廃止し、完全な中高一貫校になります。今後は東大寺学園を受けていた層がすべて西大和学園に集結しますので、併願で西大和学園という流れがさらに強まるのではないでしょうか。
一方で今春、大阪府下でもっとも衝撃的だったのは、私立高校の受験者数1位が箕面自由学園になったことです。昨今の大学入試改革の影響から、付属校から近畿大学に行ければと考えるご家庭が多く、この10年は近畿大学附属高校が1位でした。それが箕面自由学園に移ったのは時代が変わった感覚があります。
この背景には、大阪北部の人口増はもちろんですが、校長先生が新しく就任されてから、オープンスクールで保護者や生徒に自らプレゼンされ発信力が強まったことが理由として考えられるでしょう。
–付属校の人気は変わらないでしょうか。
関関同立(関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学)や産近甲龍(京都産業大学・近畿大学・甲南大学・龍谷大学)、摂神追桃(摂南大学・神戸学院大学・追手門学院大学・桃山学院大学)の中で勢いがあるのは追手門学院大学です。大学受験者数は9年連続して増加しているので、こうした大学の付属校は堅調な人気が続くと見ています。
追い込みシーズンの学習は「わかる」から「できる」へ
–冬休みが近づいています。学習面で留意することはありますか。
塾に通っている場合、冬期講習を受けて、自宅での学習時間には過去問を「できる」ようになるまで何度も取り組むことが近道です。生徒のようすを見ていると、過去問の解き方に注意が必要な場合があります。たとえば、解いたら終わりにしてしまったり、質問に来てもわかったら終わりしてしまったり。これはわかることが目的となってしまっているといえます。そうではなく、できるまでやらないと、入試の当日に力を発揮できません。
生徒たちの中では、わかるのになぜできないのかピンときていない人も多いと思います。「わかる」と「できる」がつながらない。そこで私たちは筋道を立てた指導を重視しています。時間を計って過去問を解いてきたかどうか、解いた問題の解説を見たかどうかをチェック、理解した後にもう一度その問題を解けるかまで確認します。
また、先生から見てスラスラと解けているかどうかも、生徒の理解度を測る指針になっています。次が予想できているとスラスラ書けるものなのです。「わかる」で止まらずに「わかる」を「できる」ようにするまで付き合うことが、とても大事なことだと認識しています。
「探究活動」自分に合う学びができるかが鍵
–志望校選びのアドバイスをお願いします。
高校では今、新学習指導要領が導入され、私立高校でも探究活動に力をいれ始めています。その背景には、今の子供たちの自立した学習や思考力、探究力を高める狙いがあります。ただ、今の子供たちが自分で考えることが苦手な世代であるのが前提で、それを解消するための探究学習の導入で、むしろミスマッチになる場合もあります。
文理学科を受ける利発な生徒ならば、どんな教育スタイルでもアジャストするでしょうが、振り回されるのはボリュームゾーンの生徒たち。実際に今、探究活動が少しずつ大阪の学校でも広まっていますが、探究の時間だけ授業を受けられないような生徒もおり、これは不登校のトリガーになる場合もあります。通信制高校が躍進しているのも、そうした子供たちの感受性の強さが根底にあるかもしれません。
生徒たちはディスカッションしてみなさいと言われると、利発な子は当然たくさんしゃべりますが、少し内向的な子は頷いているだけという図式になってしまいがちです。ですので探究活動に苦手意識をもつ子は、まず知識や世の中を知りましょうといったプログラムがあったうえで、それをお互いに共有する段階的なカリキュラムを組んでいるところを選ぶことが望ましいです。
このような段階になってくると当然、生徒自身だけで学校を選ぶことが難しくなってきますので、保護者と一緒に学校選びをすることが大切です。ですが、今の保護者世代も探究活動については良くわからないことが多いと思います。お子様とコミュニケーションをとる絶好の機会ととらえて、学校選びをぜひ楽しんでほしいと思います。もちろん、わからないことがあれば、塾の方でしっかりとサポートいたします。
–中学2年生へのアドバイスがあればお願いします。
大阪府は3月が一般の公立高校入試ですので、3年生になってから受験校の絞り込みを始めても遅くはありません。1、2年生から学校見学をするのであれば、どんな探究活動をやっていて、その探究活動が自分に合うのかを、学校選びの軸の1つに入れてほしいですね。また、文理学科の上位校を目指す場合は早くから英検2級取得のための学習を始めることが得策と言えるでしょう。
–子供の体調やスケジュール管理等、保護者の方々の心労も出てくるころだと思います。心構えやアドバイスをお願いします。
私たち第一ゼミナールは今、家庭学習を大事にする軸を持とうとしています。特にお母さん方は働いて帰ってきてもご家庭での仕事が多く、子供の勉強をスケジューリングするのも大変です。子供たちの勉強の環境を確保するために先日、オンライン自習室を開設しましたが、保護者にとても好評でした。
多くのご家庭が子育てに課題を抱えています。核家族化も進み、悩みを打ち明けられずに困ったままストレスを抱えて我慢する図式が定番化しているようです。私たちも教育アドバイザーを介在させ、お母さん方の労を認知し、少しでもストレスを軽減できる仕組みができないかと模索しています。家庭学習や子育ての心のあり方、子供に対するイライラをどうやって受け止めるか等を保護者と共有するさまざまなオンラインセミナーも開催し、大変好評です。
受験期に良い親子関係を保つために第三者の手を借りることは有効だと思います。さらに塾と保護者の関係性を強固にし、一緒に子育てができるような新しいスキームづくりに取り組み、お子様の学習と保護者のケアの両輪をサポートしていきたいと考えています。
–ありがとうございました。
「大阪の公立高校の入試制度は複雑ですが、その分、保護者の情報に対する感度や準備への意識も高いんです」と高澤氏は語っていた。親子の関係も難しくなる中、第一ゼミナールの保護者に対するサポートは心強い。子供を共に育てるという仕組みが今後、多くの親子の生きやすさにつながってほしい。
この冬、学習への取り組み姿勢を変える!第一ゼミの冬期講習会(小1~中3)
講習期間:2021年12月21日(火)~2022年1月7日(金)
第一ゼミの冬期講習会
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いまの自分の位置を知れば、すべきことが見えてくる。受験料無料、第一ゼミの公開テスト(小1~中3)
開催日:2022年1月8日(土)または1月9日(日)/自宅受験も可
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第1回 大阪府公立対策模試(中3)・文理学科10高模試(中1・2)
開催日:2021年12月5日(日)
大阪府公立対策模試(中3)・文理学科10高模試(中1・2)
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