アイドルが考える、健康な心と体[前編] – 音楽ナタリー

アイドルが考える、健康な心と体[前編]-–-音楽ナタリー 基本問題

YU-Mエンターテインメント所属タレントと代表の山田昌治。

根性論もチームワークも現代版にアップデート!タレント事務所・YU-Mが生理研修から学んだこと

2021年11月26日 19:00
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女性タレントが多く所属し、長時間のライブやプロレスなど激しい運動を伴うアイドルグループも抱えるYU-M(ヤム)エンターテインメント(以下、YU-M)。昨年、女性が自分らしく活躍できる社会を目指すプロジェクト「#NoBagForMe」へ同事務所に所属する和田彩花が参加したことをきっかけに、YU-M代表の山田昌治は所属タレントのヘルスケアに力を入れていくことを決意した。その一環として、所属アイドルやマネージャー全員で、ユニ・チャーム株式会社の生理用品ブランド「ソフィ」による企業向け研修プログラム「みんなの生理研修」に参加し、全社を挙げて生理への理解を深めようと乗り出した。芸能事務所が一丸となって同研修を受講するのは業界において初めてのこと。生理を知ることで男女間、さらに女性間の相互理解を促進していきたいという新たな取り組みである。

音楽ナタリーでは、「みんなの生理研修」を受けたYU-M所属タレントを中心に、“アイドルの生理と健康”をテーマにした座談会を実施した。参加メンバーは和田、ぱいぱいでか美アップアップガールズ(仮)の関根梓と鈴木芽生菜、アップアップガールズ(2)の鍛治島彩、アップアップガールズ(プロレス)のらく、そしてYU-M代表の山田。アイドル活動をするうえで自身の生理や健康とどのように向き合っているか、研修を経て自身の意識の中にどのような変化があったかなど意見を交わしてもらった。それぞれ異なるフィールドで活動している6名のアイドルたちは、自分たちの学びをとてもオープンに、そして語ることや学ぶことの大切さを懸命に話してくれた。

取材・/ 羽佐田瑶子 撮影 / 小財美香子 構成 / 瀬下裕理

生理の学びが圧倒的に足りていない。知ることで、自分にも周りにも優しくなれる

多くの女性が経験することなのに、まるで秘密であるかのように、積極的に会話が交わされてこなかった生理の話題。最近は、女性が抱えるさまざまな健康問題をテクノロジーの力で解決する取り組みを意味する“フェムテック”(「Female<女性>」と「Technology<技術>」を組み合わせた造語)という言葉が日本にも浸透し始めたり、SHELLYや指原莉乃ら著名人がYouTubeで生理にまつわるコンテンツを配信したりと、オープンな場で生理が話題に上がるようになってきている。が、誰もが生理についてフランクに話す機会はまだまだ少ない。ときには生理の重い症状に悩まされ、その症状のせいで仕事や学校に影響が出てしまい1人で解決できない問題に直面している女性が、今もまだたくさんいるというのに。ステージで激しく歌って踊り、一方で苦しんでいる姿をあまり表に出さないとされている女性アイドルたちは、この悩みをどのように乗り越え、自分の体と向き合っているのだろう。

「生理について詳しく勉強したのは、中学校の保健体育のみ」という人も多いのではないだろうか。思い返せば、あの頃はまだ経験が浅いため関心が低く、ほとんどの人が真剣に授業を受けていなかった気がする。男女でクラスを分けられ、「異性の体について詳しいのは恥ずかしいこと」というようなレッテルを貼られ、知らず知らずのうちに性について知ることをシャットダウンしていた可能性だってある。男性だったら「自分には関係ない」と、恥ずかしがって耳を塞いでいた人もいるかもしれない。

しかし、ほとんどの女性の体に毎月やってくる生理という現象は、想定外のことを体や心に引き起こすものだ。腰が鉛を背負ったように重たくなったり、理由はわからないけど些細なことにもイライラしてしまったり、その状況が何十年も続くなんて。生理の初心者だった中学生の頃には、ことの重大さに気付いていなかった。女性のパートナーや友人を持つ人も、一度は生理で苦しんでいる人の姿を見たことがないだろうか。14歳で、ハロー!プロジェクトのスマイレージ(現アンジュルム)のオリジナルメンバーとしてデビューした和田彩花は、「自分の人生に生理がどう影響するかなんて、10代から考えるのはすごく難しい」と話した。卒業後、ジェンダーやフェミニズムといった関心を寄せていた分野に関する発言の機会を増やした彼女は、女性がもっと自分らしくいられる社会を目指すユニ・チャーム主催の「#NoBagForMe」プロジェクトに参加し、生理を学び直す機会を得たことについて「すごく大切だった」と語る。

「中学校でも性教育は受けているはずなんですけど、記憶にうっすら残っているのは、先生が男女で教室を分けて、性教育に関するビデオを見せてくれたことだけ。生理が毎月一度やってくることはわかっているけれど、結婚と妊娠がリアルな年齢じゃないから、それが直接妊娠につながる可能性のある現象だということや、自分の人生に大きく影響を与えるかもしれないということまで全然想像できていませんでした。しかも、私の場合は活動に一生懸命で、自分と仲間の体やプライベートを大切にできていなかった。苦しい生理を耐えることが毎月の習慣になっていて、『我慢しよう』って思っちゃってましたね。

『#NoBagForMe』で学んだことは、たくさんあります。具体的な学びも大事だったけど、一番心に残ったのは、『学ぶことで自分の人生について考えられるんだ』ということ。私は出産したいのか? 仕事をしたいならいつまで何をしたいのか? アイドル活動をしている子だと、中学高校で学ぶ機会が少ない子もいると思うので、私たちだけじゃなくてみんなが改めて学ぶ機会を持てるといいと思います」(和田)

zetima(現アップフロントワークス)でのアルバイトからアップフロントエージェンシーに就職後、2001年にマネージャーの仕事を開始し、2016年に独立。そのキャリアの中でモーニング娘。やスマイレージをはじめ、20年以上にわたり多くの女性タレントをマネジメントしてきた山田は、和田が生理に関して知識を深めていく姿を見ながら、「和田でも知らないことがこんなにあるんだ」と驚いたという。

「僕は男性で自分の知識が足りないことはわかっていたけれど、和田は普段からこういうことに興味を持っていたし、常に考えているタイプ。そんな和田でも、『#NoBagForMe』を通じてこんなに学ぶんだ、という驚きがありました。ということは、僕の事務所に所属している女性アイドルやスタッフたちも生理について詳しく知らない可能性がある。男性マネージャーなんて、さらに知識がないだろうと思いました。僕は、物質的にというより、精神的に豊かになる情報はみんなで共有したいと思っているタイプなんですが、この生理研修で学べることは、男女関係なく、生きていくうえで絶対に知っておいたほうがいいことだと思って。『#NoBagForMe』を主催するユニ・チャームさんにお願いして、社内向けに生理研修をしてもらいました」(山田)

「みんなの生理研修」では、生理用品ブランド「ソフィ」担当者が月経の仕組みや生理痛、婦人科に行く目安、多様な生理アイテムの紹介など、基礎知識から最新の生理事情まで約1時間にわたって詳しいレクチャーを行う。講義のあとは、メンバーとマネージャーが3つのグループに分かれ、生理に関する悩みや対策についてざっくばらんに語り合うグループディスカッションも行われた。一方的な学びではなく、自身のエピソードも踏まえながら、決して答えや発言を強要することなく、事務所仲間とワイワイ学びを深めた機会。「生理のことを考える日なんて、初めてだった」とうれしそうに語るアップアップガールズ(仮)(以下、アプガ(仮))の鈴木芽生菜は、研修で学んだことをすぐに実妹にも共有したという。

「もともと経血量も多いし、生理痛には悩まされてきたほうでしたが、初めてあの場でショーツ型ナプキンの存在を知りました。吸水ショーツの存在は知っていたけど、それとは別でショーツとナプキンが一体化したものがあると教えてもらって、気になったので妹にも買ってあげたら『よかったよ』と喜んでもらえて。自分が学ぶことで、それを誰かに共有したら『あなたの味方だよ』と手を差し伸べることができるんだと思いました」(鈴木)

みんな一緒に学べたことで、話しやすい空気になった

誰かに話すことを躊躇してしまう感覚。長くソロアイドルとしても活動し、普段の生活の中で自分の意見をはっきり言うことができるタイプだというぱいぱいでか美は、男女関係なく「生理を恥ずかしいって思うのは、性教育が進んでなさすぎる」と指摘する。

「『シンクロフィット』(体に密着させるタイプの生理用品)が指原莉乃さんのYouTubeの影響でバズったり、SHELLYさんが生理に関するYouTube動画を投稿していたりしている今、私たちのようないわゆるアイドルと呼ばれるような人たちもしゃべっていくことで、生理は得体の知れない恥ずかしいもの、というイメージを払拭していきたいですよね。男性にとっては、女の子だけが集まって話す話題というイメージがあると思うんですよ。だけど、私は人と変なところで感覚がずれているので、生理を恥ずかしいと思ったことがない。学生時代に、生理痛がしんどくて机で突っ伏していたら、男子から『仲井(でか美の本名)、どうしたの?」って聞かれて。それに対して普通に『生理ー』みたいに答えたら、男子がギョッとしているのを見て、なんで?って思っていました。恥ずかしい気持ちもわかるけれど、生理痛は頭痛について話しているのと同じこと。男女ともに生理のことを正しく知るというのが、生理がタブー視されている空気を変えるきっかけになると思います」(でか美)

「生理の授業が男女で分けられてしまう時点で、話しちゃいけないことなんだなという空気になりますよね。それに、大人も子供にちゃんと話してくれないじゃないですか。もう少し気楽な気持ちで、『知ることが大事』というところに重きを置けるといいなと思います」(鈴木)

アップアップガールズ(プロレス)に所属する、らく。アイドルとしての活動だけでなく、プロレスラーとして東京女子プロレスの興行にレギュラー参戦し、日々リングの上に立っているため、活動における激しさを伴う運動量はアイドル界でも随一だ。しかし、プロレスラー同士でも生理について会話することは、これまでほとんどなかったと言う。

「試合中は、夢中になって生理のことは忘れちゃうんですけど、生理のときは試合前後に大変なことになってしまう場合も。一度、試合直前に衣装のパニエが真っ赤になってしまったことがあって、そのときはたまたまほかの子が持っていたサブのパニエを借りられたんですけど、恐る恐る相談した記憶があります。たとえ生理に関心があっても、急にその話を始めたらびっくりしちゃう子もいると思うんですけど、今回みんなで一緒に学べたことで、お互いにある程度知識があることがわかっているから、生理の話をしても不自然な空気にならないんじゃないかなって思いました。そうしたら、生理のことだけじゃなくて、自分の体のこともいろいろ話せる気がして。心を開こうという気持ちになれたのが、私はよかったです」(らく)

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